第五話・B『在るがままに愛しき人へ』
◇◇◇◇◇
眼下に見えるその人影に、先に気が付いたのはロビンであった。
「おや、あれは……」
と、そう小さく呟いたロビンの声に、ルキナもまた眼下に目を凝らす。
そして、その人影の正体に直ぐ様気が付いた。
「あれは……!
ロビンさん、彼処に降りて下さい!」
そうロビンに言うや否や、飛竜は眼下の人影に向かって降下して行く。
眼下の人影も、接近する飛竜の存在に気が付いたのだろう。
応戦しようと、手に武器を構えたのが見えた。
そんな人影に、ルキナは呼び掛ける。
「待って! 私です! ルキナです!」
その言葉を聞いた途端に、人影は──仲間達は。
戸惑った様に武器を下ろした。
「えっ、ルキナ……? 何でこんな所に……」
飛竜から降り立ったルキナに、困惑する様にそう声を掛けて来たのはシンシアだった。
「私も、『宝玉』を集める為の旅をしているんです」
そう答えるや否や、仲間達全員から驚愕の声が溢れ落ちて。
「イーリスはどうしたの」やら、「ルキナが居ないとダメなんだから、こんな危険な場所に居ちゃダメじゃない」やら。
そう口々に詰め寄られ、ルキナが事情を説明する暇が無い。
ルキナに詰め寄る仲間達を制したのは、傍で見守っていたロビンであった。
仲間達は見知らぬロビンに、警戒する様な眼差しを送る。
そんな突き刺さる様な視線は意に介さずに。
ロビンは手短に、『宝玉』の正確な所在を掴んだ事やルキナと二人で『宝玉』奪還に向かった経緯を説明した。
やはり、自分達が何れ程探しても未だ掴めていなかった『宝玉』の所在を、既に全て掴んでいたと言うのはかなり衝撃的であった様で。
仲間達は皆言葉を無くしてしまう。
「ところで、ルキナさんの仲間は全員で11人居ると聞いていたのですが……」
この場にいるのはその半数だけである。
ルキナも気にはなっていたのだが、詰め寄られていた為にそれを訊いている余裕が無かったので、ロビンが訊いてくれて正直助かった。
シンシア、デジェル、ンン、ノワール、セレナの五人はロビンの言葉に顔を見合わせる。
そして、チラリとルキナを見やった。
見知らぬロビンを信頼して良いのか、まだ判断しかねているのであろう。
幾らルキナがその傍にいるのだとしても、だ。
その態度が仕方の無いモノであるのは分かっているけれど、でも。
ルキナは、大切なロビンが、こうやって大事な仲間達からの疑いの視線に晒されるのが辛かった。
だから、ルキナは何とか仲間達にも信じて貰おうと、必死にロビンについて説明しようとする。
「ロビンさんは、私の『軍師』で……そして何よりも信頼出来る人なんです。だから──」
信じて、欲しいのだと。
そうルキナが続けようとすると。
セレナが、大きな溜め息を一つ吐いた。
そして、降参とでも言いたそうに手を上げる。
「あー、もう。
ハイハイ、分かったわよ。
ルキナにそんな顔をされちゃ、信用出来ないとか無理とか何とか言えないじゃない」
そして、セレナはグイグイと有無を言わさずに迫る様な勢いでロビンに近付き、その胸に右手の人差し指を突き刺す様な勢いで押し当てた。
「良い? あたしはあんたを信用した訳じゃ無いわ。
あんたを信じているルキナを信頼しているだけよ!
