第五話・B『在るがままに愛しき人へ』
◇◇◇◇◇
恐らく最も奪還が困難であろう『黒炎』よりも先に『碧炎』を奪還しようと、二人がかつてのペレジアの港町があった場所へと向かっていた時の事だ。
眼下に見える沿岸部にある街は、もう既に生きている者など存在しない廃墟と化していて。
長い事人が住んでいなかった事を示す様に、遠目から見ても荒れ果てていた。
長らく襲う人間など最早一人として残っていないからか、屍兵の姿すらも見えない。
かつてはヴァルム大陸との交易などで潤っていたのであろう名残も所々に残されている為、それが一層この光景の悲惨さを際立ててしまっていた。
そしてそんな廃墟となった街中に、ルキナはよく見知った人影を見付ける。
それは、ルキナの仲間であるウードであった。
以前と同じ様にそこに降りて貰う様にロビンに頼み、ルキナはウードに声を掛ける。
「なっ……! 何でルキナがここに!?」
驚きのあまりにか、何時もの口調を忘れてウードが叫ぶ。
そしてその声を聞き付けたのか、他の仲間達もその場に集まってきた。
そしてルキナがここに居る事に驚くと共にロビンへの不信感を隠さない仲間達に対して、以前セレナ達にしたように、ロビンが手短にこれまでの経緯を話し始める。
ロビンへの警戒は解いて貰えなかったが、ルキナが仲間達にこれまでの経緯を聞き出した所によると。
どうやらウード達は『碧炎』が正確な所在は不明ながらも海の向こうにある事を掴んだらしく、外海に出る為に船を探しにこの廃墟となった港町を訪れたらしい。
ウード達が『碧炎』を探していたのなら丁度良い、と。
ルキナとロビンはウード達に『碧炎』の在処を伝え、船を探す手伝いをすると申し出た。
ウード達もロビンの言葉には疑心を抱いていたものの。
セレナ達と同じく、既に集めた『宝玉』と『炎の台座』を見せれば、渋々信じてくれた……のだが。
ただ一人、ジェロームだけは訝る様にロビンを見ていた。
いや、ジェロームが気にしているのは、正確にはロビンを見て何事か反応しているミネルヴァの様子であるが。
チラチラと幾度もロビンを見ては、どう反応するべきか迷う様な仕草を見せるミネルヴァを、ロビンもまたジッと見詰める。
ミネルヴァは警戒している訳でも無く、かといって懐いている訳でも無い。
その態度を人のモノに当て嵌めるのなら、正しく『困惑』と表現するしかなかった。
「…………ミネルヴァが警戒はしていない、と言う事は貴様が私達やルキナを害そうとはしていないのは確かなのだろう。
だが、貴様を信頼する事も出来ない」
そのジェロームの言葉に、ロビンは「分かっています」と頷く。
「それで構いません。
貴方からすれば、急に現れた『僕』に信頼を置けないのは当然の事ですから。
しかし、それでも。
『僕』が『覚醒の儀』を成功させようとしているのは、紛れもなく本当です。
信じてくれ、とは言えませんが……」
そう答えたロビンに、ジェロームは一つ溜め息を吐いた。
そして、困惑するミネルヴァに寄り添う様に、その頭を撫でる。
「『碧炎』の手掛かりが無かったのは事実だからな。
貴様を信頼した訳では無いが、その情報に従ってみるとはしよう。
……罠ではない事を、祈りながらな」
そう言ってその場を立ち去るジェロームとミネルヴァを、ロビンは黙って見送った。
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恐らく最も奪還が困難であろう『黒炎』よりも先に『碧炎』を奪還しようと、二人がかつてのペレジアの港町があった場所へと向かっていた時の事だ。
眼下に見える沿岸部にある街は、もう既に生きている者など存在しない廃墟と化していて。
長い事人が住んでいなかった事を示す様に、遠目から見ても荒れ果てていた。
長らく襲う人間など最早一人として残っていないからか、屍兵の姿すらも見えない。
かつてはヴァルム大陸との交易などで潤っていたのであろう名残も所々に残されている為、それが一層この光景の悲惨さを際立ててしまっていた。
そしてそんな廃墟となった街中に、ルキナはよく見知った人影を見付ける。
それは、ルキナの仲間であるウードであった。
以前と同じ様にそこに降りて貰う様にロビンに頼み、ルキナはウードに声を掛ける。
「なっ……! 何でルキナがここに!?」
驚きのあまりにか、何時もの口調を忘れてウードが叫ぶ。
そしてその声を聞き付けたのか、他の仲間達もその場に集まってきた。
そしてルキナがここに居る事に驚くと共にロビンへの不信感を隠さない仲間達に対して、以前セレナ達にしたように、ロビンが手短にこれまでの経緯を話し始める。
ロビンへの警戒は解いて貰えなかったが、ルキナが仲間達にこれまでの経緯を聞き出した所によると。
どうやらウード達は『碧炎』が正確な所在は不明ながらも海の向こうにある事を掴んだらしく、外海に出る為に船を探しにこの廃墟となった港町を訪れたらしい。
ウード達が『碧炎』を探していたのなら丁度良い、と。
ルキナとロビンはウード達に『碧炎』の在処を伝え、船を探す手伝いをすると申し出た。
ウード達もロビンの言葉には疑心を抱いていたものの。
セレナ達と同じく、既に集めた『宝玉』と『炎の台座』を見せれば、渋々信じてくれた……のだが。
ただ一人、ジェロームだけは訝る様にロビンを見ていた。
いや、ジェロームが気にしているのは、正確にはロビンを見て何事か反応しているミネルヴァの様子であるが。
チラチラと幾度もロビンを見ては、どう反応するべきか迷う様な仕草を見せるミネルヴァを、ロビンもまたジッと見詰める。
ミネルヴァは警戒している訳でも無く、かといって懐いている訳でも無い。
その態度を人のモノに当て嵌めるのなら、正しく『困惑』と表現するしかなかった。
「…………ミネルヴァが警戒はしていない、と言う事は貴様が私達やルキナを害そうとはしていないのは確かなのだろう。
だが、貴様を信頼する事も出来ない」
そのジェロームの言葉に、ロビンは「分かっています」と頷く。
「それで構いません。
貴方からすれば、急に現れた『僕』に信頼を置けないのは当然の事ですから。
しかし、それでも。
『僕』が『覚醒の儀』を成功させようとしているのは、紛れもなく本当です。
信じてくれ、とは言えませんが……」
そう答えたロビンに、ジェロームは一つ溜め息を吐いた。
そして、困惑するミネルヴァに寄り添う様に、その頭を撫でる。
「『碧炎』の手掛かりが無かったのは事実だからな。
貴様を信頼した訳では無いが、その情報に従ってみるとはしよう。
……罠ではない事を、祈りながらな」
そう言ってその場を立ち去るジェロームとミネルヴァを、ロビンは黙って見送った。
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