第10話『星降る夜に願う事』
◇◇◇◇◇
腐敗していた官吏達の大半を一掃した事で復興への動きはますます滞りなく進み、そう遠くない内にペレジアとの戦争が始まる前に近い状態にまで持ち直せるであろう。
戦後処理も殆どが終わり、ここからが踏ん張り時ではあるのだがそれでも一息吐きたくなる。
執務室のバルコニーへと出ると、外はもう日が落ちて月と星の光が地を照らし、眼下に見える王都の街並みは灯された明かりで輝いている。
まだ先の戦の爪痕は完全には消えてはいないが、それでも復興が進み始めた街並みは元の活気を取り戻しつつある。
街行く人々の顔も、不安や怯えに彩られたモノから明るく活気に満ちたモノへと変わりつつあり、人々には希望が再び芽生えていた。
ここまで来るのに半年に近い時間が掛かってしまったが、それでも辿り着けたのだ、と。
エメリナが遺した国を、ちゃんとこうやって元の姿に戻し……そしてより良くしていけるのだろうと。
そう思うと、酷く感慨深いモノをクロムは感じた。
「お疲れ様、クロム。
さっきそこでフレデリクからお茶を貰ってきたんだけど、要る?」
そんなクロムに、重要な案件を片付ける為にまだ王城に残っていたルフレが声を掛ける。
その手には、紅茶の入ったポットとティーカップがある。
「ああ、すまんな」
「別にこれ位の事、気にしないで良いわ」
そう言いながら、手慣れた手付きで二つのティーカップへと紅茶を注ぎそれを手にしてクロムの隣にやって来る。
右手に持っていた方をクロムに手渡すと、ルフレは一口その紅茶を飲んだ。
「うん、流石はフレデリク。
美味しいお茶だわ。
……今夜も綺麗な夜空ね」
夜空を見上げてそう沁々と言うルフレに、そうだなとクロムは頷きそして紅茶を一口飲む。
フレデリクが用意したそれは、確かに美味しい。
「なあ、ルフレ。
本当に、お前には世話になってばかりだな……」
ポツリと、そう感慨深くクロムがそう言うと。
ルフレは唐突なその言葉に驚いた様に幾度か瞬きをした。
「えっ、どうしたの急に。
何かあったの?」
「……いや、ここまで来るのに、俺だけでは何も出来なかった。
ルフレやフレデリク達が居てくれたから……。
そう思うとな、改めて礼を言っておきたかったんだ」
ペレジアとの戦争の時も、そして今イーリスを復興させているその最中でも。
クロムを支えてくれる人達がいなければ、恐らく殆ど何も出来なかっただろう。
街は未だ戦禍の爪痕に苛まれていただろうし、民の苦しみはそれだけ長引いていたであろう。
「クロムらしいわね。
でもね、ここまで皆が頑張ってこれたのは、クロムと言う旗印があってこそ。
クロム独りじゃ何も出来なかったのかもしれないけれど、クロムが居なきゃ何も始められなかった。
それに、何でもかんでも独りで出来る人なんて居ないんだし、自分独りじゃ出来ない事はそれが出来る周りの誰かに任せるのは当然の事。
クロムはそれが出来る生き方をしてきたんだし、それで良いじゃない。
誰かを信じて任せる事が出来るのは一つの美徳だもの」
そう言ってルフレは残った紅茶を一気に飲み干し、空になったティーカップを手の中で弄びながら続ける。
「それにね、まあ自分でこう言うのは何だけど、身許不詳でそれまでの経歴も不明、更には自称記憶喪失……なんて胡散臭い人間をこうも信頼するなんて普通は無理だと思う。
でもクロムは違った。
あたしに居場所をくれたし、あたしをその傍に居させてくれている。
王城は正直、あたしにとっては居心地が良い場所じゃないけれど……。
それでも、クロムの傍は居心地が良いの。
だから、クロムがあたしを望むなら、そしてあたしがクロムの力になれるのなら。
あたしは、何だってする。
だってあたしはクロムの“半身”だから」
そう言って微笑んで、ルフレはふわっと身軽にバルコニーの手摺に腰掛けた。
権力だの地位だの財産だのに縛られてそれを求める亡者みたいになってまで争い続ける官吏達を馬鹿馬鹿しいと切って捨てるルフレにとっては、王城に留まる理由などクロムの存在以外には無い。
だが、クロムがそこに居るから、そしてそこでクロムが戦っているから。
だからルフレはクロムの傍に居るのだし、そしてクロムが求めるならばそれに応え続ける。
ルフレはクロムの“半身”として、クロムの願いを叶えようとしてくれるのだ。
その信頼に、献身に、無欲と言っても良いルフレがただ一つ抱く純粋なまでの願いに、クロムはどうすれば十全に応えてやれるのであろう。
その方法は分からないが。
それでも、クロムはどんな時でもルフレを信頼するし、傍に居て欲しい。
それはクロムの願いでもあり、ルフレの願いでもある。
「そうまで言われてしまってはその信頼に応えるしか無いな」
「そうね、一緒に頑張りましょ。
クロムが描いた理想を、あたしにも見せてね」
二人して微笑み、信頼の証を確める様にお互いに拳をそっと触れ合わせた。
クロムが描いた理想の国をルフレに見せてやれる日はそう遠くは無い筈だと、クロムはそう確信している。
復興と言う夜明けは、もう直ぐ其処までやって来ていたのであった。
