END【旅路の果てに時よ廻れ】
◇◇◇◇
急ぎ王都に戻ったルキナを出迎えた仲間達は……。
何故かそこに使命を果たし帰還した喜びや安堵は無く、皆一様に何かに絶望した様な顔をしていた。
何かを深く悔やむ様に、拳を固く握り締めて震わせている者も多かった。
どうして、その様な顔をしているのだろう。
宝玉を、台座を、取り戻してきたのではないのか、と。
だが、ルキナが彼等に『何か』を問える筈も無く。
場には重苦しい沈黙が落ちる。
そんな中で真っ先に口を開いたのは。
ルキナの従兄弟であるウードであった。
仲間達は確かに『炎の台座』を奪還し、宝玉も手に入れた。
しかし、彼等が見付け出せた宝玉は、四つ。
最後の一つ、『黒炎』は、何れ程方々を探し回っても、終ぞ見付けられなかったのだと言う。
『黒炎』の探索に時間を掛け過ぎて、激化する屍兵達の度重なる襲撃によって全滅する可能性すらも出てきた時に。
仲間達の意見は二つに割れたのだと言う。
このまま『黒炎』を探し、五つの宝玉を揃えて『炎の紋章』を完成させてからイーリスに帰ろうとする者。
そして、台座と四つの宝玉すらも喪う事だけは避ける為に、『黒炎』の捜索は諦めて一旦イーリスに帰還しようとする者。
真っ二つに別れた彼等の意見は。
最終的に、『黒炎』を諦める事で決着が着いたのだ。
そう説明したウードは、ルキナに深く頭を下げた。
自分が『黒炎』を諦めるように仲間達皆を説得したのだと。
だから、不完全な状態の『炎の紋章』しか持ち帰られなかった責は、自分にあるのだ、と。
そう謝罪するウードを、ルキナが責められる訳が無かった。
五つの宝玉が揃った完全な『炎の紋章』でなければ、ギムレーに抗するための『覚醒の儀』は行えない。
だけれども、『炎の紋章』を完成させる事に固執して、その全てを喪ってしまえば。
最早全ての『希望』の芽が摘み取られてしまう。
何としてでも『黒炎』を探そうとした者も、例え『炎の紋章』が不完全な状態でも一旦帰還しようとしたウードも。
どちらも、正しいのだ。
ウードは、正しい選択をした。
それを、責められる筈が、無い。
だが、この状況は決して良いモノでは無かった。
『覚醒の儀』は未だ行えず、そしてイーリス王都が陥落する日はそう遠くは無い未来となってしまっている。
再び仲間達を『黒炎』探索に向かわせる猶予は、もう無い。
『 』ならば、こんな時にどうするのだろう。
ふと、ルキナの胸の内に、『思い出せない』、『知らない』『誰か』の事が過る。
一体それが『誰』なのか、ルキナには分からない。
だけれども。
ルキナが行き詰まってしまった時に、道に迷ってしまった時に。
何時だって、道を指し示し導いてくれた『誰か』が、居た気がする。
それはルキナの願望が見せた妄想だったのだろうか……?
…………。
何にせよ、今のルキナの傍にはその様な者は居ない。
ルキナが、皆に道を示さねばならないのだ。
ルキナは考え抜き、そして。
一つの決断を、下す。
「『覚醒の儀』を、行いましょう」
その言葉に、仲間達は騒めいた。
揃った宝玉は、四つ。
完全な『覚醒の儀』は、それでは行えないのだから。
確かにそれはそうだ。
だが、例え《完全な》『覚醒の儀』は行えないのだとしても。
五つの内四つまでもが揃っているのだ。
《不完全》ながらも、『覚醒の儀』を行えば、ギムレーに対抗する何らかの力を得られる可能性は、0ではない筈だ。
それに、最早人々には『黒炎』捜索を行う猶予も余裕も残されてはいない。
このまま何もしなければ、完全になる筈など有り得ない不完全な『炎の紋章』を抱いたまま、滅びるしかなくなる。
ならば、その可能性が如何に低かろうと。
ルキナがやるべき事は一つであった。
そうと決まれば、『覚醒の儀』を行う為にも『虹の降る山』の山頂に設けられた祭壇に向かう必要があった。
だが、ナーガの領域である『虹の降る山』はまだその力が及んではいないと信じたいが、イーリス王都から『虹の降る山』までの道中は、既に屍兵の領域だ。
厳しい行軍になるのが、目に見えていた。
それでも、やり遂げなければならない。
まだ、絶望を前に膝をつく訳にはいかないのだから。
ルキナは、仲間達に出立の時までを休養にあてる様に厳命し、兵達には行軍の準備を行う様に指示する。
世界はまだ、『絶望』に染まりきってはいない筈だと、ルキナは『何か』に縋る様に信じていた。
だが、『覚醒の儀』を行う事を決めた、その日の夜に。
イーリス王都は、かつて無い程の大規模な屍兵の襲撃を受けたのだった…………。
◇◇◇◇◇
急ぎ王都に戻ったルキナを出迎えた仲間達は……。
