第五話・B『在るがままに愛しき人へ』
◇◇◇◇◇
程無くして、船は見付かった。
ルキナとロビンが偶々立ち寄った造船所の倉庫の片隅に、隠される様にして安置されていた船を発見したからだ。
放置されてもう十年近く経ってはいるものの、船としての機能に問題は無さそうで。
六人と一頭の飛竜を乗せる位ならば十分どころかお釣りが来る程の大きさだ。
『ギムレー』復活後に沿岸部では数多の船が徹底的に破壊されてきた中で、これ程の船が破壊される事無く無事に残されていたのは、本当に幸運であるとしか言い様が無い。
見付けた時には、ルキナのみならずロビンまでもがかなり驚いていた程だ。
その船を仲間達総出で倉庫から引っ張り出して海に浮かべ、錨を下ろした時には。
船を見付けたのが昼過ぎ辺りであったのに、もう日が暮れてしまっていた。
ここで一泊する事に決めたルキナとロビンは、引き続き船に食料や水などの物資を搬入する作業を手伝う。
それが終わる頃には、当初のウード達のロビンへの不信感もかなり薄れていて。
ジェロームはまだかなり距離を置いてはいたが、ロランなどはロビンから船の操り方を熱心に教わっていた。
そしてロラン達がロビンから操舵について太鼓判を捺される頃には、すっかりウード達はロビンを受け入れる様になっていたのだ。
本来は、操舵技術があるロビンの方こそ『碧炎』の捜索に行くべきであろうし、その方が確実だ。
だが、ロビンは。
『黒炎』の奪還だけは、決してウード達には譲ろうとはしなかった。
幸い『碧炎』はペレジアから海に出て二・三日もあれば辿り着ける島にあるのだから、と。
ウード達を『碧炎』の奪還へ送り出そうとする。
ルキナは、その理由をロビンに訊ねた。
どうしても『黒炎』はロビンの手で取り戻さねばならないのだとして、『碧炎』を奪還してから『黒炎』を奪還しに行っては駄目なのか、と。
すると、ロビンは重々しく頷く。
そして、「もう時間が無いんです」とだけ呟いた。
「『黒炎』だけは、『僕』が奪還しなくてはなりません。
ですが、恐らくはもう……。
『碧炎』を奪還してから向かう程の時間は、無い……。
そうすれば、『虹の降る山』に辿り着けるまでの時間は、残っていないでしょう。
だからこそ、『碧炎』はウードさん達に任せてでも、『黒炎』の方へと行かなければ、ならないんです……」
ロビンを苛む『何か』──『ギムレー』が、刻一刻と強くなってきているのかもしれない。
『時間』がもう無いのだ、と。
ロビンは時折そう辛そうに呟く。
一体その『時間』とは何なのか、そしてその『時間』が終わった時にロビンがどうなってしまうのか…………。
ルキナには、何も分からない。
訊きたいのに、訊けない。
訊いてしまえば、全てが終わってしまう様な、そんな気がするのだ。
そして、そんなロビンが。
今も尚『ギムレー』に苛まれているのであろうロビンが。
『ギムレー』の力が最も強い地である『竜の祭壇』に向かえばどうなってしまうのか……。
とても、嫌な予感がする。
もしかしたら、ロビンがそこで、『残された僅かな時間』を使いきってしまうのではないのかと、そう感じてしまって。
それなのに何も出来ない自分の無力が、ルキナは辛く苦しかった。
ルキナが一人で『黒炎』を奪還出来るのならば、そうしたいのだけれども。
……『緋炎』を奪還した時も、『蒼炎』を奪還した時も、『炎の台座』を奪還した時も。
ルキナは、ロビンに守られてばかりだった。
ロビンが居なくては、そもそもの『緋炎』の場所にすら辿り着けず、奪還などとてもではないが叶わなかっただろう。
そんなルキナに、何が出来るのだろう。
ロビンを守りたいのに。
ここに居る『彼』を、ルキナだけの『軍師』を、ルキナの『半身』を、守りたいのに。
ルキナに出来るのは、どんな時でも何があっても、その手を絶対に離さない事位しかないのだ…………。
たったそれだけで、何れ程ロビンの力になれていると言うのだろうか……。
そんな想いを抱えつつも。
ルキナはウード達の出航を見送ってから、『竜の祭壇』へと。
最後の『宝玉』である『黒炎』が隠されている地へと、向かうのであった…………。
◆◆◆◆◆
程無くして、船は見付かった。
