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第2話『星舟を漕ぎ行けば』

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 屍兵の問題への対処やその他諸々の為に、フェリアと同盟を結ぶ事がイーリス上層部で正式に決定された。
 そして、同盟締結の特使としてクロムがフェリアへと派遣される事もだ。
 本来ならば国と国との同盟なのだから王であるエメリナが向かうべきなのかもしれないが、今のこの情勢下では聖王自らが迂闊に動く事は出来ない。
 先の戦争から消えぬ怨恨を抱き続け、その報復の為に常にイーリスの隙を窺っているペレジア辺りからどんな勘繰りを受けるか分かったモノでは無いからである。
 故に、王弟として王位継承権の第一位でありイーリスの要人中の要人とも言えるクロムを、フェリアに派遣する事になったのだ。

 そんな訳で、クロムは自警団の中から何人かを引き連れてフェリアに向かう事となった。
 実家のテミス伯領での仕事がある為に領地に戻らざるを得なかったマリアベルや、まだ幼いし長旅は堪えるだろうとの事で外されたリヒト以外は概ね主だった仲間たちは同行する事を志願して。
 使節団としてはやや小規模ながらもクロム達は一路フェリアを目指して旅立ったのだった。



 道中で屍兵の討伐や賊の掃討なども行いつつ、国境の関所では若干一悶着があったものの、大過なくクロム達はフェリアの東の王都に辿り着き、東のフェリア王であるフラヴィアに謁見する事が叶った。
 だがしかし、フラヴィアは今はイーリスとの同盟を結べないのだとクロムに説明した。

 曰く、アカネイア大陸の北部に雪と氷に閉ざされた東西に横長の国土を持つフェリア連合王国は、代々東と西に各々に王を立てているのだと言う。
 そして、他国との取り決めなどを行えるのは、数年に一度開かれる東西の王の代理闘争にも当たる闘技大会での勝者側であり、その者がフェリア統一王として同盟やら戦争やらの指揮を取るのだとか。
 故に、前回の闘技大会では敗北を喫したフラヴィアには、他国との同盟を結ぶ権限が無いのだ、とも。

 農耕地が極めて限られているフェリアでは外貨獲得の為に傭兵業が極めて盛んである。
 古の英雄王マルスの時代にこの地に居たとされる蛮族の流れを汲むフェリアの人々は、何処か荒っぽく腕っぷしを頼りに生きていく者が多い。
 故に、フェリアでは『戦う力』こそが何よりも尊ばれ強い者ほど敬意を示される、そもそも王位ですら血統によるモノでは無くその武力を以て手に入れるものなのである。
 だからこそ、国を統治する者としての権限を闘技大会と言う形で奪い合うのだ。
 戦士の国、と称されるのも道理であろう。
 事実、『力』を示したクロム達はイーリスからの特使であると言う事以上の歓待を受けているのであった。

 だが、それ故にクロムとしてはやや困った事態が発生していた。

 何と、東の代表として近々行われる事になる闘技大会にクロム自警団が出る事になったのだ。
 曰く、あまりフェリア王自身に縁が無い者の方が翁と王の代理戦争でもある闘技大会の代表には良いのだそうだ。
 それが他国の王族と言うのは流石に前例が無い事なのだそうだが、何せフラヴィアが用意するつもりだった代表者よりもクロムの方が腕が立つらしい。
 前回は負け越しているだけに、今回の闘技大会にフラヴィアがかける意気込みは並々ならぬモノであった。
 だからこそ、これを好機としてクロム達に代表として出場する事を依頼したのである。

 ここでクロムが代表として勝ち抜けば、確実にフェリアに恩を売りイーリスにとってもより良い条件で同盟を結べるだろう。
 だがしかし、特使として派遣されたのに剣闘士として闘技大会に出てしまって良いものなのだろうか……。
 フラヴィアは勿論問題にはしないだろうが、イーリス国内やペレジア辺りで問題視されそうな気もするのだ。
 だが色々と悩みはしたものの、クロムとしてはここで断る訳にはいかず。
 故に代表を引き受けたクロムは、闘技大会が始まるまでの暫しの時間を東のフェリア王城で過ごす事となったのであった。




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