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第10話『星降る夜に願う事』

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 ルフレとフレデリクが纏め上げた報告書に目を通したクロムは一つ溜め息を吐いた。
 高官達の腐敗の実態調査は元々はフレデリクに命じていた事であったが、ルフレと言う強力な助っ人が現れた事で、当初の予定よりも大幅に早くその調査も終わったのである。
 前々から王宮内の腐敗が凄まじい事位は察してはいたのだが、その実態はクロムの想定以上の燦々たる有り様であった。
 エメリナが即位した十五年前にそれなりの粛清があってこれなのだ。
 先王たる父の代での政治の腐敗は最早想像すらつかない。
 これでよく、エメリナは十五年間も国を何とか平和に保てていたモノだとクロムはそう思わずにはいられない。
 内政的な面では、エメリナはとても優秀な王であったのだろう。
 私腹を肥やす為の脱税やら賄賂やらに加え領地内などでの大小様々な触法行為のあれやこれやを明確な証拠と共に明示してあるその報告書は、腐りきったこの国の実態をよく表していた。
 武器の横流し、先の戦でのペレジアとの内通、領地内に蔓延る賊との裏取引に始まり貴族や高官達の所業は腐りきったものばかりだ。

 ルフレとフレデリクの報告書には、そんな貴族や高官達の悪行だけではなく、彼等同士での横の繋がりや王宮内での権力の分布までもが克明に記されていた。
 それに加えて、国内での混乱を最小限に留めつつ最大限にこの膿の様な連中を一掃する為の、どの程度の処罰を何処の誰にどの時期に与えるべきかまでもが検討された上で纏められていた。
 成る程、確かに害悪そのものの様な連中ではあるが十把一絡げに粛清してしまっては却って内政面での混乱は免れないだろう。
 一息に改革を断行しようとすると失敗する原因となり得るのは多くの歴史が物語っている。
 この改革が完了するまでには二年程度は掛かるであろう。
 急いては事を仕損じる。
 猪突猛進の気があるクロムではあるが、待つ事の重要性もよく理解しているのであった。

 そして、同時にルフレがリストアップしてきた名簿にもクロムは目を通す。
 そこにあるのは、腐敗しきった官吏達が横行するこの国が何とか転覆しないように陰ながらに支えてきた多くの下級官吏達だ。
 腐った上司に自身の功績を吸い上げられながらも国の為に尽力してきた、イーリスにとっての真の宝となる者達である。
 王宮内のみならず地方政務官にまで目を向けてあるそれは、腐りきった官吏達に関する報告書よりも分厚い。
 彼等の仕事ぶりやそれに対する正当な評価に加えて簡素ながら為人に関しても記載されている。
 よくもまあこれだけのモノをこの期間で調べあげられるものだと、尋常では無いその辣腕っぷりをまざまざと見せ付けられて、クロムは流石はルフレだと感嘆した。


「ルフレ、フレデリク、よくやってくれた。
 これでやっと、この国の大掃除に取り掛かれそうだ。
 暫くはまた忙しくなるとは思うが、俺に力を貸してくれ」

「ええ、仰せのままに」

「任せて、クロムの為なら頑張るから」


 迷わず頷いてくれた二人に、クロムもまた力強い笑みを返す。
 漸く、本当の意味でのイーリスの復興の兆しが、見えてき始めたのであった。


 そして──。


 ペレジアとの戦が終わり四ヶ月程が過ぎた頃。
 聖王代理であるクロム主導のもと、イーリス国内で高官達の大規模な人事異動が行われた。
 汚職などに手を染めていた逆賊の様な腐った官吏達は更迭されたり左遷されたり場合によっては法による裁きを受ける事となった。
 そしてそこを埋め合わせる様に多くの下級官吏達が新たに登用される事となったのだが、大規模な人事異動の割にはその混乱が内政に響く事は全く無く。
 王宮内での官吏達の内情はともかくとして、イーリスと言う国は順調そのもののペースで復興を進めていた。
 王宮内の膿の多くは一掃され、更には人事異動で処罰される対象にはならなかった奸臣達もその権勢を奮えなくなる様に少しずつ少しずつその権力を削ぎ落とされていく。
 腐敗した官吏達に苦しめられてきた者達は挙って、まさしくエメリナの後を継ぎ世に平穏をもたらす王であるとクロムを讃える。
 そこにあったルフレの功績を知る者は、クロムやフレデリクをはじめとした僅かな者達だけであった。





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