第2話『星舟を漕ぎ行けば』
◇◇◇◇
「そう言えば、あんたの所の軍師って、確かあんたが拾ってきたんだっけ?」
城の訓練所を借りてクロム達が剣の訓練をしていたところに、フラヴィアがふらりと現れてそこで手合わせをする事になったその後で。
流れ落ちる汗を拭いながら、フラヴィアがクロムにそう訊ねてきた。
「ああ、ルフレは記憶喪失で行き倒れていた所を俺達が見付けたんだ」
「はあ、成る程ねぇ。
全く、あんたも良い拾い物をしたもんだよ。
惜しいねぇ、もし行き倒れていたのがイーリスじゃなくてフェリアだったのなら、あたしが拾ってたかもしれないのに」
心底惜しむ様にそう言ったフラヴィアに、クロムは驚いた。
フラヴィアは卓越した歴戦の戦士であり、兵達からの信望も厚い王だ。
確かにルフレは有能極まりないが、フラヴィアがここまで惜しむ程の存在であるとは思ってもみなかったからだ。
「そんなにルフレは凄いのか?」
「そりゃあ凄いさ。
あんなに美しくも獰猛な獣の様な戦士は初めて見たよ。
しかも、ただの獣なんぞとは違って恐ろしい程に知恵も回るときたもんだ。
一回手合わせをしてみたが、こっちの喉笛を噛み千切らんとばかりのあの気迫には心底胆を冷やしたもんだよ。
戦場に立ったあの子はさぞ、恐ろしくも惚れ惚れする程に美しいだろうね」
本当に惜しい、とフラヴィアはそう言う。
クロムは言葉には出さないものの、驚いた。
イーリスでルフレと手合わせした事は幾度もあるが別段そんな殺気染みた気迫を向けられた事など一度たりとも無いし、屍兵や賊の討伐の時だってまるで獲物を狩る獣の様だとは思いはしたがそんな恐ろしさを感じた事はない。
だからフラヴィアのその言葉には今一つ共感は出来なかった。
だが、その様な事でフラヴィアが態々ルフレを過大評価してくる意味など無いし、フラヴィア程の戦士が相手の力量を見誤るとも思えない。
しかし……。
「まあ、あの子は随分とあんたには懐いているみたいだからね、あんた相手の手合わせであんな風にはならないだろうよ。
それにあんたらが今まで実戦で相手してきた連中は、あんたらからすれば格下に近い奴等だろうし、窮地って言うのかね?まあそう闘志を剥き出しにして戦う程の事は無かったんだろうさ」
そうカラカラと快活にフラヴィアは笑う。
そう言われればそうなのかもしれないが……。
「しっかし、何をしたらあんなに懐かれるんだい?」
「……俺にも分からん。
ルフレは出会った時からああだったからな」
理由を説明出来るのなら良いのだが、何せルフレはクロムに対しては出会った時から完全に気を許しているのだ。
クロムの次に気を許している様に見えるリズやフレデリクにすら踏み込ませない一線の先をクロムにだけは許しているし、それ所かルフレの方からやって来るのである。
獣に嫌われる質でも無いのだが、別段リヒトなどの様に好かれまくる事も無い為、クロムに獣に好かれる要素があるからルフレが懐いている訳ではないのだろうけれども。
正直この件に関しては考えた所で考えるだけ無駄だろうともクロムは思っている。
何か不利益が発生しているならば何かしらの対応が必要となるが、懐かれている事には何の問題もないのだから。
「へぇ、何と言うのか不思議な事もあったもんだね。
多分、あの子は野の獣みたいに相当警戒心が強い質の子だよ。
その上で、目の前の相手をどう倒すべきなのかそれともどう逃げるべきなのか、常に冷静に考え続けている。
いやはや、あんなに面白い良い子を拾ったどころかあそこまで懐かれているなんて、あんたが羨ましくなっちまうよ。
……さて、そろそろ仕事を片付けなきゃね。
手合わせに付き合ってくれて感謝するよ」
フラヴィアはそう言って、訓練所を後にしたのだった。
◇◇◇◇
