第1話『星を見付けた日』
◇◇◇◇
その街は何の変哲も無い、極一般的な街であった。
王都からは比較的近い場所にあり、商業路の本流からは外れているものの街道も確りと通っている。
その為、その街はイーリス国内全体の中では平均以上には発展し、そこそこの活気のある街であった。
街の中心では毎日の如く市が開かれ、質素ながらも立派な教会では信徒達が日々祈りを捧げる。
そんな、何処にでもある平和な街であった。
だがしかし。
クロム達が街に辿り着いた時には、既に幾つかの建物には火が放たれ、木材の焼ける焦げ臭い匂いが辺りに充満していた。
市場が開かれていたのであろう通りには、屋台の残骸や踏み荒らされた売り物が無惨にも転がり、所々に血溜まりが落ちている。
街の人々の姿は、何処にも見当たらない…………。
「くそっ! 間に合わなかったのか!?
街の人達は、無事なのかっ!?」
最悪の状況が頭に過り、クロムは焦りを隠さずにそう声を荒げる。
付近に賊が居ないかどうか、武器に手を掛けながら警戒するフレデリクも、そこにあったであろう平和が無惨にも壊された光景に、痛ましげな表情を浮かべた。
そんな二人に。
「死臭は殆どしないし、血の臭いもそんなには無いから、怪我人は沢山いるだろうけど、多分死んだ人はまだ少ないと思う。
街の人達は多分、あっちにあるあの大きな建物の方に沢山いるみたい。
あ……でも、逃げ遅れたのかな……そこからは離れた所にいる人も何人かいる……。
それと、街の中心部の方に、武器を持った人たちが二十人位いるみたい。
その人達が、えっと、賊?なんじゃないかな」
リズと一緒に付いてきたルフレがそう答える。
街の人達が逃げ込んでいるとルフレが指差したのは、ナーガ教の教会だ。
成る程、有事の際にそこに逃げ込む可能性は大いに有り得る。
が、そんな事を直接見てもないのに言い切ったルフレに、リズは仰天して思わず聞き返した。
「えっ、そんな事分かるの!?」
「うん、気配とか臭いとか音がするし、ここからでも何と無くなら……。
あ、でも流石に誰がどんな武器を持っているのかとかは、ちゃんと見ないと分からないけど」
何と無く、と言いながらもルフレに自信なさげな様子はない。
もしルフレの言っている事が正しいのであれば、それは最早異能と呼んでも差し支えない程の能力ではあるが。
判断する為の材料が、まるで野生の獣のソレと同じである様に思えるのはクロムの気の所為では無いのだろう。
「ルフレさんの言っている事の是非はさておき。
賊がまだ残っているのならば、これ以上の被害を抑える為にも、賊を掃討しなければなりませんね」
「ああ、そうだなフレデリク。
しかし、賊は二十人か……。
二人で相手をするには少々骨が折れるな……」
クロムもフレデリクも賊ごときに遅れを取る様な事は無いものの、数の不利は如何ともしがたい。
しかもリズとルフレの二人を守りながらの戦いである。
苦戦を強いられる可能性は高い。
難しい顔をするクロム達に、待って!とルフレは声を掛けた。
「あたしもクロムと一緒に戦う!」
「ルフレ、お前……戦えるのか?」
「うん、多分大丈夫。
戦えるって、そんな気がするから」
ルフレが武器を所持しているのは知っている。
が、それは旅人の護身用の武器として極めて一般的な低価な魔道書と剣であり、戦う事を生業とする者の装備では無く。
更に言えばルフレは記憶喪失の身である。
本当に大丈夫なのかと、クロムは思ってしまうのだが、大丈夫だと力強く頷かれてはあまり強く否定は出来ない。
それに、今は少しでも戦力が欲しい所なのである。
まあ、もし無茶をしそうになっていたら止めればいいか、とその時のクロムは思っていたのであった。
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その街は何の変哲も無い、極一般的な街であった。
王都からは比較的近い場所にあり、商業路の本流からは外れているものの街道も確りと通っている。
その為、その街はイーリス国内全体の中では平均以上には発展し、そこそこの活気のある街であった。
街の中心では毎日の如く市が開かれ、質素ながらも立派な教会では信徒達が日々祈りを捧げる。
そんな、何処にでもある平和な街であった。
だがしかし。
クロム達が街に辿り着いた時には、既に幾つかの建物には火が放たれ、木材の焼ける焦げ臭い匂いが辺りに充満していた。
市場が開かれていたのであろう通りには、屋台の残骸や踏み荒らされた売り物が無惨にも転がり、所々に血溜まりが落ちている。
街の人々の姿は、何処にも見当たらない…………。
「くそっ! 間に合わなかったのか!?
街の人達は、無事なのかっ!?」
最悪の状況が頭に過り、クロムは焦りを隠さずにそう声を荒げる。
付近に賊が居ないかどうか、武器に手を掛けながら警戒するフレデリクも、そこにあったであろう平和が無惨にも壊された光景に、痛ましげな表情を浮かべた。
そんな二人に。
「死臭は殆どしないし、血の臭いもそんなには無いから、怪我人は沢山いるだろうけど、多分死んだ人はまだ少ないと思う。
街の人達は多分、あっちにあるあの大きな建物の方に沢山いるみたい。
あ……でも、逃げ遅れたのかな……そこからは離れた所にいる人も何人かいる……。
それと、街の中心部の方に、武器を持った人たちが二十人位いるみたい。
その人達が、えっと、賊?なんじゃないかな」
リズと一緒に付いてきたルフレがそう答える。
街の人達が逃げ込んでいるとルフレが指差したのは、ナーガ教の教会だ。
成る程、有事の際にそこに逃げ込む可能性は大いに有り得る。
が、そんな事を直接見てもないのに言い切ったルフレに、リズは仰天して思わず聞き返した。
「えっ、そんな事分かるの!?」
「うん、気配とか臭いとか音がするし、ここからでも何と無くなら……。
あ、でも流石に誰がどんな武器を持っているのかとかは、ちゃんと見ないと分からないけど」
何と無く、と言いながらもルフレに自信なさげな様子はない。
もしルフレの言っている事が正しいのであれば、それは最早異能と呼んでも差し支えない程の能力ではあるが。
判断する為の材料が、まるで野生の獣のソレと同じである様に思えるのはクロムの気の所為では無いのだろう。
「ルフレさんの言っている事の是非はさておき。
賊がまだ残っているのならば、これ以上の被害を抑える為にも、賊を掃討しなければなりませんね」
「ああ、そうだなフレデリク。
しかし、賊は二十人か……。
二人で相手をするには少々骨が折れるな……」
クロムもフレデリクも賊ごときに遅れを取る様な事は無いものの、数の不利は如何ともしがたい。
しかもリズとルフレの二人を守りながらの戦いである。
苦戦を強いられる可能性は高い。
難しい顔をするクロム達に、待って!とルフレは声を掛けた。
「あたしもクロムと一緒に戦う!」
「ルフレ、お前……戦えるのか?」
「うん、多分大丈夫。
戦えるって、そんな気がするから」
ルフレが武器を所持しているのは知っている。
が、それは旅人の護身用の武器として極めて一般的な低価な魔道書と剣であり、戦う事を生業とする者の装備では無く。
更に言えばルフレは記憶喪失の身である。
本当に大丈夫なのかと、クロムは思ってしまうのだが、大丈夫だと力強く頷かれてはあまり強く否定は出来ない。
それに、今は少しでも戦力が欲しい所なのである。
まあ、もし無茶をしそうになっていたら止めればいいか、とその時のクロムは思っていたのであった。
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