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END【終焉の果て】

◆◆◆◆◆




「私、は……。
 ……自分が背負ってきたモノを、捨てる事は……出来ません……。
 託された『想い』や『願い』を……、私は……背負い続けるでしょう……。
 きっと……。
 その『使命』を果たし終えるか、この命が尽き果てるその時まで……」


 ルキナは迷いつつも、そう答えた。
 迷いはある。
 喪いたくない『願い』を秤に掛けて尚、それでもそれを撰ぶのか、と。
 そう問い続けてくる己の心がある。
 身を縛る枷にすらなっているモノを捨てて、『願い』を選べれば、と。
 そう思ってしまう自分も居る。

 だが、しかし。
 選ばなくてはならないのなら。
 ……それが何れ程ルキナには重い枷であるのだとしても、そしてその為に……自分の『願い』を捨てなければならないのだとしても。
 それでも……。

 今ここにあるルキナを形作ったのは、今までルキナが背負ってきたモノ達だ。
 人々から託されたモノ、父より受け継いだモノ。
 それらは『希望』や『期待』……或いは『使命』と言う名でもあり、『国』と言った概念であったりもした。
 父が背負ってきたモノでもあり、ルキナが何れ誰かに託すその日まで背負い続けるべきモノ達だ。
 例えそれが今にも押し潰されてしまいそうな程に、重い枷なのだとしても。
 何時かルキナと言う人間そのものを磨り潰すかの様な『希望』であっても。
 それでも、他の誰でもなくルキナが託されたのだ。
 故に。
 ……それを自ら捨ててしまう事は、何があっても、例え何を対価に差し出さねばならないのだとしても、……ルキナには出来ない、選べない。

 ルキナのその答えに、ロビンは静かに目を閉じた。


「……ルキナさんらしい、ですね」


 静かにそう言って、再び目を開けた時には。
 先程までの何処か呑み込まれてしまいそうな雰囲気は、幻であったかの様に霧散していて。
 何時もの様な、穏やかで温かな眼差しで、ロビンはルキナを見詰めている。


「……僕は、貴女がどんな選択をするのだとしても、貴女の『望み』を叶えます」


 僕は、貴女だけの軍師ですから。と。
 ロビンは優しい微笑みをルキナに向けた。
 それは、何時も通りの……、何よりも愛しい笑顔で。
 ロビンを傷付けてはいなさそうな事に、何故かホッとして。
 ルキナは漸く胸を撫で下ろす。

 そんなルキナをロビンは優しく見詰め、そして。
 その髪を優しく梳う様にして掬い上げた。
 そこにキスを一つ落とし、ロビンはルキナの耳元で囁く。


「そんなに心配しなくても、これはただの『もしも』の話ですよ。
 でも、ルキナさんの想いを知る事が出来て、何よりです」


 ですが……、と僅かばかりロビンその目が曇った。
 哀しみすらをも内包したその眼差しで、ロビンはルキナを見詰める。


「ルキナさんが背負うモノが、貴女の『願い』を殺してしまうのだとしても尚、貴女がそれを背負い続ける事しか選べないのは……。
 少しだけ、哀しいです。
 自分の『願い』すらも自由に持てないのなら。
 ……貴女の意志は、心は、何処に在れば良いと、言うのでしょうか……」


 ……ルキナは、自ら背負うモノを捨てられはしない。
 例えその生き方が、人々の『希望』に縛られた、操り人形の様な生き方なのだとしても。
 ルキナはそれを背負い生きていく事を選ぶであろう。
 そこに、ルキナに『希望』を託す者が居る限り。
 ルキナがルキナである限りは、その生き方を変えられない。
 それを憐れだと、そう思う事も出来るのだろう。
『希望』と言う名の枷に縛られた奴隷の様だとも、そう感じる瞬間が無いとも言わない。
 しかしそれでも、託し託されて繋がる命の環の中にある者として、そしてそれに生かされてきた者としては、自らが背負うそれを捨て去る事など……やはり出来ないのだ。
 ルキナが背負わねばならぬ物は、確かに他の者が背負うそれよりも重く……故に苦しみもがいてきた。
 それでも、自らが負うべきその責から……重みから、逃げ出し背を向ける事は出来なかった。
 逃げる事は罪ではないのかも知れないが、人々の『期待』がそこにあったにせよ、どれ程苦しくともそこに踏み止まる事を選び続けたのは、結局はルキナ自らの意志である。
 だからこそ、何がその片側の天皿に載せられているのだとしても、選ばねばならぬというのであれば、やはりルキナはそれを選んでしまう。
 それこそが、ルキナ自身の『矜持』であるのだから。
 それに……。

 例えルキナ一人だけなら自らの『願い』を捨てねばならないのだとしても。
 ルキナは独りでは無い。


「でも、私にはロビンさんが居ます。
 だから、きっと、大丈夫……。
 貴方が私の『願い』を拾い上げてくれるのなら、私はきっと自分の『願い』を殺す事無く抱え続けていられる。
 そう、私は思います」


 その言葉に、ロビンは少し驚いた様にルキナを見て。
 「そうですね」と優しく微笑んだ。
 そして。

 優しくルキナを抱き寄せて、そのまま首筋に優しい口付けを残す。
 ルキナもまた、それに応える様に口付けを返した。
 二人は見詰め合い、どちらからと言う訳では無く、互いの唇を優しく愛で満たす様に塞ぐ。

 愛し合う恋人達の夜はそうやって更けて行き、そしてまた、厚い雲に覆われ陽の光を奪われた朝がやって来た。






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