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第四話・B『貴女の想い、僕の望み』

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 あの夜から暫くの時が過ぎ去った。

 相変わらずに屍兵は地を蠢いているし、ルキナ達は人々を襲うそれらを討伐しながら戦場から戦場へと渡り歩いていて。
 そんな中で、ロビンは以前と変わらない様に、その傍でルキナを支え続けてくれている。
 だけど、ほんの少しだけ以前とは違う所があった。

 ロビンがルキナを見詰めるその目に、何時もの優しさや穏やかな暖かさ以外にも、時折ではあるが、何処か……酷く何かを渇望する様な輝きが浮かぶ様になり。
 そしてそんな色が目に宿った直後には、ロビンはそれを振り払おうとしているのか、何処か必死そうな顔でその目を覆って、そして再び目を開けた時には、また何時もの穏やかさを湛えた眼差しをルキナに向けるのだ。

 よく観察していないと分からない程に、ロビンの様子がおかしくなるのはほんの一瞬だけだ。
 でも、彼の半身であると誓ったあの日から、ルキナはずっとロビンを真っ直ぐに見詰めてきたから……。
 その変化も、直ぐに気付いてしまった。
 ロビンを支えると誓ったあの日の想いは、今も何一つ変わらずにルキナの胸にある。
 だからルキナは、そんな何かを思い詰めて苦しんでいる様なロビンの力に、なりたかった。
 だけど、そうルキナが言う度に。
 ロビンは静かに首を横に振って、そして、何処か弱々しく優しい微笑みを浮かべるのだ。


「有難うございます、ルキナさん……。
 だけれども、僕を心配してくれるそのお気持ちだけで十分なんですよ? 
 これ以上は、……きっと僕は貴女を求め過ぎてしまう……」


 ポツリとそう呟かれた言葉に、ルキナは。


「それでも良いんです。
 それでロビンさんの助けになるのなら……」


 と、そう答えるのだけれども。
 ロビンはその言葉に益々少し苦しそうに笑って、首を横に振るのだ。
 それは、優しさに溢れてはいるけれども、ハッキリとした拒絶の意志であった。
 その拒絶の壁を越えてロビンの心に触れる事は、叶わなかった。
 ルキナは今までロビンに何をしてあげられたのだろう……。
 そして、何をしてあげられるのだろうか……。
 助けを求める事すら躊躇わせてしまうなんて、ルキナの不徳の致す所だ。

 支えると、誓ったのに。
 そしてロビンはその誓いを違う事無く、変わらずルキナを支え続けてくれているのに……。
 ままならぬ自分が、その力不足が、……ルキナにとっては何よりも辛かった。
 半身の様に大切なロビンが、そしてきっと、それよりも、もっともっと『特別』な彼が。
 悩み苦しみ、そしてきっと無意識にでも助けを求めているのに……。
 なのに、ルキナは……。
 それに気付いているのにも関わらず、ロビンに何もしてあげられないのだ。

 どうにかして、ルキナはロビンの力になりたいのに。
 だけれども、ルキナが差し伸べようとしたその手を、ロビンは決して掴もうとはしない。
 それ処か……。
 ルキナが手を差し伸べようとする行為自体が、ロビンを苦しめてしまっている様にも見えてしまう。
 どうすれば、良いのだろう……。
 考えても答えは出ず、良い方法など思い付かず、ただただもどかしさばかりがルキナの胸を焦がす。

 何故そんなに悩み苦しんでいるのか、ロビンは決してルキナに明かそうとはしてくれない。
 もし、その理由を話してくれるのなら。
 例え、ルキナではどうしようも無い悩みなのだとしても、ルキナもロビンと共に抱えて悩みたいのだ。

 どんなに苦しい時でも、独り悩み続けるよりは、例えその手が頼り無いものであったとしても、共に悩み歩んでくれる人が居てくれる方が良い。
 孤独は人を追い詰め、何れはその心を磨り潰すようにして歪ませてしまう……。
 ルキナは、それを良く分かっていた。
 他でも無い、ロビンに出逢うまでのかつての自分がそうであったのだから。
 あの日孤独に絶望の中を彷徨い続けていたルキナの手を掴んでくれたロビンが今、独り何かに苦悩し思い詰めている。
 誰の手も取ろうとはせずに、独り孤独へと沈み行こうとするロビンを、どうやったら助けられるのだろう……。

 大切な人の力になれない己の無力さが、ルキナには何よりも辛いのであった…。




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