END【掛け違えた道の先で、君と】
■■■■■■
遠くに見える彼等の小さな背中がもう視認出来ない程になって、漸く『僕』は一つ息を吐いた。
その途端に己を蝕む『ギムレー』の衝動を、歯を食い縛って何とか耐える。
まだだ、まだ、『僕』は、消える訳には、いかない。
せめて、彼等が、もっと『僕』から離れる、までは──
ルキナの元を去ってから、『僕』が『僕』で居られる時間は既にとても短くなっていた。
それは最初から承知の上の事であったのだけれど。
それでも、『僕』が消えていくのを、本来の『ギムレー』に溶けていこうとしているのを自覚しながらも、こうやって未練がましくしがみつこうとしているのは。
偏に、何よりも大切な、彼女の力になる為だ。
『僕』が『僕』自身で決着を付けられるのならばそれが一番なのは、分かっているけれども。
幾ら乖離していようとも所詮は、『ギムレー』の中の人格の一欠片に過ぎぬ『僕』では。
自殺と言う形で、『ギムレー』を終わらせる事は、出来ない。
『ギムレー』の意志の中で、『僕』がそれに抗って成せる範疇を超えてしまっているからだ。
ルキナを守る為にその傍を去った『僕』は、消え行く中でルキナの為に一体何が出来るのかと考えた。
自殺は……残念ながら出来ない。
『ギムレー』の力を大きく使うような事をすれば、益々『僕』が完全に消えるまでの時間が早まってしまい、それは結果としてルキナを殺してしまいかねない。
時間を稼ぐと言う観点では、このまま『僕』が完全に消えてしまうその時まで、『ギムレー』を抑え続けると言うのが一番なのであろう。
それならば恐らくは……一年は叶わなくても、半年以上は『ギムレー』を抑え込んでいられるだろう。
それもまた一つの道だ。
……だけれども……、その半年の間に『覚醒の儀』を行えなければ、結局ルキナを待つのは死の運命のみとなる。
だから、『僕』は……。
消え行く『僕』に出来るせめてもの手助けとして。
彼女が『炎の紋章』を完成させられる様に……。
そして『覚醒の儀』を行って、『ギムレー』を……『僕』を、殺せるように。
宝玉と台座を捜索している彼女の仲間達の旅路を、陰ながらに見守り、可能な限りの手助けをしていた。
……彼女から離れて程無くして、『僕』は次第に『僕』では居られなくなった。
『ギムレー』の侵食は止まらず、もう『僕』としての意識も記憶も、欠片程にしか残ってはいない。
彼女と過ごしてきた時間を、その時の心を。
『僕』は、もう、殆ど、……思い出せない。
それでも、まだ残っているモノはある。
彼女を守りたいという『想い』は、そして彼女を愛しその幸せを願う『心』は。
何れ程『ギムレー』に削られてしまっていても、まだ、『僕』を繋ぎ止めていてくれた。
ほんの僅かな時間であっても、『僕』が『僕』として彼女の仲間を助ける為の時間を与えてくれた。
彼等の旅路を見守り、『ギムレー』が仕掛けた罠や追っ手から彼等を守る事が出来たのは、そのお陰だ。
そして今、彼等は全員無事に合流を果たし、イーリスへ向かおうとしている……。
それを、最後まで見守れたら……。
いや、出来るならば。
彼女が『覚醒の儀』を行い、この身にその刃を突き立てる瞬間。
その時まで、『僕』が『僕』として、彼女を『ギムレー』から守れるのならば。
そんな淡い『希望』を、抱いてしまう。
そしてそれと同時に、『奇跡』も願ってしまうのだ。
彼女がナーガの力を得れば、きっと『ギムレー』を封印する事が出来る。
……それを、『僕』が見届ける事は、きっともう出来ないだろうけれども。
……もし何かの『奇跡』が起きて、その瞬間に『僕』が存在出来れば。
ルキナに、本当の意味での決着を……封印ではなく、『ギムレー』の消滅を、果たさせてあげられるだろう。
……それはきっと叶わない夢物語なのだろうけれど、それでもそんな『奇跡』を祈ってしまう。
だが、もう……。
『僕』に、時間は残されていない。
もう間も無く、『僕』は完全に消え、そして恐らくは、二度と表に浮かび上がる事は無いだろう。
…………彼女から離れた時点で、遠からず『僕』に訪れる結末だ。
だから、その事自体には未練は無いのだけれども……。
それでも。
彼女と『ギムレー』が相対した時に。
もし、『奇跡』が起こるのなら…………、と。
そんな事を考えてしまう。
……全く、未練がましい事だ。
ここから先を、『僕』が見届ける事は叶わない。
だからせめて、祈りを捧げよう。
この先の未来に。
彼女が『ギムレー』を討った未来に。
彼女が彼女の思うがままに生きて、そして『幸せ』で在れる事を。
彼女が、大切な『誰か』と笑い合える日々が訪れるであろう事を。
彼女の旅路に、幸多からん事を……。
『僕』は、願おう──
