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END【掛け違えた道の先で、君と】

◇◇◇◇◇




 あの戦いの後、イーリス王都へと帰還したルキナは。
 救世の英雄であると、悪しき邪竜を討ち滅ぼした救世主であると。
 そう、人々に奉り上げられた。
 仲間達と共に、復興に尽力するルキナに寄せられるそれは、日に日に大きくなっていって。
 それは、熱狂とも狂信とも言える程のモノになっていた。

 あの戦いの真実を、ただ一人知っている当人からすれば。
 英雄などと奉られるのは酷く居心地が悪く。
 そして、自身を讃えるその声が。
 耐え難い程に、苦痛であった。

 ……幾度、違うのだ、と。
 そうルキナが声を張り上げたくても、それは誰にも届かず、届ける事すらも許されない事で。

 忘れられないのに、忘れたくなんて、ないのに。
 ルキナはまるで、『ロビン』の事など知らなかったかの様に振る舞う事しか出来なかった。
 それは、『彼』の最後の【呪い】通りで。
 ……そしてそれが、どうしようも無い程に、哀しい。
 ……一体、『ロビン』は何を想っていたのだろう。
 何を想って、『彼』はルキナの傍に居たのだろう。
 何を想って、ルキナから記憶を奪ってまでその傍を去ったのだろう。
 そして、その最期に。
 何を想って、逝ったのだろう……。

 …………。
 この世の何処にも居ない人の心の内など、最早誰にも分かりようが無い事だ。
 それでも、きっと。

『ロビン』が最期に伝えた言葉は、その想いは。
 きっと、紛れもなく真実だったのだ。
『ギムレー』だったにせよ、『ロビン』は心からルキナの事を、想っていた。
 傍に居たかったのだと、そう想ってくれていた。

 ……それなのに。

 …………ルキナは、『ロビン』のその想いに何も返せないまま、『彼』を逝かせてしまったのだ。
 消える瞬間の『彼』は。
 ルキナの目に映った『彼』は。
 満足そうに、幸せにそうに、微笑んでいたけれど。


「私、は…………」


 貴方に、ずっと、共に在って欲しかったのだ……。

 最早伝える術など無いその想いを、届く筈などない祈りを、永久に叶わぬその願いを。
 それでも忘れる事など出来ずに抱いたまま。
 もう二度と逢えぬ人を想って。
 ルキナは独り、満天の星空を見上げた。

 あの日『ロビン』と見上げた夜空と違って、星々はこんなにも輝いているのに。
 それなのに、こんなにも寂しい。
 この傍らに、貴方が居ない事が、何よりも哀しい。
 もう記憶の中にしか存在しない『彼』に、何度も何度も手を伸ばすが、その手が『彼』に届く事はない。

 忘れて欲しい、と。
 幸せになって欲しい、と。

『彼』が最後に遺した優しい【呪い】が、少しずつルキナの心を包む様に、記憶の中の『彼』の姿を隠していく。
 それでも、決して忘れる事など出来ないから。
 忘れたくなど、ないのだから。
 せめて『彼』の存在だけは、その名だけでも、最期まで忘れずにいられる事を願いながら。



 月と星が見守る中、ルキナは『彼』の名を呼びながら独り涙を溢す。



 それだけが、彼女以外の誰にも知られずに消えた『ロビン』への、手向けであった。




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