第4話『天駆ける星』
◇◇◇◇
城内の衛兵は不自然な程に少なかった。
殆どの者が、未だ襲撃に気付いてすらいない可能性も高い。
道中で出会した襲撃者を三人で打ち倒しながら、クロム達は一直線にエメリナの元を目指した。
襲撃者達は巧みに影に潜みながらこちらに襲い掛かってくるのだが、その程度ではルフレの目は誤魔化せる筈も無く。
ルフレの指示によって、危なげ無く襲撃者を撃退出来てしまう。
廊下には塁々と動けなくなった襲撃者達が転がり彼方こちらに血が飛んでいる。
朝になれば登城してきた文官達が大騒ぎしそうなモノではあるが、今はそんな事にはかかずらっていられない。
王族以外は滅多に立ち入り事もない内奥を駆けつけ、クロムは何とかエメリナの私室の前へと辿り着いた。
扉には荒らされた形跡は無いものの、いてもたってもいられずにクロムは些か乱暴にその扉を叩く。
「姉さんっ! 無事か……!!」
「ええ、私は無事です。
お入りなさい、クロム」
エメリナの声は些か緊張からか硬くはなっているが、負傷している様な様子もなく。
それに少し安堵しながらも、クロムは部屋へと入っていった。
ルフレとマルスは流石に憚ったのか、クロムとエメリナを戸口の方から見守っている。
「姉さん、賊の襲撃だ。
とにかくここは死守するから、危なくなったら秘密の抜け道から──」
逃げてくれ、と言おうとしたクロムを遮って、エメリナは首を横に振って答えた。
「クロム、ここは危険です……あなたたちだけでも、逃げなさい」
いきなりそんな事を言い出したエメリナに、クロムは流石に反論する。
「何を言ってるんだ姉さん!
ここは俺達が絶対に守りきってみせるから、安心してくれ」
そう言ってクロムは厳重に扉を閉め、二人へと向き直った。
「行くぞルフレ! 入り込んだ賊を掃討する!
マルスはこの部屋の扉を死守してくれ。
窓の方から入り込む可能性もあるから、そこも注意して欲しい。
頼めるな?」
「はい、必ずお守りします」
マルスは静かに決意を滲ませて頷き、ルフレも力強く頷く。
「任せて。うん、大丈夫。
賊が何処に居るのかはもう把握済み。
こんな奴等、一人残さず片付けて──」
だがクロムには感じ取れない“何か”を感じたのか、急に言葉を切って、ルフレは遠くを見詰めるその眼差しに険を宿らせる。
その緋色の右目が、一瞬強く強く輝いた様にクロムには見えた。
が、それは直ぐ様間近な場所で発生した別の光によって掻き消される。
「ファルシオンが、光ってる……?」
その場の誰もが驚いた様に光を放つそれを、マルスが持つファルシオンを見詰めるが。
最も驚いているのは、それを手にしているマルス自身であった。
「何だ?」
「わっ、分かりません……。
こんな事、一度も……。あっ」
そうこう言っている内に、ファルシオンの光は消え、廊下には再び薄い暗がりに支配される。
その光をジッと見ていたルフレはほんの僅かに首を傾げたが、何も言う事は無く。
結局誰もマルスのファルシオンが光った理由も意味も分からないので、取り敢えずは襲撃者の撃退に専念する事にする。
が、ルフレがふと「ん?」と首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「いや、誰かが新たに城内に侵入してきたみたいなんだけど、敵意とかは無さそうだし、敵……じゃないのかな……。
それに、何かちょっと変わっている気配だし……。
何だろ?」
首を傾げるルフレに、マルスが「あっ」と小さく溢した。
「知っているのか?」
「ええ、恐らく。
直接の面識はありませんが、ベルベットという名と、今夜エメリナ様をお助けする為にここへ駆けつける事は知っています」
「成る程、それもお前が知る“未来”……と言う事か。
姉さんを助ける為に来てくれたのなら、味方だな。
よし、ルフレ合流するぞ」
マルスの言葉に頷いたクロムは、ルフレを伴って駆け出したのであった。
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城内の衛兵は不自然な程に少なかった。
