END【たった一つの、冴えたやり方】
◇◇◇◇◇
世界は、救われた。
『ギムレー』を討った事は瞬く間に知れ渡り。
民達は皆、ルキナを、そして仲間達を讃え。
救世の英雄であると、悪しき邪竜を討ち滅ぼした救世主であると。
そう、奉り上げた……。
ロビンは、『ギムレー』との戦いの中で命を落としたと。
公には、そう言う事に、なっている。
民は皆英雄の死を惜しんだが、それですらも流れ行く時間と共に次第に忘れ去られてゆき。
『ロビン』の名前は、今や幾つかの書物に残されるばかりとなっていた。
あの後、山頂に辿り着いた仲間達は、泣き続けて憔悴しきったルキナから、事の次第を聞いた。
その反応は各々であったが、何れにせよ仲間達は誰も『ロビン』の真実を公表する事は無かった事だけが事実だ。
セレナなどは、憔悴したルキナを抱き締めて。
「馬鹿ね、アイツってば、本当に馬鹿なのね」と、繰り返し呟きながら、泣きそうな顔で怒っていた。
『ロビン』が何を想っていたのか、何を望んでいたのかは、仲間達も詳しくは知らない。
無理に尋ねようとしてくる者は居なかったし、万が一居たとしてもルキナが口を割る事は無かっただろう……。
『ギムレー』を討ったあの日から、世界は急速に復興へと向かっていった。
荒れ果てた不毛の地であった場所には、若芽が生い茂り。
痩せ衰えていた地には実りが満ちて。
溶けぬ氷に閉ざされたフェリアには、雪解けが訪れ。
この世の命は喜びを唄い。
屍兵は一体残らず消え去り、新たに現れる事も無い。
世界は、平和になったのだ。
人々は、それを『ギムレー』を討ったルキナのお陰だと、ナーガの御心がもたらした恵みなのだと。
そう口々に讃えていたが。
きっと、恐らくは違うのだろう、と。
ルキナは……密かにそう思っていた。
……きっと、彼が。
他の誰でもなく、『ロビン』が。
ルキナ達に遺した、せめてもの贈り物であったのだろう。
そうは思ってはいたが、ルキナはそれを絶対に口にする事は無かった。
邪竜は滅び、世界は救われた。
絶望に喘いでいた人々に必要なのはその事実のみであり、そこにあるルキナやロビンの想いは、そこにあった『真実』などは、関心の外であろうから。
それらはきっと、何時かルキナ達の戦いや旅路が英雄譚として語られる様になる程に遠い未来で、誰かが勝手に想像して描くものなのだろう。
……それで、きっと、良いのだ……。
あの日以来、ルキナは夕暮れ時の頃合いになると、何時もロビンの姿を探して彷徨い歩いてしまう。
もう、『彼』が何処にも居ないのは分かっている。
もう二度と逢えないのは、分かっているのだけれども。
あの日、夕暮れの中に溶ける様に消えてしまった『彼』が、この夕暮れの何処かにまだ居る気がして。
優しいあの手に、『彼』の温もりに。
何時か夕暮れの中で巡り逢える様な、そんな気がして。
それが叶わぬ祈りだと分かってはいても。
ルキナは、『彼』を探さずにはいられない。
また、逢いたい、と。
ロビンはそう願っていた。
『彼』自身、それが叶わぬ事と思ってはいたけれど。
それでも、信じていれば何時かきっと、と思ってしまう。
それは遠い遠い時の最果ての事になるのかもしれない。
それでも、何時か其処で、もう一度出逢えるのなら。
今度こそ…………。
それが永久に叶わぬ願いであると知りながら。
それでも、決して消す事など出来ないその想いを胸に。
彼の名前を呼びながら、ルキナは独り夕暮れの中を歩き続けるのであった……。
◆◆◆◆◆
世界は、救われた。
『ギムレー』を討った事は瞬く間に知れ渡り。
民達は皆、ルキナを、そして仲間達を讃え。
救世の英雄であると、悪しき邪竜を討ち滅ぼした救世主であると。
そう、奉り上げた……。
ロビンは、『ギムレー』との戦いの中で命を落としたと。
公には、そう言う事に、なっている。
民は皆英雄の死を惜しんだが、それですらも流れ行く時間と共に次第に忘れ去られてゆき。
『ロビン』の名前は、今や幾つかの書物に残されるばかりとなっていた。
あの後、山頂に辿り着いた仲間達は、泣き続けて憔悴しきったルキナから、事の次第を聞いた。
その反応は各々であったが、何れにせよ仲間達は誰も『ロビン』の真実を公表する事は無かった事だけが事実だ。
セレナなどは、憔悴したルキナを抱き締めて。
「馬鹿ね、アイツってば、本当に馬鹿なのね」と、繰り返し呟きながら、泣きそうな顔で怒っていた。
『ロビン』が何を想っていたのか、何を望んでいたのかは、仲間達も詳しくは知らない。
無理に尋ねようとしてくる者は居なかったし、万が一居たとしてもルキナが口を割る事は無かっただろう……。
『ギムレー』を討ったあの日から、世界は急速に復興へと向かっていった。
荒れ果てた不毛の地であった場所には、若芽が生い茂り。
痩せ衰えていた地には実りが満ちて。
溶けぬ氷に閉ざされたフェリアには、雪解けが訪れ。
この世の命は喜びを唄い。
屍兵は一体残らず消え去り、新たに現れる事も無い。
世界は、平和になったのだ。
人々は、それを『ギムレー』を討ったルキナのお陰だと、ナーガの御心がもたらした恵みなのだと。
そう口々に讃えていたが。
きっと、恐らくは違うのだろう、と。
ルキナは……密かにそう思っていた。
……きっと、彼が。
他の誰でもなく、『ロビン』が。
ルキナ達に遺した、せめてもの贈り物であったのだろう。
そうは思ってはいたが、ルキナはそれを絶対に口にする事は無かった。
邪竜は滅び、世界は救われた。
絶望に喘いでいた人々に必要なのはその事実のみであり、そこにあるルキナやロビンの想いは、そこにあった『真実』などは、関心の外であろうから。
それらはきっと、何時かルキナ達の戦いや旅路が英雄譚として語られる様になる程に遠い未来で、誰かが勝手に想像して描くものなのだろう。
……それで、きっと、良いのだ……。
あの日以来、ルキナは夕暮れ時の頃合いになると、何時もロビンの姿を探して彷徨い歩いてしまう。
もう、『彼』が何処にも居ないのは分かっている。
もう二度と逢えないのは、分かっているのだけれども。
あの日、夕暮れの中に溶ける様に消えてしまった『彼』が、この夕暮れの何処かにまだ居る気がして。
優しいあの手に、『彼』の温もりに。
何時か夕暮れの中で巡り逢える様な、そんな気がして。
それが叶わぬ祈りだと分かってはいても。
ルキナは、『彼』を探さずにはいられない。
また、逢いたい、と。
ロビンはそう願っていた。
『彼』自身、それが叶わぬ事と思ってはいたけれど。
それでも、信じていれば何時かきっと、と思ってしまう。
それは遠い遠い時の最果ての事になるのかもしれない。
それでも、何時か其処で、もう一度出逢えるのなら。
今度こそ…………。
それが永久に叶わぬ願いであると知りながら。
それでも、決して消す事など出来ないその想いを胸に。
彼の名前を呼びながら、ルキナは独り夕暮れの中を歩き続けるのであった……。
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