END【掛け違えた道の先で、君と】
◇◇◇◇
取り急ぎ王城に帰還したルキナを出迎えた仲間達は。
旅立つ前よりもかなり草臥れてはいたが、皆壮健そうであった。
少なくとも、目に付く様な大きな負傷は無さそうに見える。
その事が、皆が誰一人欠ける事無く帰還してくれた事が、何よりも嬉しくて。
ルキナは思わず涙ぐんでしまう。
長い長い旅路の末に漸く帰還を果たしたからか、仲間達の顔には疲労の色が見えるが。
それでも、『成し遂げた』のだと。
彼等の目は、何よりも雄弁に語っていた。
かつてイーリスから奪われた『炎の台座』と『白炎』。
フェリアから喪われた『緋炎』。
ヴァルム帝国との動乱の際に、ヴァルム大陸から行方知れずとなった『蒼炎』と『碧炎』。
そして、ペレジアに隠されていると密かに囁かれ続けていた『黒炎』。
『炎の台座』と五つの宝玉を、仲間達の手から受け取ったルキナは。
感動に打ち震えながら、宝玉を台座に納めてゆき、『炎の紋章』を完成させた。
漸く、これで……。
漸くこれで、『ギムレー』を討つ為の力を手に入れる事が、出来るのだ。
『希望』が。
長い間ルキナ達が求めて戦い続けたそれが、やっと……。
この手の届く所にまでやって来た。
その事が、どうしようもなく、嬉しい。
「皆が無事でいて……何よりです。
そして、有り難う……。
これでやっと、『希望』が、この世界にも……」
感謝の言葉は、嗚咽となって最早言葉としての形を成していなかったが。
それでも、この想いを伝えるべくルキナは感動に震える唇を動かして言葉を紡ごうとする。
無駄では、無かった。
諦めず、皆の帰りを信じて戦い続けた日々は。
決して、無駄では無かったのだ。
諦めずに戦い続けたからこそ。
今この瞬間が訪れたのだから。
勿論、ルキナにとっての真の試練はこれからだ。
『覚醒の儀』を行い、『ギムレー』を討たねばならない。
だけれども、ルキナが『孤独』に戦い続けていた日々は、今この瞬間に報われたのだ。
だがそんなルキナの想いとは裏腹に、胸の内の何処かに抱えた『虚ろ』は囁く。
(ただ待つ事しか出来なかった日々でも、自分は『孤独』では無かった。
私の傍には、何時だって『 』が、私だけの『 』が、居てくれたのだから……。
なのに、私はそれを喪ってしまったのだ)
胸の『虚ろ』がそう囁く度に、どうしてか酷く苦しくなる。
あの日々に、私の傍には誰も居なかった筈なのに、ずっと『独り』で戦ってきた筈なのに。
違うのだと。
『 』との日々を忘れるな。と。
『 』の事を忘れ、『孤独』であったのだと偽ってはいけないのだと。
そう、心は叫ぶ。
今は、漸くこの手に届きそうな『希望』の事に注力するべきなのに。
ナーガの力を得て『ギムレー』を討ち、世界を覆う絶望を晴らす事を考えなくてはならないのに。
何故か。
このままでは『 』を永遠に喪ってしまうのだと。
取り戻す事も、思い出す事も出来ぬままに、『 』は消えるのだ、と。
そんな焦燥が、訳もなくルキナの胸の内に渦巻き、出口も見えないままに荒れ狂う。
でも、ルキナにはどうする事も出来ない。
思い出す事も出来ぬ『何か』に囚われて、手が届く場所にまで辿り着けた『希望』を喪う訳にはいかないのだ…………。
だからこそルキナは、『虚ろ』の囁きに耳を塞ぐ。
気付かない振りをして、見なかった振りをして、聞かなかった振りをして。
自分には、忘れてしまった『何か』など無いのだと。
思い出せない『何か』など、在りはしないのだと。
そう自分に言い聞かせて、胸に根深く巣食ってしまった『虚ろ』から、必死に目を逸らすのだ。
そうやってルキナが、心の『虚ろ』の囁きを追い払おうとしていると。
感極まって言葉を喪ったのだと勘違いしたのだろうか?
