第四話・B『貴女の想い、僕の望み』
◇◇◇◇◇
ロビンと共に屍兵を討伐する戦いを続けて如何程の時が経ったのだろうか。
ある時から数で圧倒する屍兵に押され続けていた戦線を、僅かばかりだが押し返す事が出来る様になっていた。
それにはロビンの策が大いに貢献していたのだが何にせよ。
戦い続きで疲弊した兵達の為にも、ルキナ達は一旦王都に戻って僅かばかりの休息を取る事になったのだった。
生まれ育ったイーリス王城であるが、ルキナがここに帰ってくるのは実に久方振りの事である。
一年以上は各地を転々としながら戦い続けていたのだから、懐かしいなどと感慨に耽る前に、最早そこが自分の居場所では無いかの様な何処か落ち着かなさを感じてしまう程だ。
王都が直接屍兵の被害を受けた事はナーガの加護もあってなのか今の所は無いのだが、こんな御時世だ。
城の整備も細かい所までは行き届かず、それ故にか何処か荒れている様な印象すらも受けてしまう。
父も亡く母も亡く……、そして主だった臣下達も最早既に居ない城は、何処か空虚な場所の様にも感じてしまって。
そして、何よりも。
この城には、『幸せ』だった頃の記憶が多過ぎる。
父に剣の稽古を付けていて貰った時にうっかり壊してしまったまま直されていない壁の穴。
母とかくれんぼをしていた時に、しょっちゅう隠れる先にしていた大きな衣装箪笥。
幼い頃に従兄弟のウードと一緒に登って、二人して降りられなくなってしまった事があった庭の大きな木。
父の忠実な臣下であったフレデリクにせがんで、彼の愛馬の背に乗せて貰った時に見た衛兵の訓練所の庭。
そして──。
幼いあの日々に事ある毎に忍び込んでは、その部屋の主に構って貰っていた、『彼』に与えられた執務室……。
もう戻って来ない『あの日々』の欠片が、『幸せ』だった頃の思い出達が、この城のあちらこちらに散りばめられている。
それを、ハッキリと意識してしまうのが……辛くて。
だから、何時の間にか、ルキナは王城を避ける様にして戦場を渡る様になってしまっていた。
それが逃げであると言う事は、誰に言われるでもなく、自分自身がよく分かっているのだけれども。
ルキナは、そんな感傷に浸る心を、誰にも聞こえないような小さな一つ溜め息を吐いて切り換えた。
そして、何処かに居る筈のロビンの姿を探してうろうろと城内を歩き始める。
王都に帰った所で帰る家も寄る辺も無いロビンの為に、ルキナは王城にある部屋を仮の住まいとして提供した。
どうせ部屋の数など腐る程余っているのだ。
掃除もろくに行き届かせられていない今、使われる事の無い数多の部屋たちには埃ばかりが降り積もっている。
それを有効活用した処で誰に咎められると言う事も無い。
最初こそロビンはそれを遠慮して辞退しようとしていたが、ルキナが一歩も引く気が無いと見ると素直にそれを受け入れていたのだが……。
王城に着いて暫くすると、ロビンの姿が何処かに消えていたのだ。
案内した貴賓室にはロビンの数少ない私物が荷解きもせずに置かれていたので、ここに来て遠慮してしまったロビンが何処か別の場所で寝泊まりしようとして逃げ出したのでは無いと思うのだけれども……。
しかし、ならば一体何処へ行ったのだろうか、と。
ルキナは彼を探し始めるのであった。
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ロビンと共に屍兵を討伐する戦いを続けて如何程の時が経ったのだろうか。
ある時から数で圧倒する屍兵に押され続けていた戦線を、僅かばかりだが押し返す事が出来る様になっていた。
それにはロビンの策が大いに貢献していたのだが何にせよ。
戦い続きで疲弊した兵達の為にも、ルキナ達は一旦王都に戻って僅かばかりの休息を取る事になったのだった。
生まれ育ったイーリス王城であるが、ルキナがここに帰ってくるのは実に久方振りの事である。
一年以上は各地を転々としながら戦い続けていたのだから、懐かしいなどと感慨に耽る前に、最早そこが自分の居場所では無いかの様な何処か落ち着かなさを感じてしまう程だ。
王都が直接屍兵の被害を受けた事はナーガの加護もあってなのか今の所は無いのだが、こんな御時世だ。
城の整備も細かい所までは行き届かず、それ故にか何処か荒れている様な印象すらも受けてしまう。
父も亡く母も亡く……、そして主だった臣下達も最早既に居ない城は、何処か空虚な場所の様にも感じてしまって。
そして、何よりも。
この城には、『幸せ』だった頃の記憶が多過ぎる。
父に剣の稽古を付けていて貰った時にうっかり壊してしまったまま直されていない壁の穴。
母とかくれんぼをしていた時に、しょっちゅう隠れる先にしていた大きな衣装箪笥。
幼い頃に従兄弟のウードと一緒に登って、二人して降りられなくなってしまった事があった庭の大きな木。
父の忠実な臣下であったフレデリクにせがんで、彼の愛馬の背に乗せて貰った時に見た衛兵の訓練所の庭。
そして──。
幼いあの日々に事ある毎に忍び込んでは、その部屋の主に構って貰っていた、『彼』に与えられた執務室……。
もう戻って来ない『あの日々』の欠片が、『幸せ』だった頃の思い出達が、この城のあちらこちらに散りばめられている。
それを、ハッキリと意識してしまうのが……辛くて。
だから、何時の間にか、ルキナは王城を避ける様にして戦場を渡る様になってしまっていた。
それが逃げであると言う事は、誰に言われるでもなく、自分自身がよく分かっているのだけれども。
ルキナは、そんな感傷に浸る心を、誰にも聞こえないような小さな一つ溜め息を吐いて切り換えた。
そして、何処かに居る筈のロビンの姿を探してうろうろと城内を歩き始める。
王都に帰った所で帰る家も寄る辺も無いロビンの為に、ルキナは王城にある部屋を仮の住まいとして提供した。
どうせ部屋の数など腐る程余っているのだ。
掃除もろくに行き届かせられていない今、使われる事の無い数多の部屋たちには埃ばかりが降り積もっている。
それを有効活用した処で誰に咎められると言う事も無い。
最初こそロビンはそれを遠慮して辞退しようとしていたが、ルキナが一歩も引く気が無いと見ると素直にそれを受け入れていたのだが……。
王城に着いて暫くすると、ロビンの姿が何処かに消えていたのだ。
案内した貴賓室にはロビンの数少ない私物が荷解きもせずに置かれていたので、ここに来て遠慮してしまったロビンが何処か別の場所で寝泊まりしようとして逃げ出したのでは無いと思うのだけれども……。
しかし、ならば一体何処へ行ったのだろうか、と。
ルキナは彼を探し始めるのであった。
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