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END【掛け違えた道の先で、君と】

◇◇◇◇




 死に物狂いで走って辿り着いた山頂の祭壇は、少し荒れてはいるものの未だ健在で。
 その事に安堵したルキナは、走り続けた為に切れ切れになった息を僅かに整える。

 そして、祭壇に完成された『炎の紋章』を捧げ。
 聖王家に代々伝わる『誓言』を述べた。


「神竜ナーガよ……我、資格を示す者。
 その火に焼かれ、汝の子となるを望む者なり。
 我が声に耳を傾け、我が祈りに応えたまえ……」


 その言葉を捧げると共に、激しい焔がルキナの身を包んだ。
 焔に包まれる痛みに耐えルキナは一心に祈りを捧げ続ける。

 どうか、私に『ギムレー』を討つ力を……! と。

 焔が何れ程の時間、己の身を包んでいたのかはルキナには分からないが。
 ふとした瞬間に、その焔は掻き消えた。

 そして──


『【覚醒の儀】を行いし者よ……。
 我が炎に洗われた心に残った願いは、ギムレーを討つ力を欲す──。
 我が炎にも焼き尽くされぬ強きその想い、確かに私に届きました』


 フワリと。
 虚空から姿を現したのは、神竜ナーガだ。


『その願いに応え、力を授けましょう。
 私の加護を受けた貴女は……我が牙……ファルシオンの真なる力を引き出す事が出来ます。
 その剣があれば、私と同じ力を使う事が出来ましょう』


 その言葉にルキナは、やっと一つ成し遂げたのだと打ち震えた。


「これで、……これで、やっと……。
 あの邪竜を討ち滅ぼす事が……」


 出来るのだ、と。
 そう感極まって呟いたルキナに。
 ナーガは静かに首を横に振る。


『いいえ、ギムレーを滅ぼす事は出来ません』


 全ての前提を覆しかねないその言葉に、ルキナは瞠目した。


「そんな、貴方は神竜ナーガなのでは……。
 力を、授けると……」


 それに、千年前に初代聖王はナーガの力を得てギムレーを討ったのではないのだろうか……。
 混乱するルキナに、ナーガは滔々と説明する。

 曰く、強大な力こそ持ってはいるが、自分は神ではなく、そして万能でも無く万物の創造主でも無い。
 故に、自分と同格の存在である『ギムレー』を滅する事は出来ない……正確にはその方法が分からない。
 だが、『ギムレー』を千年封じる事ならば出来るのだ、と。

 そう、神竜ナーガはルキナに説明した……。

 …………。
『ギムレー』を討ち滅ぼす事が叶わないのだとしても。
 今、滅びに瀕した世界を救う事ならば、出来る。
 ……千年後の世にその禍根を引き継がせる事になるのは、遣る瀬無いが。
 ルキナは、今成せる最善の事を成さねばならない。
 ならば、成すべき事は、一つ。
『ギムレー』の封印だ。

 しかしそうは言っても。
 まるで一つの大陸の様に巨大な竜を相手に、どう対処すれば良いのだろうか。
 幾らファルシオンにナーガの力が宿っているとは言え、それを振るうルキナは人間だ。
 闇雲に攻撃を重ねていた処で、塵を払う様に薙ぎ払われるだけである。

 そんな時、ナーガが驚いた様に目を見開いた。


『これは……一体、何故……。
 ……ですが、この機を逃す訳には……』


 ルキナには知覚する事も叶わないが、ナーガは何かを察知したらしい。
 そして、改めてルキナに向かい合った。


『今は僅かな時間も惜しい……。
 今から、貴女を貴女の仲間達の前に……、ギムレーの前へと、送ります』


 そして、と続けて説明する。


『そこに居る者に、ファルシオンで止めを刺せば。
 ギムレーを封じる事が出来るでしょう……』


 どう言う事なのか、何が起きているのかはまだルキナには分からないが。
『ギムレー』を封じる千載一遇の機会がやって来ているのだと言う事だけは、肌で感じた。
 だから、ルキナはナーガの言葉に頷く。


 そして、次の瞬間には──




◇◇◇◇
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