仲間達が次々に旅の中での出来事を語って聞かせてくれた。
曰く、仲間達は途中で三手に別れて、各々に手分けして台座と宝玉の行方を追っていたのだと言う。
宝玉と台座は、どれもバラバラの場所に、強力な屍兵達に守られる様にして厳重に保管されていた。
それを何とかして奪還して(ここでウードが大袈裟な身振り手振りと語り口で語ろうとしたが、他の仲間達によって口を塞がれた)、屍兵の追撃を受けながらもこうやって帰還を果たしたらしい。
説明しながら、ふと気になった事でもあったかの様に、シンシアがポツリと呟く。
「そう言えばさ、『蒼炎』を奪い返した時に。
弓兵の屍兵も一杯居た筈なのに、追撃してきた屍兵の中には弓兵が一体も居なかったんだよね」
それで逃げ切れたから良いんだけど、不思議だよねと。
そうシンシアが言うと。
似た様な事が他にも思い当たったのか、俺も私もと、その『不思議な出来事』を口々に話していく。
屍兵の勢力圏であった筈なのに何故か襲われる事が無い夜が幾度となくあったと、シャンブレーは語る。
水と食料が尽きかけた時に偶々見付けた廃村に十分な量の保存食と新鮮な飲み水を見付ける事が出来た事が数回あったのだと、ブレディが語る。
武器が摩耗して心許なくなった時に限って、倒した屍兵が自らの得物となる武器を残して消える事が多かったのだと、デジェルが語る。
倒木や落石で道が塞がっていた為迂回するしか無かった時に限って、結果的に屍兵の集団を回避出来た事が多かったと、セレナは語る。
厳重に宝玉を守っていた屍兵達がふとした瞬間に巡回するルートを変えた為に、無駄な損耗も無く宝玉を奪還出来た事があったのだと、アズールが語る。
『白炎』奪還時に、追撃してくる屍兵だけを巻き込む様に土砂崩れが発生した事があり、それによって追撃を辛くも振り切る事が出来たのだと、ロランは語る。
仲間達との合流前に立ち寄った廃墟で一泊しようとした時に、偶然にも火事が起こって廃墟から出て行かざるを得なかったのだが、実は広い廃墟には大量の屍兵が潜伏していて、結果として火事が起こって屍兵が一体残らず燃えた為に、辛くも窮地に陥らずに済んだのだと、ノワールが語る。
仲間との合流前に峡谷を通過した時に屍兵の大集団に追撃を受けたのだが、ウードと同行していたアズールとシャンブレーとブレディが吊り橋を渡り終えた直後に、吊り橋に雷が落ちて、追撃しようとしていた屍兵を巻き込んで橋が落ちた為に、絶体絶命の危機であった所を乗り越えられたのだと、ウードは語る。
そんな一度や二度ならばまだしも、とても『偶然』や『幸運』によるものなんて考えられない程の『不思議な出来事』の数々によって、仲間達は帰還を果たしたと言うのだ。
「見守っててくれてたのかな」と溢したのは、誰だったのだろうか。
それは分からないが。
『何者か』に守られていたとしか思えない様なその『不思議な』出来事の数々に、今は亡き父や母達が自分達を見守ってくれていたのであろうかと思うのも、当然の心理なのだろう。
すると、それまで黙していたジェロームが、何事かを考える様な素振りを見せた後に、口を開いた。
「時折だが、……『何者か』の視線を感じる事があった。
ミネルヴァが警戒する素振りも無かった為、気の所為なのかと、思っていたのだが……」
もしかしたら、自分達を見守っていた『何者か』が実際に居たのかもしれない、と。
そう語るジェロームにンンも、もしかして、と呟く。
ノワールが語った、廃墟での出来事の時の事だ。
火事が起きる直前に、遠目に人影の様なモノを見た気がするのだ、と。
それはほんの一瞬の事であったし、その後直ぐに離れた場所とは言え火の手が上がってしまったので、その時はその人影の事を気にする余裕は無かったのだが。
もしかして、その人影こそが、自分達を見守っていた『何者か』であったのではないか、と。
ンンはそう少し自信無さげに語った。
…………。
彼等を見守っていた『何者か』が実在していたのかそれともそうで無いのかは、今となっては確かめようも無い事ではあるのだが。
