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END【旅路の果てに時よ廻れ】

◆◆◆◆◆




 何時からだろうか。
 ルキナは、大切な『何か』を忘れている。
 ……そんな気がしてならなかった。
 だけれども、何れ程それを探し求めようとしても。
 記憶には何も見通せぬ程の深い霧がかかり、その輪郭すらをも覆い隠してしまう。
『何』を忘れているのかすらも、そもそも本当に忘れているのかすらも、定かではないのに。
 自分が『とても大切な事を忘れている』と言う感覚だけが残っている。
 だけれども。
 何れ程思い返してみても、自分の記憶に欠けた所は無い。

 父の事も、母の事も。
 そして、幼い頃に大好きだった『ルフレおじさま』の事も。
 彼等との思い出を、ルキナはちゃんと覚えている。
 幾つかの思い出は擦り切れ、朧気になってきてしまってはいるものの。
 それでも、忘れたりなんかしてはいない。
 仲間の事、守るべき民の事、自らの使命の事。
 それらも、ルキナの胸には何時も変わらずに其処に在る。
 それなのに。
 どうしても、違和感を拭えないのだ。

 ふとした瞬間に。
 自分の傍らに誰も居ない事に。
 戦場を駆けるその背を預ける人が居ない事に。
 戦術を示してくれる人が居ない事に。
 酷い違和感を、感じる。

 ふとした折りに。
『誰か』の優しい微笑みを。
『誰か』の穏やかな声を。
『誰か』の温もりを。
 探し求めてしまう。

 まるで、『半身』をもぎ取られてしまったかの様に。
 ルキナは足りない『何か』を何時も探していた。

 この胸の何処にも欠落など在りはしないのに。
 もう何にも埋める事が出来ない程の虚ろが、心の何処かに在る様な気がしてならない。
 そこを埋めている『何か』が、確かに在ったと思うのに。
 それを、ルキナは思い出せない。
 何も思い出せないのに。
 ルキナは、『何か』を喪ってしまった気がしてならないのだ。

 それはモノなのか、ヒトなのか、思い出なのか、感情なのか、心なのか……。
 その正体すらも分からないけれど。

 喪ってしまった『何か』が、そしてそれがもう何処にも無い事が、どうしようも無く、哀しい。
 もう取り戻せない事が、辛く苦しい。

 そんな息苦しさと哀しみともどかしさを抱えながら。
 それでもルキナは世界を救う為に、その『希望』たるべく戦い続けていた。
 でも、どうしてなのだろう。
 それがルキナの『使命』である筈なのに。
 それこそがルキナの戦う理由である筈なのに。
 それすらも、何処か虚しく感じてしまうのだ。
 …………自分は『   』を守れなかったのに、と。
 そう責める自分が居る。
 しかしその自分に何を問い返した処で、存在しない筈なのに確かに其処にある『欠落』の正体が返ってきたりはしない。

 ……大切な『何か』を、そうと気付けぬままに喪ってしまったのだとしても。
 それでも、ルキナは。
 戦い続けるしか無かった。
 それしか、生き方を知らなかったからだ。

 その背を支える手が無くとも。
 共に苦楽を分かち合う『半身』が居ないのだとしても。
 それが、ルキナの『使命』であるが故に……。





 そして、『宝玉』の捜索の為に仲間達がイーリスを発ってから、凡そ二年半程の年月が過ぎ行こうとしていた…………。




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