「そう言えば、あんたの所の軍師って、確かあんたが拾ってきたんだっけ?」
城の訓練所を借りてクロム達が剣の訓練をしていたところに、フラヴィアがふらりと現れてそこで手合わせをする事になったその後で。
流れ落ちる汗を拭いながら、フラヴィアがクロムにそう訊ねてきた。
「ああ、ルフレは記憶喪失で行き倒れていた所を俺達が見付けたんだ」
「はあ、成る程ねぇ。
全く、あんたも良い拾い物をしたもんだよ。
惜しいねぇ、もし行き倒れていたのがイーリスじゃなくてフェリアだったのなら、あたしが拾ってたかもしれないのに」
心底惜しむ様にそう言ったフラヴィアに、クロムは驚いた。
フラヴィアは卓越した歴戦の戦士であり、兵達からの信望も厚い王だ。
確かにルフレは有能極まりないが、フラヴィアがここまで惜しむ程の存在であるとは思ってもみなかったからだ。
「そんなにルフレは凄いのか?」
「そりゃあ凄いさ。
あんなに美しくも獰猛な獣の様な戦士は初めて見たよ。
しかも、ただの獣なんぞとは違って恐ろしい程に知恵も回るときたもんだ。
一回手合わせをしてみたが、こっちの喉笛を噛み千切らんとばかりのあの気迫には心底胆を冷やしたもんだよ。
戦場に立ったあの子はさぞ、恐ろしくも惚れ惚れする程に美しいだろうね」
本当に惜しい、とフラヴィアはそう言う。
クロムは言葉には出さないものの、驚いた。
イーリスでルフレと手合わせした事は幾度もあるが別段そんな殺気染みた気迫を向けられた事など一度たりとも無いし、屍兵や賊の討伐の時だってまるで獲物を狩る獣の様だとは思いはしたがそんな恐ろしさを感じた事はない。
だからフラヴィアのその言葉には今一つ共感は出来なかった。
だが、その様な事でフラヴィアが態々ルフレを過大評価してくる意味など無いし、フラヴィア程の戦士が相手の力量を見誤るとも思えない。
しかし……。
「まあ、あの子は随分とあんたには懐いているみたいだからね、あんた相手の手合わせであんな風にはならないだろうよ。
それにあんたらが今まで実戦で相手してきた連中は、あんたらからすれば格下に近い奴等だろうし、窮地って言うのかね?まあそう闘志を剥き出しにして戦う程の事は無かったんだろうさ」
そうカラカラと快活にフラヴィアは笑う。
そう言われればそうなのかもしれないが……。
「しっかし、何をしたらあんなに懐かれるんだい?」
「……俺にも分からん。
ルフレは出会った時からああだったからな」
理由を説明出来るのなら良いのだが、何せルフレはクロムに対しては出会った時から完全に気を許しているのだ。
クロムの次に気を許している様に見えるリズやフレデリクにすら踏み込ませない一線の先をクロムにだけは許しているし、それ所かルフレの方からやって来るのである。
獣に嫌われる質でも無いのだが、別段リヒトなどの様に好かれまくる事も無い為、クロムに獣に好かれる要素があるからルフレが懐いている訳ではないのだろうけれども。
正直この件に関しては考えた所で考えるだけ無駄だろうともクロムは思っている。
何か不利益が発生しているならば何かしらの対応が必要となるが、懐かれている事には何の問題もないのだから。
「へぇ、何と言うのか不思議な事もあったもんだね。
多分、あの子は野の獣みたいに相当警戒心が強い質の子だよ。
その上で、目の前の相手をどう倒すべきなのかそれともどう逃げるべきなのか、常に冷静に考え続けている。
いやはや、あんなに面白い良い子を拾ったどころかあそこまで懐かれているなんて、あんたが羨ましくなっちまうよ。
……さて、そろそろ仕事を片付けなきゃね。
手合わせに付き合ってくれて感謝するよ」
フラヴィアはそう言って、訓練所を後にしたのだった。
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