何にせよ、その『不思議な出来事』の数々に助けられ、仲間達は皆無事に合流を果たしたのだと言う。
…………だが。
それまでの道中での加護が途切れたかの様に、合流後のイーリスまでの旅路は苛烈を極めるモノとなったのだ。
無限に現れる屍兵達の追撃は執拗に繰り返され、ロクに休息を取る事も出来ないままに王都への強行軍を敢行するしか無かったのだと言う。
仲間達の誰もが窶れて見えるのは、その疲労の為なのだろう……。
一通りの話を聞き終えたルキナは、とにかく今は休む様にと、仲間達に伝えた。
『炎の紋章』が完成した今、ルキナ達は可及的速やかに『虹の降る山』の祭壇へと向かい、『覚醒の儀』を執り行ってファルシオンに神竜の力を取り戻す必要がある。
だが、ナーガの領域である山の周辺はまだしも、その道中は既に屍兵の蠢く領域だ。
そこを突破せねばならぬのだから、十分に英気を養う必要がある。
王都防衛の為にも、兵達の多くは残していかねばならないので、実際は少数精鋭で祭壇まで辿り着かなければならない。
そして、その道中の困難も然る事ながら、何よりも。
不気味な程に直接的には表に出ようとはしない『ギムレー』が、『覚醒の儀』の気配を察知すればどう動くのかが未知数である。
自分を害する力を人が得ようとしているのに、幾ら何でも静観し続けると言う事もあるまい。
屍兵によって妨害しようとするのならまだしも、『ギムレー』自身が乗り込んでくる可能性もあった。
最悪の場合、『虹の降る山』が決戦の場となるだろう。
それ故に、準備は万全を期しても足りない程である。
だが、何れ程困難であろうとも。
『希望』の足音はもう直ぐ其処にまで近付いているのだ。
だからこそ、ルキナ達が負ける訳にはいかないのであった。
数日間の休息で完全に回復した仲間達と共に、可能な限りの支度を整えたルキナは。
完成された『炎の紋章』を携えて、一路『虹の降る山』を目指すのであった……。
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取り急ぎ王城に帰還したルキナを出迎えた仲間達は。
旅立つ前よりもかなり草臥れてはいたが、皆壮健そうであった。
少なくとも、目に付く様な大きな負傷は無さそうに見える。
その事が、皆が誰一人欠ける事無く帰還してくれた事が、何よりも嬉しくて。
ルキナは思わず涙ぐんでしまう。
長い長い旅路の末に漸く帰還を果たしたからか、仲間達の顔には疲労の色が見えるが。
それでも、『成し遂げた』のだと。
彼等の目は、何よりも雄弁に語っていた。
かつてイーリスから奪われた『炎の台座』と『白炎』。
フェリアから喪われた『緋炎』。
ヴァルム帝国との動乱の際に、ヴァルム大陸から行方知れずとなった『蒼炎』と『碧炎』。
そして、ペレジアに隠されていると密かに囁かれ続けていた『黒炎』。
『炎の台座』と五つの宝玉を、仲間達の手から受け取ったルキナは。
感動に打ち震えながら、宝玉を台座に納めてゆき、『炎の紋章』を完成させた。
漸く、これで……。
漸くこれで、『ギムレー』を討つ為の力を手に入れる事が、出来るのだ。
『希望』が。
長い間ルキナ達が求めて戦い続けたそれが、やっと……。
この手の届く所にまでやって来た。
その事が、どうしようもなく、嬉しい。
「皆が無事でいて……何よりです。
そして、有り難う……。
これでやっと、『希望』が、この世界にも……」
感謝の言葉は、嗚咽となって最早言葉としての形を成していなかったが。
それでも、この想いを伝えるべくルキナは感動に震える唇を動かして言葉を紡ごうとする。
無駄では、無かった。
諦めず、皆の帰りを信じて戦い続けた日々は。
決して、無駄では無かったのだ。
諦めずに戦い続けたからこそ。
今この瞬間が訪れたのだから。
勿論、ルキナにとっての真の試練はこれからだ。
『覚醒の儀』を行い、『ギムレー』を討たねばならない。
