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第1話『星を見付けた日』

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「クロム様!」


 ふと、フレデリクの焦った様な叫び声がクロムの耳朶を打つ。

 建物の陰に潜み機を伺っていた賊の接近に気付けず、クロムは背後を取られてしまっていたのだ。
 咄嗟にファルシオンを構えようにも、もう間に合わない。
 振り下ろされる斧に、せめて致命傷だけは避けようと、利き腕では無い左手を犠牲にする覚悟で受け身を取ろうとして。

 だが、その次の瞬間には。

 クロムに襲い掛かろうとする賊の背後に、頭上から黒い影が降る様に覆い被さった。
 そしてそのまま、賊は悲鳴一つ上げる事すらも無く、その首と胴が別たれる。
 何が起きたのかも分からぬままに落とされた賊の首が、石畳に跳ねて転がった。
 崩れ落ちる賊の身体を蹴って軽やかに着地した黒い影は、そのまま軽い足取りでクロムへと駆け寄る。


「良かった、間に合って。
 怪我はしてないと思うけど、大丈夫?」


 流れる様に鮮やかな一閃で賊の首を刈り取ったばかりの、血糊にべっとりと塗れた剣を軽く振ってその汚れを落としながら、ルフレは緋と金に輝く瞳にクロムを映して軽く首を傾げた。


「ああ大丈夫だ。有り難う、助かった」


 そう答えると、ルフレは「良かった!」と嬉しそうに笑う。
 そして、そのまま「じゃあ、あたしはあっちを片付けてくるね!」と軽やかに走り去った。

 賊との戦闘が始まって程無くして、既に半数近くの賊がルフレの手によって倒されている。
 クロムとフレデリクで倒した分も含めると、もう賊も殆ど残ってはいないだろう。


 大丈夫だと宣言した通りに、ルフレは確かに戦う事が出来ていた。
 しかも、精々護身用の武術に毛が生えた程度だろうと思っていたクロムの予想を遥かに大きく裏切る形で。

 剣術の型には当てはまらないが、その剣は素早く正確無比に相手の急所を狙い。
 その魔法は恐ろしい程の速さと正確さで相手を貫く。
 背後からの攻撃すらも、その素早い動きの前には掠りもしない。
 一瞬で敵の懐に潜り込んでは、一刀の元に切り伏せるその様は、まるで獲物を次々と屠ってゆく獰猛な獣の様であった。

 しかもルフレは賊達の動きや武装などを手に取る様に把握しているらしく、クロムが有利に戦える様に指示を出しながら、それと同時に戦っているのである。
 それはまさに、クロムが求めていた“軍師”の才能に近しいものであった。




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