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その他の短編

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「時々、思うんです」


 ポツリと呟かれたカムイのその言葉に、読んでいた戦術書から顔を上げたレオンは「何を?」と静かに訊ねた。


「私の前には幾つもの大きな別れ道があって、私はその時その時でそれが一番だと思う道を選んできました……。
 その道を選んで進んできた事には、後悔がある訳じゃないんです。
 だって、その道を選んだからこそ、レオンさんと過ごす今があるのだから。
 ……でも、選ばなかった道の先にもそこに未来はあった筈で……。
 もし、その道を選んでいたら。
 私にはどんな“今”があったんだろう?って……」


 “もしも”。
 どんな人でも、生きていく内に一度は考える事であろう。
『生きる』と言う事は選択の連続であり、一つの“選ばれた道”があるのなら、当然の如く“選ばれなかった道”がある。
 人は……何れ程願おうとも『過去』には戻れず、そうであるが故に自らの選択を無かった事には出来ない。
 “選ばれなかった道”は永遠に形を成す事はなく、夢想の中だけの未来でしかないのだけれども。
 ……夢想であるが故に幾らでもそこに“道”を思い描けてしまう。
 だからこそ、人は思わずには居られないのだ。
 “もしも、あの時別の道を選んでいたら”……と。
 別段それは後悔とかそんな後ろ向きの感情だけから来ると言うものでもない。
 現状が幸せであろうと不幸せであろうと、そんな事は関係無く。
 本当に、ふと……別段深い理由もなく考えてしまうものでもある。

 カムイが“もしも”を考えた事にも、特には意味は無いのかもしれない。
 “選ばなかった道”、“もしも”の世界。
 それは、あの運命の選択の時に白夜の王族の“きょうだい”を選びレオン達暗夜の“きょうだい”と敵対する道であるのかもしれないし、はたまたもっと別の選択肢の先にあった未来の事を考えているのかもしれない。
 自分で選んだ道、自分以外の人間の選択によって与えられた道。
 “もしも”の未来は、幾千幾万の可能性を秘めて無限に広がっている。
 大切なあの人が死ななかったかもしれない未来、もっと別の人生を生きていたのかもしれない未来。
 想像の数だけ、人々の可能性の数だけ、無限に広がり行く“もしも”をつい考えてしまうのは、人の性であるとも言えるのかもしれない。


「……そうだね。
 僕たちきょうだいと敵対していた道だってあったのかもしれないし、もしかしたらそもそも僕たちが出会う事もない可能性の世界だって……あったのかもしれない。
 その先にある未来がどんなものだったのかなんて僕にも分からないけど……それでも一つ確信出来る事はあるよ」


 レオンの言葉の続きを待つようにキラキラと煌めく紅玉の様に輝く瞳を見詰め、レオンは少し微笑んだ。
 そして優しく梳く様に、緩く波打つ艶やかで滑らかなカムイの髪に触れ、そのまま優しく頬の輪郭をなぞる様に触れる。


「どんな道を選んでいても、どんな未来であっても。
 カムイに出逢えた僕は、必ずカムイを好きになる。
 そのカムイが今とは全く違う人生を生きてきたカムイだとしても、僕が今の僕とは全然違う生き方をしている僕であっても。
 どんな可能性の世界でも、僕はカムイを好きになるよ。
 そして、その想いが叶わなくったって、きっとずっと好きで居続ける」


 生きてきた過去が違えば、それは全くの同じ人物であるとは言えないけれど。
 それでも、カムイがどんなカムイであっても、レオンがどんなレオンであっても。
 カムイが『カムイ』と言う存在であるのなら、レオンが『レオン』と言う存在であるのなら。
 そこにある魂が同じであるのなら。
 必ず、『レオン』は『カムイ』に惹かれ、好きになるだろう。
 無数にある可能性の世界の中には、想いを叶えられない世界だってあるかもしれない。
 それでも、例えその想いが叶わぬものであるのだとしても。
『レオン』は生涯、『カムイ』に恋をし続ける。


「私も……私もきっと、そうです。
 どんな生き方をしていても、どんな出会いであったとしても。
 レオンさんに出逢ったら、きっとどんな私であっても、私はレオンさんの事が大好きになると……そう思います」


 例え敵同士であっても、結ばれ得ぬ道なのだとしても。
 カムイはきっと、レオンの事を好きになる。そして愛し続けるだろう。
 ならば──


「だからこの“未来”は。
 沢山の“もしもの未来”の『私』にとって、最高に幸せな“未来”ですね」


 レオンと結ばれ得なかった数多の“もしも”の『カムイ』にとって、そしてその数多のレオンにとって。
 こうやって愛する人と思い結ばれ睦み合う時を過ごせる事が、何れ程幸せな事であるのか。
 “もしも”の世界の『カムイ』達も、カムイが彼らの生きる未来を想った様に、カムイが生きるこの未来を、叶わぬ“もしも”の夢に描いたのだろうか?


「なら、その沢山居る“もしも”の僕たちの分も、僕らは幸せにならないとね」


 そう言って微笑みあったレオンとカムイは、甘く熱い口付けを交わすのであった。






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