何故かそこに使命を果たし帰還した喜びや安堵は無く、皆一様に何かに絶望した様な顔をしていた。
何かを深く悔やむ様に、拳を固く握り締めて震わせている者も多かった。
どうして、その様な顔をしているのだろう。
宝玉を、台座を、取り戻してきたのではないのか、と。
だが、ルキナが彼等に『何か』を問える筈も無く。
場には重苦しい沈黙が落ちる。
そんな中で真っ先に口を開いたのは。
ルキナの従兄弟であるウードであった。
仲間達は確かに『炎の台座』を奪還し、宝玉も手に入れた。
しかし、彼等が見付け出せた宝玉は、四つ。
最後の一つ、『黒炎』は、何れ程方々を探し回っても、終ぞ見付けられなかったのだと言う。
『黒炎』の探索に時間を掛け過ぎて、激化する屍兵達の度重なる襲撃によって全滅する可能性すらも出てきた時に。
仲間達の意見は二つに割れたのだと言う。
このまま『黒炎』を探し、五つの宝玉を揃えて『炎の紋章』を完成させてからイーリスに帰ろうとする者。
そして、台座と四つの宝玉すらも喪う事だけは避ける為に、『黒炎』の捜索は諦めて一旦イーリスに帰還しようとする者。
真っ二つに別れた彼等の意見は。
最終的に、『黒炎』を諦める事で決着が着いたのだ。
そう説明したウードは、ルキナに深く頭を下げた。
自分が『黒炎』を諦めるように仲間達皆を説得したのだと。
だから、不完全な状態の『炎の紋章』しか持ち帰られなかった責は、自分にあるのだ、と。
そう謝罪するウードを、ルキナが責められる訳が無かった。
五つの宝玉が揃った完全な『炎の紋章』でなければ、ギムレーに抗するための『覚醒の儀』は行えない。
だけれども、『炎の紋章』を完成させる事に固執して、その全てを喪ってしまえば。
最早全ての『希望』の芽が摘み取られてしまう。
何としてでも『黒炎』を探そうとした者も、例え『炎の紋章』が不完全な状態でも一旦帰還しようとしたウードも。
どちらも、正しいのだ。
ウードは、正しい選択をした。
それを、責められる筈が、無い。
だが、この状況は決して良いモノでは無かった。
『覚醒の儀』は未だ行えず、そしてイーリス王都が陥落する日はそう遠くは無い未来となってしまっている。
再び仲間達を『黒炎』探索に向かわせる猶予は、もう無い。
『 』ならば、こんな時にどうするのだろう。
ふと、ルキナの胸の内に、『思い出せない』、『知らない』『誰か』の事が過る。
一体それが『誰』なのか、ルキナには分からない。
だけれども。
ルキナが行き詰まってしまった時に、道に迷ってしまった時に。
何時だって、道を指し示し導いてくれた『誰か』が、居た気がする。
それはルキナの願望が見せた妄想だったのだろうか……?
…………。
何にせよ、今のルキナの傍にはその様な者は居ない。
ルキナが、皆に道を示さねばならないのだ。
ルキナは考え抜き、そして。
一つの決断を、下す。
「『覚醒の儀』を、行いましょう」
その言葉に、仲間達は騒めいた。
揃った宝玉は、四つ。
完全な『覚醒の儀』は、それでは行えないのだから。
確かにそれはそうだ。
だが、例え《完全な》『覚醒の儀』は行えないのだとしても。
五つの内四つまでもが揃っているのだ。
《不完全》ながらも、『覚醒の儀』を行えば、ギムレーに対抗する何らかの力を得られる可能性は、0ではない筈だ。
それに、最早人々には『黒炎』捜索を行う猶予も余裕も残されてはいない。
このまま何もしなければ、完全になる筈など有り得ない不完全な『炎の紋章』を抱いたまま、滅びるしかなくなる。
ならば、その可能性が如何に低かろうと。
ルキナがやるべき事は一つであった。
そうと決まれば、『覚醒の儀』を行う為にも『虹の降る山』の山頂に設けられた祭壇に向かう必要があった。
だが、ナーガの領域である『虹の降る山』はまだその力が及んではいないと信じたいが、イーリス王都から『虹の降る山』までの道中は、既に屍兵の領域だ。
厳しい行軍になるのが、目に見えていた。
それでも、やり遂げなければならない。
まだ、絶望を前に膝をつく訳にはいかないのだから。
ルキナは、仲間達に出立の時までを休養にあてる様に厳命し、兵達には行軍の準備を行う様に指示する。
世界はまだ、『絶望』に染まりきってはいない筈だと、ルキナは『何か』に縋る様に信じていた。
だが、『覚醒の儀』を行う事を決めた、その日の夜に。
イーリス王都は、かつて無い程の大規模な屍兵の襲撃を受けたのだった…………。
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