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第4話『天駆ける星』

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 王城へと戻り、正式にペレジアとの戦争が始まった事を知らせると、たちまち城内は蜂の巣を突ついた様な大騒ぎになった。
 当たり前だ。
 今のイーリスとペレジアでは、“戦争”なんかにはならない。
 待っているのは、ペレジアによる一方的なただの“虐殺”だ。
 かつての“聖戦”で、イーリスが当時のペレジアに何をしたのかよく知っている高官達はそれはもう大慌てであった。
 恐慌状態、と表現するべき有り様である。
 が、それでも何とか職務に邁進してくれたのは義務感からなのかそれともただ単に逃避をしているからなのかは分からないが。
 とにかく、軍備がないイーリス単独ではどうしようもない。
 そして、普段の腰の重さは何処に行ったのかと思う程可及的速やかに、フェリアの助勢を請う事が正式に決定したのだ。
 その為の早馬は直ぐ様統一フェリア王フラヴィアの元へと送られ、それを追う様にしてクロムが使者としてフェリアに急ぎ赴く様に命じられた。
 そして、エメリナ直々にリズもそれに随行する様に厳命されたのである。
 何時もなら何も言わずともリズならば付いていくであろうが、家族としてのお願いではなく聖王としての厳命だ。
 その意味は、リズにもよく理解出来てしまった。

 王都防衛の為の天馬騎士団は存在するが、彼等だけでは幾度かの襲撃は凌ぎ切れたとしても、残念ながら何時までもは守りきれない。
 そもそも補給線を維持出来ないのだから王都に籠城するしか無いのだが、イーリスの中でもかなりの人口が集中している王都で籠城なんかすればどんな結末が待っているのか、馬鹿でも想像がつく。
 天馬騎士団が死力を尽くして防衛しても、王都はそう長くは持たないのだ。
 ならば王都に辿り着かれるその前にペレジア軍の侵攻を止めなければならないのであるが、動かせる兵力が天馬騎士団だけでは話にならない。
 彼等が如何に精強な騎士達であろうと、絶対数が少なすぎる。
 例え一つの戦局ではペレジア抑え込めたのだとしても、多方面に展開されてしまっては打つ手がない。
 尤も、それは自警団にしても同じ事が言えるが。
 貴族達の多くは私兵を抱えては居るものの、彼等ではペレジアの侵攻の足取りを鈍らせる事は出来ても、それを食い止める事はほぼ不可能である。
 開戦の知らせを受けた国境沿いに領地を持つ貴族達は既に国境沿いに私兵を展開してはいるが、いざ本格的な侵攻が始まってしまえばあまりそう長くは持たないだろう。
 それだけの軍事力の差が、イーリスとペレジアにあるのだから。
 故にフェリアに頼るしかないのだが、それでも即座に駆け付けられる訳でもない。
 フェリアからの救援が間に合うか、王都が陥落するのが早いか。
 実際どうなるのかは分からないが、恐らくは後者の方が先であろう。
 王都陥落時に王都に残っていれば、聖王家の一員と言うだけでリズが処刑される可能性は高い。
 だからこそ、その命を守る為に。
 そして聖王家の血を絶やさぬ為にも、リズを王都に残す訳にはいかなかったのだ……。

 エメリナは既に半ば覚悟を決めていた。
 それはある意味で、自分の成した事への責任を取る意志であったのかもしれない。
 どんな事情があれ、十五年前に軍備を解体し、いざ戦争になれば王都を守る事すら出来ない今日の現状を招いた事への。
 次いでエメリナは、可能な限りの王都の民と、ペレジアが王都に侵攻してくる際の進軍路上に在る街や村の民を、ペレジアの侵攻の手が鈍るであろうイーリス東部へと避難させる様に勅令を出す。
 本来ならばこれも軍が責任を以て避難誘導しなければ、混乱が起き最悪暴動が起こってしまうものであるのだが、残念ながら今のイーリスには民の避難誘導に充てられる人員は少ない。
 なので、クロムが自警団の兵達を出してそれに当たらせる事となった。

 最早エメリナが行っているのは、陥落した時の被害を如何に抑えるか……と言う対策でしかない。
 だが、それも仕方がないのだ。
 守れない以上は、戦えない以上は、そこを目標に動くしかないのだから。

 ペレジアの軍靴の足音はもう既に迫ってきている。
 もう、あまり残された時間は無かった。




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