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第五話・B『在るがままに愛しき人へ』

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『緋炎』を手に入れたルキナとロビンは直ぐ様神殿跡を離れ、次の目標である『蒼炎』を求めて、今度はフェリアとペレジアとのかつての国境付近へと向かう。
 最早ヒトが住まう領域では無くなった其処では国境など何の意味も成さないモノではあるけれども。
 それでも眼下に広がるかつての国境沿いに設けられた関所の残骸などを見ていると、ルキナは人の営みの虚しさの様なモノを感じてしまうのであった。

 ロビンが掴んだ情報によると。
『緋炎』と『蒼炎』はフェリアに。
『炎の台座』と『白炎』と『黒炎』はペレジアに。
 そして『碧炎』は、ヴァルム大陸との航路の途中にある島に隠されているらしい。
 一番遠くに在るのは『碧炎』ではあるが、手に入れるのが最も困難であろうとロビンが言うのは『黒炎』であった。
『黒炎』が隠されているのは、『竜の祭壇』……。
 父が帰らぬ戦いで命を落とした地であると共に、『ギムレー』が甦った地とされている場所だ。
 最も『ギムレー』の力が強い地に隠されたそれを手に入れるのが如何に困難を極めるのか、ルキナにも想像に容易い。
 それでも、行かぬ訳にはいかないのであるけれども……。
『緋炎』を手に入れた神殿跡を発ってから、数日が経ち。
 その間、ルキナとロビンはかつて人が住んでいた廃屋などを見付けてはそこで暖を取って休息を取りつつ進んでいた。
 ロビンが何かと気を遣ってくれているお陰で、強行軍であるにも関わらずルキナへの負担は少ない。
 食料や飲み水の確保から薪の確保まで、全てロビンがやってくれるのだ。

 全てをロビンに任せっきりにしている様で、ルキナとしては申し訳無いのだけれども。
 ロビンは決まって「『僕』の我が儘に付き合わせてしまっている様なものなのですし、これ位は『僕』に任せて下さい」と言って譲ろうとはしてくれないのだ。
 そう言われてしまっては、ルキナも強くは言えなかった。

 外では吹雪が荒れ狂う音が響き、暖炉にくべられた薪の光に照らされる中で、ロビンと寄り添う様に過ごす時間は、何だかとても心地が良くて。

『宝玉』奪還を終えて、『炎の紋章』を完成させても……。
 そして、『覚醒の儀』を行って、無事に『ギムレー』を討った後も。
 こんな時間を、ロビンと過ごしていたいと。
 そうルキナは思っていて。
 そしてそう思う度に。
 きっとそれはもう間もなく叶う筈なのだから、と。
 その為にも、今は一刻も早く『炎の紋章』を完成させなければならないのだ、と。
 そう、ルキナは固く決意し直す。


 吹雪は未だ止まず、凍り付いた大地を白い死で覆い隠しているけれど。
 きっとこの地を支配する長い長い『冬』も、終わる時が来るのだ。
 その日を少しでも早く迎える為にも。
『覚醒の儀』は必ず成し遂げなくてはならない。




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