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その他の短編

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 エンブラ帝国との戦争の為に『伝説』に謳われていた召喚師を呼び出した時は、本当の所を言うとかなり不安だった。
 伝説にある通りの力を召喚師が持っているのなら……万が一その召喚師が悪しき心を持つ者ならば、アスク王国やエンブラ帝国だけでなくこの世界全てに対しての……それ処か“扉”が繋がった全ての異界に対しての脅威となってしまうだろう。
 その可能性を払拭する事は出来ないからこそ、それは剰りにも危険な“賭け”であるとも言えた。
 しかしそれでも、アスク王国の状況はその伝説の召喚師に頼らざるを得なくなる所まで逼迫しつつあったのだ。
 だからこそ、アルフォンスは父グスタフ王がそれに難色を示しているのを承知の上で、召喚師の召喚の儀式を行ったのだ。
 ……この儀式に応えてくれる召喚師が“善き人”である事を心から願いながら。

 結果として、儀式によりこの世界へと招かれた召喚師は、間違いなく“善き人”であった。
 戦場など、命の奪い合いなど、全く知らない様なそんな朴訥とした無垢さを持っていて。
 どんな人々にも英雄にも分け隔てなく優しく誠実に接する事が出来る人柄の、……そんな普通の“女の子”であった。

 こんな“女の子”が伝説の召喚師だなんて、と最初はかなり驚いたしこんな“女の子”を戦場に連れ出しても良いものなのかとも迷ってもいた。
 実際、この世界に招かれたばかりの彼女は右も左も分からない様な状態で、自分の力に対しても殆ど理解していなかった。
 そんな状態なのに突然特務機関における戦闘の指揮権を渡されて、異界の英雄達を率いて戦え……と任されてしまったのだ。
 大いに戸惑っていただろうし、困惑する事もあったのだと思う。
 あの時は、そんな彼女の不安や困惑を本当は分かっていながらも、その力に頼るしかないのだと自分に言い聞かせて、アルフォンスは半ば彼女の抱いていたそれらを見ない振りをしてしまった。
 その様な無理を彼女に強いてしまうせめてもの償いとして、アルフォンスは精一杯に彼女を支えようとはしていたけれども。
 そんな事では、本来はアスク王国とエンブラ帝国との戦いになど何の関わりもなく、この世界で戦わねばならぬ理由など何処にも無い彼女を無理矢理に戦わせて良い理由にもならず、況してやそんな状況を強いてしまったアルフォンス本人が何をした所で本当の意味での償いにはならない事位は、アルフォンス自身も分かっていた。

 だけれども。
 戦など何も知らなかった普通の“女の子”であったのだろう彼女は、戦う理由など本来は何処にも無かった筈なのに。
 自身に出来る精一杯の事を成そうと、努力する事を恐れる事も厭う事も無かった。
 軍師や指揮官として異界にまで勇名を馳せた名立たる英雄達に師事しその教えを受けては、特務機関の軍師としてより良い戦術を立案して。
 数多ある異界から、縁を結んだ英雄達を数多く招き、彼等が快くその力を貸せる様に心を砕いて。
 そして、アルフォンスや英雄達と共に、戦場を駆け抜けていく。
 そこには、この世界に招かれたばかりの時の心細さと戸惑いはもう無くて、凛とした心の芯の強さが身の内から彼女を輝かせていた。

 何が彼女をそこまでひた走らせるのかは、アルフォンスにも分からないけれど。
 それがアルフォンスの自惚れでないのだとしたら。

 彼女が、アルフォンス達と過ごす時間を、アルフォンス達と紡いだ絆を、掛替えの無い物だと、そう思ってくれているからなのだろう。
 …………アルフォンスが、彼女にそんな想いを抱いているのと、同じ様に。

 異界の軍師ルフレが、アルフォンスと彼女を指して“半身”と称した様に。
 アルフォンスは、彼女を何よりも近しく感じていた。
 それは、アルフォンスの呼び掛けに応えてくれたのが、他ならぬ彼女だったからなのかもしれない。

 ……だけれども。
 彼女は、本来はこの世界の住人ではない。
 異界……それも、アスク王国にも伝承されていない全く未知の異界に生きる者だ。
 この戦が終わり、全てに決着が着いたその時には。
 彼女を、本来生きるべき世界に帰さなくてはならない。
 そこにはきっと、彼女を大切に思う家族や友人が居る筈なのだから。
 それは、彼女をこの世界に招いた者として、必ず果たさねばならぬ責務だ。

 だがそれは、彼女との永遠にも近い離別を意味している。

 あらゆる可能性を繋ぎ、あらゆる異界へと“扉”を開く力を持ってはいるけれども。
 彼女が本来住まう異界の情報は剰りにも少な過ぎて、そこへの“扉”を開く事は困難を極めるであろう。
 それは宛ら、砂海に一粒だけ落とされた砂金を、ただ一人で浚いながら探すかの如く。
 アルフォンスが何度生まれ変わり、それを試したとしても、それでも二度と巡り逢えない可能性の方が高い。

 本来ならば生きる世界が全く異なる彼女と、“扉”を開き数多の異界を繋ぐ力を持てども生きる世界はただ一つであるアルフォンスが、こうして共に過ごせる事は、紛れもなく奇跡なのである。
 何時かは必ずその奇跡が終わってしまう事を、誰よりも分かっているからこそ。
 アルフォンスは時折どうしようもない苦しみを感じてしまう。

 大切な“半身”の手を離さなくてはならない事が、そしてそうすれば恐らくは二度と巡り逢えないのであろう事が。
 堪らなく、苦しい。
 それは、何時からかアルフォンスが彼女に“特別な想い”を抱いてしまっていたから、尚の事心を苛む。

 このままずっと、自分の傍に居て欲しいと。
 元の世界に帰らないで欲しいのだと。
 そんな風に彼女に縋って懇願したくなる。

 それでも、きっと。
 何時かその時が来た時に、この手を離してあげる事こそが、本当の意味での彼女の“幸い”に繋がる事なのだ。
 それを分かっているからこそ、アルフォンスは大切な彼女の“幸い”の為にも、きっとこの手を離すのだろう。
 何故ならば、アルフォンスは彼女を真実“愛して”いるのだから。
 身勝手なアルフォンスの願いよりも、彼女の“幸い”の方がずっと大切で尊いものに感じるのだ。

 だからこそ、こうして共に居る時間の間だけでも、彼女の“半身”で、彼女の“特別”でありたい。
 そして、何時か“扉”を開いて彼女の世界を訪ねにいく、だなんて夢物語を語らせて欲しい。

 その手を離さなくてはならない何時かのその日までは、どうか──






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