だけれども、ルキナが『孤独』に戦い続けていた日々は、今この瞬間に報われたのだ。
だがそんなルキナの想いとは裏腹に、胸の内の何処かに抱えた『虚ろ』は囁く。
(ただ待つ事しか出来なかった日々でも、自分は『孤独』では無かった。
私の傍には、何時だって『 』が、私だけの『 』が、居てくれたのだから……。
なのに、私はそれを喪ってしまったのだ)
胸の『虚ろ』がそう囁く度に、どうしてか酷く苦しくなる。
あの日々に、私の傍には誰も居なかった筈なのに、ずっと『独り』で戦ってきた筈なのに。
違うのだと。
『 』との日々を忘れるな。と。
『 』の事を忘れ、『孤独』であったのだと偽ってはいけないのだと。
そう、心は叫ぶ。
今は、漸くこの手に届きそうな『希望』の事に注力するべきなのに。
ナーガの力を得て『ギムレー』を討ち、世界を覆う絶望を晴らす事を考えなくてはならないのに。
何故か。
このままでは『 』を永遠に喪ってしまうのだと。
取り戻す事も、思い出す事も出来ぬままに、『 』は消えるのだ、と。
そんな焦燥が、訳もなくルキナの胸の内に渦巻き、出口も見えないままに荒れ狂う。
でも、ルキナにはどうする事も出来ない。
思い出す事も出来ぬ『何か』に囚われて、手が届く場所にまで辿り着けた『希望』を喪う訳にはいかないのだ…………。
だからこそルキナは、『虚ろ』の囁きに耳を塞ぐ。
気付かない振りをして、見なかった振りをして、聞かなかった振りをして。
自分には、忘れてしまった『何か』など無いのだと。
思い出せない『何か』など、在りはしないのだと。
そう自分に言い聞かせて、胸に根深く巣食ってしまった『虚ろ』から、必死に目を逸らすのだ。
そうやってルキナが、心の『虚ろ』の囁きを追い払おうとしていると。
感極まって言葉を喪ったのだと勘違いしたのだろうか?
仲間達が次々に旅の中での出来事を語って聞かせてくれた。
曰く、仲間達は途中で三手に別れて、各々に手分けして台座と宝玉の行方を追っていたのだと言う。
宝玉と台座は、どれもバラバラの場所に、強力な屍兵達に守られる様にして厳重に保管されていた。
それを何とかして奪還して(ここでウードが大袈裟な身振り手振りと語り口で語ろうとしたが、他の仲間達によって口を塞がれた)、屍兵の追撃を受けながらもこうやって帰還を果たしたらしい。
説明しながら、ふと気になった事でもあったかの様に、シンシアがポツリと呟く。
「そう言えばさ、『蒼炎』を奪い返した時に。
弓兵の屍兵も一杯居た筈なのに、追撃してきた屍兵の中には弓兵が一体も居なかったんだよね」
それで逃げ切れたから良いんだけど、不思議だよねと。
そうシンシアが言うと。
似た様な事が他にも思い当たったのか、俺も私もと、その『不思議な出来事』を口々に話していく。
屍兵の勢力圏であった筈なのに何故か襲われる事が無い夜が幾度となくあったと、シャンブレーは語る。
水と食料が尽きかけた時に偶々見付けた廃村に十分な量の保存食と新鮮な飲み水を見付ける事が出来た事が数回あったのだと、ブレディが語る。
武器が摩耗して心許なくなった時に限って、倒した屍兵が自らの得物となる武器を残して消える事が多かったのだと、デジェルが語る。
倒木や落石で道が塞がっていた為迂回するしか無かった時に限って、結果的に屍兵の集団を回避出来た事が多かったと、セレナは語る。
厳重に宝玉を守っていた屍兵達がふとした瞬間に巡回するルートを変えた為に、無駄な損耗も無く宝玉を奪還出来た事があったのだと、アズールが語る。
『白炎』奪還時に、追撃してくる屍兵だけを巻き込む様に土砂崩れが発生した事があり、それによって追撃を辛くも振り切る事が出来たのだと、ロランは語る。
仲間達との合流前に立ち寄った廃墟で一泊しようとした時に、偶然にも火事が起こって廃墟から出て行かざるを得なかったのだが、実は広い廃墟には大量の屍兵が潜伏していて、結果として火事が起こって屍兵が一体残らず燃えた為に、辛くも窮地に陥らずに済んだのだと、ノワールが語る。