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遠くに見える彼等の小さな背中がもう視認出来ない程になって、漸く『僕』は一つ息を吐いた。
その途端に己を蝕む『ギムレー』の衝動を、歯を食い縛って何とか耐える。
まだだ、まだ、『僕』は、消える訳には、いかない。
せめて、彼等が、もっと『僕』から離れる、までは──
ルキナの元を去ってから、『僕』が『僕』で居られる時間は既にとても短くなっていた。
それは最初から承知の上の事であったのだけれど。
それでも、『僕』が消えていくのを、本来の『ギムレー』に溶けていこうとしているのを自覚しながらも、こうやって未練がましくしがみつこうとしているのは。
偏に、何よりも大切な、彼女の力になる為だ。
『僕』が『僕』自身で決着を付けられるのならばそれが一番なのは、分かっているけれども。
幾ら乖離していようとも所詮は、『ギムレー』の中の人格の一欠片に過ぎぬ『僕』では。
自殺と言う形で、『ギムレー』を終わらせる事は、出来ない。
『ギムレー』の意志の中で、『僕』がそれに抗って成せる範疇を超えてしまっているからだ。
ルキナを守る為にその傍を去った『僕』は、消え行く中でルキナの為に一体何が出来るのかと考えた。
自殺は……残念ながら出来ない。
『ギムレー』の力を大きく使うような事をすれば、益々『僕』が完全に消えるまでの時間が早まってしまい、それは結果としてルキナを殺してしまいかねない。
時間を稼ぐと言う観点では、このまま『僕』が完全に消えてしまうその時まで、『ギムレー』を抑え続けると言うのが一番なのであろう。
それならば恐らくは……一年は叶わなくても、半年以上は『ギムレー』を抑え込んでいられるだろう。
それもまた一つの道だ。
……だけれども……、その半年の間に『覚醒の儀』を行えなければ、結局ルキナを待つのは死の運命のみとなる。
だから、『僕』は……。
消え行く『僕』に出来るせめてもの手助けとして。
彼女が『炎の紋章』を完成させられる様に……。
そして『覚醒の儀』を行って、『ギムレー』を……『僕』を、殺せるように。
宝玉と台座を捜索している彼女の仲間達の旅路を、陰ながらに見守り、可能な限りの手助けをしていた。
……彼女から離れて程無くして、『僕』は次第に『僕』では居られなくなった。
『ギムレー』の侵食は止まらず、もう『僕』としての意識も記憶も、欠片程にしか残ってはいない。
彼女と過ごしてきた時間を、その時の心を。
『僕』は、もう、殆ど、……思い出せない。
それでも、まだ残っているモノはある。
彼女を守りたいという『想い』は、そして彼女を愛しその幸せを願う『心』は。
何れ程『ギムレー』に削られてしまっていても、まだ、『僕』を繋ぎ止めていてくれた。
ほんの僅かな時間であっても、『僕』が『僕』として彼女の仲間を助ける為の時間を与えてくれた。
彼等の旅路を見守り、『ギムレー』が仕掛けた罠や追っ手から彼等を守る事が出来たのは、そのお陰だ。
そして今、彼等は全員無事に合流を果たし、イーリスへ向かおうとしている……。
それを、最後まで見守れたら……。
いや、出来るならば。
彼女が『覚醒の儀』を行い、この身にその刃を突き立てる瞬間。
その時まで、『僕』が『僕』として、彼女を『ギムレー』から守れるのならば。
そんな淡い『希望』を、抱いてしまう。
そしてそれと同時に、『奇跡』も願ってしまうのだ。
彼女がナーガの力を得れば、きっと『ギムレー』を封印する事が出来る。
……それを、『僕』が見届ける事は、きっともう出来ないだろうけれども。
……もし何かの『奇跡』が起きて、その瞬間に『僕』が存在出来れば。
ルキナに、本当の意味での決着を……封印ではなく、『ギムレー』の消滅を、果たさせてあげられるだろう。
……それはきっと叶わない夢物語なのだろうけれど、それでもそんな『奇跡』を祈ってしまう。
だが、もう……。
『僕』に、時間は残されていない。
もう間も無く、『僕』は完全に消え、そして恐らくは、二度と表に浮かび上がる事は無いだろう。
…………彼女から離れた時点で、遠からず『僕』に訪れる結末だ。
だから、その事自体には未練は無いのだけれども……。
それでも。
彼女と『ギムレー』が相対した時に。
もし、『奇跡』が起こるのなら…………、と。
そんな事を考えてしまう。
……全く、未練がましい事だ。
ここから先を、『僕』が見届ける事は叶わない。
だからせめて、祈りを捧げよう。
この先の未来に。
彼女が『ギムレー』を討った未来に。
彼女が彼女の思うがままに生きて、そして『幸せ』で在れる事を。
彼女が、大切な『誰か』と笑い合える日々が訪れるであろう事を。
彼女の旅路に、幸多からん事を……。
『僕』は、願おう──
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