ルキナにあんな顔させる位に想われているんだから、その信頼を裏切るのだけは絶対に許さないんだからね!!」
そう釘を刺す様にセレナがロビンに言い放つと。
セレナの剣幕に驚いたのか幾度か瞬きしていたロビンは、その言葉に穏やかに紅い眼を細めて頷いた。
「ええ、勿論です。
『僕』は、絶対にルキナさんを裏切らない。
ルキナさんを、『僕』の全てを賭けてでも守り通します」
その答えに、セレナは憮然と噛み付く様に返す。
「そんなのは当たり前よ。
あたしが言いたいのは、ルキナを置いていったりしても絶対に許さないって事よ。
例えそれがルキナの為であろうと、あんたがした事でルキナの気持ちを傷付けたりした時も。
あたしはあんたを絶対に許さないし、地の果てまでだって追い詰めてやるんだから。
分かった!?」
そう気焔を吐く様な勢いで言い捨てて。
セレナはフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。
そんなセレナの言葉に、ロビンは……。
何処か寂しそうに、「そうですね……」と頷いた。
説明する気が無さそうなセレナに代わって、ここまでの事情を説明したのは幼い外見に反して仲間の中でも一・二を争うしっかり者であるンンだった。
曰く、『宝玉』の所在の手掛かりとなる情報すらそれらしきモノが殆ど掴めないままであった仲間達は、このまま11人全員で纏まって捜索していても埒が明かないと判断して、危険も伴うものの男女で二手に別れたらしい。
そして、ンン達はペレジアの何処かにある事だけは掴んである『白炎』を捜索しているのだとか。
ルキナとロビンはこれから『炎の台座』を奪還しに行く所であったので、丁度良いかとばかりにルキナは『白炎』の在処をンン達に伝える。
その情報の信憑性を疑っていたンン達であったが、既に『緋炎』と『蒼炎』の奪還に成功している事とその証拠となる二つの『宝玉』を提示すると、流石に信じてくれた様だ。
「皆さんは『白炎』の奪還に成功したら、直ぐにイーリスへと向かって下さい。
そのまま『虹の降る山』を目指して貰った方が良いかもしれません。
『僕』とルキナさんは、残りの『宝玉』を奪還し次第直ぐに『虹の降る山』に向かいます」
二人だけの飛竜での空路と、女性五人での陸路。
比べるまでも無く、ルキナとロビンの方が先に目的地に到着するだろう。
流石に残り三つを集めるのには時間が掛かるだろうが、ンン達が他の『宝玉』も集める場合よりは、早くに事が済むであろう事は間違いがない。
途中で運良くウード達を見付けられたら、もっと早くに集め終わるかもしれない位である。
だからこそ、ンン達には『白炎』を奪還したら直ぐにそれを持って、確実に『虹の降る山』まで届けて欲しいのだ、と。
そうロビンが説明すると。
やや完全には納得は出来なかった様だが、それでも皆が頷いたのだった。
『炎の台座』へと向かうルキナとロビンが、再び出立したその後で。
遠ざかって行く飛竜の影を見送りながら、セレナはポツリと呟く。
「あんた、ルキナにあんなに愛されているんだからね……。
その想いを裏切ったら、絶対に承知しないんだから……」
その言葉が、遠く離れてしまったルキナとロビンに届く事は、無かった。
◇◇◇◇◇
眼下に見えるその人影に、先に気が付いたのはロビンであった。
「おや、あれは……」
と、そう小さく呟いたロビンの声に、ルキナもまた眼下に目を凝らす。
そして、その人影の正体に直ぐ様気が付いた。
「あれは……!
ロビンさん、彼処に降りて下さい!」
そうロビンに言うや否や、飛竜は眼下の人影に向かって降下して行く。
眼下の人影も、接近する飛竜の存在に気が付いたのだろう。
応戦しようと、手に武器を構えたのが見えた。
そんな人影に、ルキナは呼び掛ける。
「待って! 私です! ルキナです!」
その言葉を聞いた途端に、人影は──仲間達は。
戸惑った様に武器を下ろした。
「えっ、ルキナ……? 何でこんな所に……」
飛竜から降り立ったルキナに、困惑する様にそう声を掛けて来たのはシンシアだった。
「私も、『宝玉』を集める為の旅をしているんです」
そう答えるや否や、仲間達全員から驚愕の声が溢れ落ちて。
「イーリスはどうしたの」やら、「ルキナが居ないとダメなんだから、こんな危険な場所に居ちゃダメじゃない」やら。
そう口々に詰め寄られ、ルキナが事情を説明する暇が無い。
ルキナに詰め寄る仲間達を制したのは、傍で見守っていたロビンであった。
仲間達は見知らぬロビンに、警戒する様な眼差しを送る。
そんな突き刺さる様な視線は意に介さずに。
ロビンは手短に、『宝玉』の正確な所在を掴んだ事やルキナと二人で『宝玉』奪還に向かった経緯を説明した。
やはり、自分達が何れ程探しても未だ掴めていなかった『宝玉』の所在を、既に全て掴んでいたと言うのはかなり衝撃的であった様で。
仲間達は皆言葉を無くしてしまう。
「ところで、ルキナさんの仲間は全員で11人居ると聞いていたのですが……」
この場にいるのはその半数だけである。
ルキナも気にはなっていたのだが、詰め寄られていた為にそれを訊いている余裕が無かったので、ロビンが訊いてくれて正直助かった。
シンシア、デジェル、ンン、ノワール、セレナの五人はロビンの言葉に顔を見合わせる。
そして、チラリとルキナを見やった。
見知らぬロビンを信頼して良いのか、まだ判断しかねているのであろう。
幾らルキナがその傍にいるのだとしても、だ。
その態度が仕方の無いモノであるのは分かっているけれど、でも。
ルキナは、大切なロビンが、こうやって大事な仲間達からの疑いの視線に晒されるのが辛かった。
だから、ルキナは何とか仲間達にも信じて貰おうと、必死にロビンについて説明しようとする。
「ロビンさんは、私の『軍師』で……そして何よりも信頼出来る人なんです。だから──」
信じて、欲しいのだと。
そうルキナが続けようとすると。
セレナが、大きな溜め息を一つ吐いた。
そして、降参とでも言いたそうに手を上げる。
「あー、もう。
ハイハイ、分かったわよ。
ルキナにそんな顔をされちゃ、信用出来ないとか無理とか何とか言えないじゃない」
そして、セレナはグイグイと有無を言わさずに迫る様な勢いでロビンに近付き、その胸に右手の人差し指を突き刺す様な勢いで押し当てた。
「良い? あたしはあんたを信用した訳じゃ無いわ。
あんたを信じているルキナを信頼しているだけよ!