仲間との合流前に峡谷を通過した時に屍兵の大集団に追撃を受けたのだが、ウードと同行していたアズールとシャンブレーとブレディが吊り橋を渡り終えた直後に、吊り橋に雷が落ちて、追撃しようとしていた屍兵を巻き込んで橋が落ちた為に、絶体絶命の危機であった所を乗り越えられたのだと、ウードは語る。
そんな一度や二度ならばまだしも、とても『偶然』や『幸運』によるものなんて考えられない程の『不思議な出来事』の数々によって、仲間達は帰還を果たしたと言うのだ。
「見守っててくれてたのかな」と溢したのは、誰だったのだろうか。
それは分からないが。
『何者か』に守られていたとしか思えない様なその『不思議な』出来事の数々に、今は亡き父や母達が自分達を見守ってくれていたのであろうかと思うのも、当然の心理なのだろう。
すると、それまで黙していたジェロームが、何事かを考える様な素振りを見せた後に、口を開いた。
「時折だが、……『何者か』の視線を感じる事があった。
ミネルヴァが警戒する素振りも無かった為、気の所為なのかと、思っていたのだが……」
もしかしたら、自分達を見守っていた『何者か』が実際に居たのかもしれない、と。
そう語るジェロームにンンも、もしかして、と呟く。
ノワールが語った、廃墟での出来事の時の事だ。
火事が起きる直前に、遠目に人影の様なモノを見た気がするのだ、と。
それはほんの一瞬の事であったし、その後直ぐに離れた場所とは言え火の手が上がってしまったので、その時はその人影の事を気にする余裕は無かったのだが。
もしかして、その人影こそが、自分達を見守っていた『何者か』であったのではないか、と。
ンンはそう少し自信無さげに語った。
…………。
彼等を見守っていた『何者か』が実在していたのかそれともそうで無いのかは、今となっては確かめようも無い事ではあるのだが。
何にせよ、その『不思議な出来事』の数々に助けられ、仲間達は皆無事に合流を果たしたのだと言う。
…………だが。
それまでの道中での加護が途切れたかの様に、合流後のイーリスまでの旅路は苛烈を極めるモノとなったのだ。
無限に現れる屍兵達の追撃は執拗に繰り返され、ロクに休息を取る事も出来ないままに王都への強行軍を敢行するしか無かったのだと言う。
仲間達の誰もが窶れて見えるのは、その疲労の為なのだろう……。
一通りの話を聞き終えたルキナは、とにかく今は休む様にと、仲間達に伝えた。
『炎の紋章』が完成した今、ルキナ達は可及的速やかに『虹の降る山』の祭壇へと向かい、『覚醒の儀』を執り行ってファルシオンに神竜の力を取り戻す必要がある。
だが、ナーガの領域である山の周辺はまだしも、その道中は既に屍兵の蠢く領域だ。
そこを突破せねばならぬのだから、十分に英気を養う必要がある。
王都防衛の為にも、兵達の多くは残していかねばならないので、実際は少数精鋭で祭壇まで辿り着かなければならない。
そして、その道中の困難も然る事ながら、何よりも。
不気味な程に直接的には表に出ようとはしない『ギムレー』が、『覚醒の儀』の気配を察知すればどう動くのかが未知数である。
自分を害する力を人が得ようとしているのに、幾ら何でも静観し続けると言う事もあるまい。
屍兵によって妨害しようとするのならまだしも、『ギムレー』自身が乗り込んでくる可能性もあった。
最悪の場合、『虹の降る山』が決戦の場となるだろう。
それ故に、準備は万全を期しても足りない程である。
だが、何れ程困難であろうとも。
『希望』の足音はもう直ぐ其処にまで近付いているのだ。
だからこそ、ルキナ達が負ける訳にはいかないのであった。
数日間の休息で完全に回復した仲間達と共に、可能な限りの支度を整えたルキナは。
完成された『炎の紋章』を携えて、一路『虹の降る山』を目指すのであった……。
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