ルキナとロビンが偶々立ち寄った造船所の倉庫の片隅に、隠される様にして安置されていた船を発見したからだ。
放置されてもう十年近く経ってはいるものの、船としての機能に問題は無さそうで。
六人と一頭の飛竜を乗せる位ならば十分どころかお釣りが来る程の大きさだ。
『ギムレー』復活後に沿岸部では数多の船が徹底的に破壊されてきた中で、これ程の船が破壊される事無く無事に残されていたのは、本当に幸運であるとしか言い様が無い。
見付けた時には、ルキナのみならずロビンまでもがかなり驚いていた程だ。
その船を仲間達総出で倉庫から引っ張り出して海に浮かべ、錨を下ろした時には。
船を見付けたのが昼過ぎ辺りであったのに、もう日が暮れてしまっていた。
ここで一泊する事に決めたルキナとロビンは、引き続き船に食料や水などの物資を搬入する作業を手伝う。
それが終わる頃には、当初のウード達のロビンへの不信感もかなり薄れていて。
ジェロームはまだかなり距離を置いてはいたが、ロランなどはロビンから船の操り方を熱心に教わっていた。
そしてロラン達がロビンから操舵について太鼓判を捺される頃には、すっかりウード達はロビンを受け入れる様になっていたのだ。
本来は、操舵技術があるロビンの方こそ『碧炎』の捜索に行くべきであろうし、その方が確実だ。
だが、ロビンは。
『黒炎』の奪還だけは、決してウード達には譲ろうとはしなかった。
幸い『碧炎』はペレジアから海に出て二・三日もあれば辿り着ける島にあるのだから、と。
ウード達を『碧炎』の奪還へ送り出そうとする。
ルキナは、その理由をロビンに訊ねた。
どうしても『黒炎』はロビンの手で取り戻さねばならないのだとして、『碧炎』を奪還してから『黒炎』を奪還しに行っては駄目なのか、と。
すると、ロビンは重々しく頷く。
そして、「もう時間が無いんです」とだけ呟いた。
「『黒炎』だけは、『僕』が奪還しなくてはなりません。
ですが、恐らくはもう……。
『碧炎』を奪還してから向かう程の時間は、無い……。
そうすれば、『虹の降る山』に辿り着けるまでの時間は、残っていないでしょう。
だからこそ、『碧炎』はウードさん達に任せてでも、『黒炎』の方へと行かなければ、ならないんです……」
ロビンを苛む『何か』──『ギムレー』が、刻一刻と強くなってきているのかもしれない。
『時間』がもう無いのだ、と。
ロビンは時折そう辛そうに呟く。
一体その『時間』とは何なのか、そしてその『時間』が終わった時にロビンがどうなってしまうのか…………。
ルキナには、何も分からない。
訊きたいのに、訊けない。
訊いてしまえば、全てが終わってしまう様な、そんな気がするのだ。
そして、そんなロビンが。
今も尚『ギムレー』に苛まれているのであろうロビンが。
『ギムレー』の力が最も強い地である『竜の祭壇』に向かえばどうなってしまうのか……。
とても、嫌な予感がする。
もしかしたら、ロビンがそこで、『残された僅かな時間』を使いきってしまうのではないのかと、そう感じてしまって。
それなのに何も出来ない自分の無力が、ルキナは辛く苦しかった。
ルキナが一人で『黒炎』を奪還出来るのならば、そうしたいのだけれども。
……『緋炎』を奪還した時も、『蒼炎』を奪還した時も、『炎の台座』を奪還した時も。
ルキナは、ロビンに守られてばかりだった。
ロビンが居なくては、そもそもの『緋炎』の場所にすら辿り着けず、奪還などとてもではないが叶わなかっただろう。
そんなルキナに、何が出来るのだろう。
ロビンを守りたいのに。
ここに居る『彼』を、ルキナだけの『軍師』を、ルキナの『半身』を、守りたいのに。
ルキナに出来るのは、どんな時でも何があっても、その手を絶対に離さない事位しかないのだ…………。
たったそれだけで、何れ程ロビンの力になれていると言うのだろうか……。
そんな想いを抱えつつも。
ルキナはウード達の出航を見送ってから、『竜の祭壇』へと。
最後の『宝玉』である『黒炎』が隠されている地へと、向かうのであった…………。
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