殆どの者が、未だ襲撃に気付いてすらいない可能性も高い。
道中で出会した襲撃者を三人で打ち倒しながら、クロム達は一直線にエメリナの元を目指した。
襲撃者達は巧みに影に潜みながらこちらに襲い掛かってくるのだが、その程度ではルフレの目は誤魔化せる筈も無く。
ルフレの指示によって、危なげ無く襲撃者を撃退出来てしまう。
廊下には塁々と動けなくなった襲撃者達が転がり彼方こちらに血が飛んでいる。
朝になれば登城してきた文官達が大騒ぎしそうなモノではあるが、今はそんな事にはかかずらっていられない。
王族以外は滅多に立ち入り事もない内奥を駆けつけ、クロムは何とかエメリナの私室の前へと辿り着いた。
扉には荒らされた形跡は無いものの、いてもたってもいられずにクロムは些か乱暴にその扉を叩く。
「姉さんっ! 無事か……!!」
「ええ、私は無事です。
お入りなさい、クロム」
エメリナの声は些か緊張からか硬くはなっているが、負傷している様な様子もなく。
それに少し安堵しながらも、クロムは部屋へと入っていった。
ルフレとマルスは流石に憚ったのか、クロムとエメリナを戸口の方から見守っている。
「姉さん、賊の襲撃だ。
とにかくここは死守するから、危なくなったら秘密の抜け道から──」
逃げてくれ、と言おうとしたクロムを遮って、エメリナは首を横に振って答えた。
「クロム、ここは危険です……あなたたちだけでも、逃げなさい」
いきなりそんな事を言い出したエメリナに、クロムは流石に反論する。
「何を言ってるんだ姉さん!
ここは俺達が絶対に守りきってみせるから、安心してくれ」
そう言ってクロムは厳重に扉を閉め、二人へと向き直った。
「行くぞルフレ! 入り込んだ賊を掃討する!
マルスはこの部屋の扉を死守してくれ。
窓の方から入り込む可能性もあるから、そこも注意して欲しい。
頼めるな?」
「はい、必ずお守りします」
マルスは静かに決意を滲ませて頷き、ルフレも力強く頷く。
「任せて。うん、大丈夫。
賊が何処に居るのかはもう把握済み。
こんな奴等、一人残さず片付けて──」
だがクロムには感じ取れない“何か”を感じたのか、急に言葉を切って、ルフレは遠くを見詰めるその眼差しに険を宿らせる。
その緋色の右目が、一瞬強く強く輝いた様にクロムには見えた。
が、それは直ぐ様間近な場所で発生した別の光によって掻き消される。
「ファルシオンが、光ってる……?」
その場の誰もが驚いた様に光を放つそれを、マルスが持つファルシオンを見詰めるが。
最も驚いているのは、それを手にしているマルス自身であった。
「何だ?」
「わっ、分かりません……。
こんな事、一度も……。あっ」
そうこう言っている内に、ファルシオンの光は消え、廊下には再び薄い暗がりに支配される。
その光をジッと見ていたルフレはほんの僅かに首を傾げたが、何も言う事は無く。
結局誰もマルスのファルシオンが光った理由も意味も分からないので、取り敢えずは襲撃者の撃退に専念する事にする。
が、ルフレがふと「ん?」と首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「いや、誰かが新たに城内に侵入してきたみたいなんだけど、敵意とかは無さそうだし、敵……じゃないのかな……。
それに、何かちょっと変わっている気配だし……。
何だろ?」
首を傾げるルフレに、マルスが「あっ」と小さく溢した。
「知っているのか?」
「ええ、恐らく。
直接の面識はありませんが、ベルベットという名と、今夜エメリナ様をお助けする為にここへ駆けつける事は知っています」
「成る程、それもお前が知る“未来”……と言う事か。
姉さんを助ける為に来てくれたのなら、味方だな。
よし、ルフレ合流するぞ」
マルスの言葉に頷いたクロムは、ルフレを伴って駆け出したのであった。
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