ルキナにあんな顔させる位に想われているんだから、その信頼を裏切るのだけは絶対に許さないんだからね!!」
そう釘を刺す様にセレナがロビンに言い放つと。
セレナの剣幕に驚いたのか幾度か瞬きしていたロビンは、その言葉に穏やかに紅い眼を細めて頷いた。
「ええ、勿論です。
『僕』は、絶対にルキナさんを裏切らない。
ルキナさんを、『僕』の全てを賭けてでも守り通します」
その答えに、セレナは憮然と噛み付く様に返す。
「そんなのは当たり前よ。
あたしが言いたいのは、ルキナを置いていったりしても絶対に許さないって事よ。
例えそれがルキナの為であろうと、あんたがした事でルキナの気持ちを傷付けたりした時も。
あたしはあんたを絶対に許さないし、地の果てまでだって追い詰めてやるんだから。
分かった!?」
そう気焔を吐く様な勢いで言い捨てて。
セレナはフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。
そんなセレナの言葉に、ロビンは……。
何処か寂しそうに、「そうですね……」と頷いた。
説明する気が無さそうなセレナに代わって、ここまでの事情を説明したのは幼い外見に反して仲間の中でも一・二を争うしっかり者であるンンだった。
曰く、『宝玉』の所在の手掛かりとなる情報すらそれらしきモノが殆ど掴めないままであった仲間達は、このまま11人全員で纏まって捜索していても埒が明かないと判断して、危険も伴うものの男女で二手に別れたらしい。
そして、ンン達はペレジアの何処かにある事だけは掴んである『白炎』を捜索しているのだとか。
ルキナとロビンはこれから『炎の台座』を奪還しに行く所であったので、丁度良いかとばかりにルキナは『白炎』の在処をンン達に伝える。
その情報の信憑性を疑っていたンン達であったが、既に『緋炎』と『蒼炎』の奪還に成功している事とその証拠となる二つの『宝玉』を提示すると、流石に信じてくれた様だ。
「皆さんは『白炎』の奪還に成功したら、直ぐにイーリスへと向かって下さい。
そのまま『虹の降る山』を目指して貰った方が良いかもしれません。
『僕』とルキナさんは、残りの『宝玉』を奪還し次第直ぐに『虹の降る山』に向かいます」
二人だけの飛竜での空路と、女性五人での陸路。
比べるまでも無く、ルキナとロビンの方が先に目的地に到着するだろう。
流石に残り三つを集めるのには時間が掛かるだろうが、ンン達が他の『宝玉』も集める場合よりは、早くに事が済むであろう事は間違いがない。
途中で運良くウード達を見付けられたら、もっと早くに集め終わるかもしれない位である。
だからこそ、ンン達には『白炎』を奪還したら直ぐにそれを持って、確実に『虹の降る山』まで届けて欲しいのだ、と。
そうロビンが説明すると。
やや完全には納得は出来なかった様だが、それでも皆が頷いたのだった。
『炎の台座』へと向かうルキナとロビンが、再び出立したその後で。
遠ざかって行く飛竜の影を見送りながら、セレナはポツリと呟く。
「あんた、ルキナにあんなに愛されているんだからね……。
その想いを裏切ったら、絶対に承知しないんだから……」
その言葉が、遠く離れてしまったルキナとロビンに届く事は、無かった。
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