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腐敗していた官吏達の大半を一掃した事で復興への動きはますます滞りなく進み、そう遠くない内にペレジアとの戦争が始まる前に近い状態にまで持ち直せるであろう。
戦後処理も殆どが終わり、ここからが踏ん張り時ではあるのだがそれでも一息吐きたくなる。
執務室のバルコニーへと出ると、外はもう日が落ちて月と星の光が地を照らし、眼下に見える王都の街並みは灯された明かりで輝いている。
まだ先の戦の爪痕は完全には消えてはいないが、それでも復興が進み始めた街並みは元の活気を取り戻しつつある。
街行く人々の顔も、不安や怯えに彩られたモノから明るく活気に満ちたモノへと変わりつつあり、人々には希望が再び芽生えていた。
ここまで来るのに半年に近い時間が掛かってしまったが、それでも辿り着けたのだ、と。
エメリナが遺した国を、ちゃんとこうやって元の姿に戻し……そしてより良くしていけるのだろうと。
そう思うと、酷く感慨深いモノをクロムは感じた。
「お疲れ様、クロム。
さっきそこでフレデリクからお茶を貰ってきたんだけど、要る?」
そんなクロムに、重要な案件を片付ける為にまだ王城に残っていたルフレが声を掛ける。
その手には、紅茶の入ったポットとティーカップがある。
「ああ、すまんな」
「別にこれ位の事、気にしないで良いわ」
そう言いながら、手慣れた手付きで二つのティーカップへと紅茶を注ぎそれを手にしてクロムの隣にやって来る。
右手に持っていた方をクロムに手渡すと、ルフレは一口その紅茶を飲んだ。
「うん、流石はフレデリク。
美味しいお茶だわ。
……今夜も綺麗な夜空ね」
夜空を見上げてそう沁々と言うルフレに、そうだなとクロムは頷きそして紅茶を一口飲む。
フレデリクが用意したそれは、確かに美味しい。
「なあ、ルフレ。
本当に、お前には世話になってばかりだな……」
ポツリと、そう感慨深くクロムがそう言うと。
ルフレは唐突なその言葉に驚いた様に幾度か瞬きをした。
「えっ、どうしたの急に。
何かあったの?」
「……いや、ここまで来るのに、俺だけでは何も出来なかった。
ルフレやフレデリク達が居てくれたから……。
そう思うとな、改めて礼を言っておきたかったんだ」
ペレジアとの戦争の時も、そして今イーリスを復興させているその最中でも。
クロムを支えてくれる人達がいなければ、恐らく殆ど何も出来なかっただろう。
街は未だ戦禍の爪痕に苛まれていただろうし、民の苦しみはそれだけ長引いていたであろう。
「クロムらしいわね。
でもね、ここまで皆が頑張ってこれたのは、クロムと言う旗印があってこそ。
クロム独りじゃ何も出来なかったのかもしれないけれど、クロムが居なきゃ何も始められなかった。
それに、何でもかんでも独りで出来る人なんて居ないんだし、自分独りじゃ出来ない事はそれが出来る周りの誰かに任せるのは当然の事。
クロムはそれが出来る生き方をしてきたんだし、それで良いじゃない。
誰かを信じて任せる事が出来るのは一つの美徳だもの」
そう言ってルフレは残った紅茶を一気に飲み干し、空になったティーカップを手の中で弄びながら続ける。
「それにね、まあ自分でこう言うのは何だけど、身許不詳でそれまでの経歴も不明、更には自称記憶喪失……なんて胡散臭い人間をこうも信頼するなんて普通は無理だと思う。
でもクロムは違った。
あたしに居場所をくれたし、あたしをその傍に居させてくれている。
王城は正直、あたしにとっては居心地が良い場所じゃないけれど……。
それでも、クロムの傍は居心地が良いの。
だから、クロムがあたしを望むなら、そしてあたしがクロムの力になれるのなら。
あたしは、何だってする。
だってあたしはクロムの“半身”だから」
そう言って微笑んで、ルフレはふわっと身軽にバルコニーの手摺に腰掛けた。
権力だの地位だの財産だのに縛られてそれを求める亡者みたいになってまで争い続ける官吏達を馬鹿馬鹿しいと切って捨てるルフレにとっては、王城に留まる理由などクロムの存在以外には無い。
だが、クロムがそこに居るから、そしてそこでクロムが戦っているから。
だからルフレはクロムの傍に居るのだし、そしてクロムが求めるならばそれに応え続ける。
ルフレはクロムの“半身”として、クロムの願いを叶えようとしてくれるのだ。
その信頼に、献身に、無欲と言っても良いルフレがただ一つ抱く純粋なまでの願いに、クロムはどうすれば十全に応えてやれるのであろう。
その方法は分からないが。
それでも、クロムはどんな時でもルフレを信頼するし、傍に居て欲しい。
それはクロムの願いでもあり、ルフレの願いでもある。
「そうまで言われてしまってはその信頼に応えるしか無いな」
「そうね、一緒に頑張りましょ。
クロムが描いた理想を、あたしにも見せてね」
二人して微笑み、信頼の証を確める様にお互いに拳をそっと触れ合わせた。
クロムが描いた理想の国をルフレに見せてやれる日はそう遠くは無い筈だと、クロムはそう確信している。
復興と言う夜明けは、もう直ぐ其処までやって来ていたのであった。
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