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第5話『星は輝けども地には光届かず』

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 公開処刑場の周囲は巨大な崖になっていて、その崖に張り出す様にして処刑台が設けられている。
 そして、その崖を取り巻くようにして、何なのかは分からないがとてつもなく大きな生き物の化石が世界を威圧する様に眠っていた。
 それはかつて初代聖王によって討たれたギムレーの遺骸だと、そうペレジアには伝わっているらしいのだが、それが真実であるのかは最早誰も知らない。
 よしんばそれが真実であろうとなかろうと、その遺骸が動き出す様な事はなく。
 それは最早ただの巨大な岩山と大差ない存在であった。

 処刑場前には多くの民衆が所狭しと詰めかけ、憎き聖王の無惨な最期を拝むべく、その瞬間を今か今かと待ち受けていた。
 恐らくはペレジア各地から集まってきたのであろう彼等は、一種の異様な……怨念の様な昏い情念を隠す事も無く聖王へとぶつけよつとしている。
 そんな異質な熱気は、処刑場内部にも届いているのであった。

 今日この場の守りを任されたペレジア軍の兵士達は、ペレジア軍の中でも特にイーリスへの怨恨が強い者達ばかりだ。
 その多くは、親兄弟や恋人や伴侶や子……そう言った家族を“聖戦”やその後の混乱により喪った者達である。
 だからこそ、聖王の最期をこの目に焼き付けてやろうと、処刑場防衛の任を志願したのだ。
 更に言えば、エメリナの救出の為にイーリスの王子たちが現れる可能性もあったのも大きい。
 かつて自分達がそうされた様に今度は聖王からその家族を奪ってやろうと……そんな昏い欲望を抱きながら、彼等は処刑の時を待ち続けた。

 そして、その時はやって来た。

 聖王が処刑場に到着した合図が出される。
 後は、罪人の様に追い立てられた聖王が、処刑台を登れば漸く全てが終わる。
 十五年間抱き続けてきた憎悪が、漸く薄れるのだ。
 この場に集った誰もがみな、その瞬間を待ちわびていた。

 そんな時、処刑場の外から敵襲を受けたとの緊急の報せを受ける。
 予期されていた通り、イーリスの王子が姉を助けに来たのだろう。
 今の今まで何処に潜伏しているのか一切の情報は無かったが、来ると分かっていたが故に迎撃の準備は万全であった。
 程無くして外の警備隊達に鎮圧されるであろうと……そう、思っていたのだが。


「報告します!
 イーリス軍によって既に警備隊に甚大な被害が出ております……!
 更には、フェリア軍と思しき勢力からの攻撃も……!
 死傷者多数、現在救護班への搬送もままなりません!
 増援を要請します!」

「警備隊は竜騎士30騎を含めて150名は居た筈だぞ……!
 一体イーリス軍は、フェリア軍は何十名で攻めてきたと言うんだ!」

「イーリス軍は凡そ20名、フェリア軍もその程度かと……!
 特にイーリス軍の進攻速度は凄まじく、応援に向かった者達が尽く返り討ちにされている様です!」

「イーリス軍は化け物でも飼っているのか……!?
 止むを得ん、処刑場外に待機中の竜騎士を増援として出せ!
 一気に囲んで叩き潰してやれ!」


 余程の手練れがイーリス軍に居たのか、それとも余程の策士が紛れ込んでいたのか。
 エメリナを救出しに来たイーリス軍によって、処刑場周辺を防衛していた警備隊達は壊滅寸前の大損害を受けていた。
 ありったけの増援を呼んで叩き潰そうとするも、それすらもイーリス軍は寡兵にも関わらず尽くを返り討ちにしてゆくのだ。
 最早、人間と戦っているのでは無く、人智を超えた人の身には余る何かと対峙しているのではないかと、被害報告を受けながら防衛の指揮を執っていたポモドーロは思った。

 思わしくない戦況に最早自らが打って出るまでと決断し、ポモドーロが武器を手にイーリス軍の方へと向かおうとしたその時。
 遠くで雷鳴が轟いた様な気がして、ポモドーロは一瞬そちらに気を取られてしまった。
 そしてその直後に、強大な何かに身を貫かれ、ポモドーロは絶命する。
 最期にその耳に届いたのは、空を裂いて鳴く雷霆の轟音であった……。




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