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第二話『記憶の彼方の遠い貴方に』

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「ルキナさん、この街の防衛線はこの様に布陣しては如何でしょうか?」


 各所に印や詳細な説明が記入された街とその周辺の見取図を手に、ロビンがそう提言する。
 その見取図を受け取り、その布陣に不備が何処にも無い事を確認したルキナは内心感嘆した。
 何時も何の事も無い様にロビンが献じる策は、犠牲となる者を一人も出させまいと言う意志が見てとれるもので。
 実際、その策によって救われた命はもう数えきれない程だ。


「ええ、これで問題ないでしょう。
 此度の屍兵の大規模な襲撃も、これならば凌げる筈です」


 早速ルキナはロビンの提言通りに布陣を敷く様に兵達に命じた。
 それに応じる兵達の士気も、かつてとは見違える程に活力に漲っている。
 兵達の心情としても、無辜の民の骸ばかりを目にし己の無力を嘆くしか無かった今までと違い、確かにその手で人々を救えるとなれば、気力も漲ろうというものだ。

 本能的に群れて散発的に人々を襲うが故にその襲撃の予測を立て辛い屍兵達の動きを、ロビンは様々な情報から予測し、襲撃を受ける可能性が高い街や村へ迅速に救援に向かう事すらも可能とさせていた。
 初動が早ければ早い程、救える命は増える。
 この手を零れ落ちるばかりであった命を掬い上げる事が出来る。
 最初の内こそ小さな変化であったが、その事実は次第にこの絶望ばかりが蔓延る世界に生きる人々の心に光をもたらしていた。

 それもこれも、ロビンのお陰である。
 ルキナだけでは手が届かなかったものを、ロビンは確かにあの誓いの言葉通りに、この手が届くようにしてくれていた。

 ロビンのお陰で、救える命が目に見えて増えた。
 ロビンが献じた策で、屍兵との戦いで犠牲となる兵や民が、殆ど居なくなったと言っても良い程に減った。
 悲哀と怨嗟と慟哭よりも、感謝の言葉をよく聞く様になった。
 どれもこれも全て、ロビンのお陰だ。

 ロビンのお陰で、人々の心に新たな『希望』の種が蒔かれていく。
 今この瞬間を生きるだけで精一杯であった人々に、『明日』を考える余裕が生まれつつあった。
 絶望しか知らぬ子供達すらも、笑顔を浮かべられる様になったのだ。

 空は今も暗い雲に覆われ、荒れ果てた大地に命が戻った訳ではない。

 だけれどもそれらは、ロビンに出会う前のルキナが幾ら手を尽くしても人々に与えられなかった、偉大な変化なのだ。
 だからこそルキナは、ロビンには幾ら感謝してもし足りない。

 だけど、そうルキナがロビンに言う度に。
 ロビンは少し苦笑しつつルキナを見詰めて。


「そんな事はありませんよ、ルキナさん。
 僕に出来る事は、貴女を支える事だけです。
 僕一人だけなら、出来る事などそう多くはない……。
 貴女が僕を信頼してくれるからこその結果ですよ」


 そう言って、「僕と貴女の二人で掴んだ結果ですね」と微笑むのだ。
 ……あんなに優しい微笑みを向けられたのは、父と母に見守られていた在りし日以来なのでは無いだろうか。
 そして、ロビンの何処か懐かしさを感じるその微笑みは、 何時もルキナの胸を強く締め付けるのだった。



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