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第一話『王女と軍師』

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 その日も、何時も通りであった。

 付近の村が屍兵に包囲されているとの報告を受け、直ぐ様急行した。
 だが目の前にあったのは、何時もの様に物言わぬ骸ばかりが転がる光景で。
 最早幾度と無く目にしたその光景に、無力から膝をつく様な事も無く。

 ああ、また私は救えなかったのか……と。
 胸を締め付けるのは、最早噛み締める必要すら無い、諦念すら混じった後悔で。

 最早生きている者が居ないであろうその場所を、ルキナは去ろうとした。
 だが──


 不意に曇天に雷鳴が幾度か轟いた。
 それと同時に響く、屍兵たちの呻き声。

 咄嗟にルキナは立ち去ろうとしていた村を振り返った。
 今の雷鳴は自然に発生したモノではない。
 魔法を行使したその証拠だ。

 屍兵ばかりが蠢くこの村で一体何が……と思いつつも。
 もしかして、と。
 益体も無い希望がルキナの胸の内で頭を擡げる。
 幾度と無くそれに裏切られてきたと言うのに、それでも、と。
 ルキナは一縷の希望を胸にその音の発生源へと向かった。

 そこには──


 屍兵の群れと対峙する一人の男の姿があった。

 身に纏う黒いコートが翻る度に、放たれた雷撃が十数もの屍兵を纏めて塵へと還す。
 風に煽られて外れかけたフードから覗くのは、ルキナよりは幾分か歳上の……それでもまだ歳若い男性のモノで。
 迫り来る屍兵を油断なく見据えている鮮血色の瞳は、生者だけが持ち得る意志の輝きを帯びていた。

 生存者だ。
 まだ、生きている者が居たのだ。
 この死だけが残された場所にも、まだ……。

 ルキナの胸に去来したのは、泣きたくなる様な歓喜であり安堵であった。
 ここに来たのは、無駄では無かった。
 ルキナの行動は、無駄では無かったのだ。

 戦う男を痺れた様に見詰めていたルキナは、ふとその背後に忍び寄る屍兵の存在に気付いた。
 男を襲おうと血に塗れた斧を振りかざすその屍兵の前へと、ルキナは反射的に躍り出て一刀の元にその首を刎ねる。
 直ぐ様塵へと還ったそれには見向きもせずに、今度は右横から襲ってきた剣士の屍兵の一撃を往なしながらその右腕を切り落としてそのまま胴を袈裟斬りに。

 突如現れたルキナの姿に驚いた様に男は目を丸くしたが、特には何も言わずにそのままルキナに背を預けて残る屍兵と対峙した。
 ルキナもまた、己の背を名も知らぬ男に預ける。
 程無くして、村を襲っていた屍兵は殲滅されたのであった。




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