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その他の短編

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 可能性と言うものは無限に存在する。
 しかし何かを選べば、選ばなかった他方の可能性の先を見る事は叶わない。
 選択の数だけ、可能性の数だけ、世界とは限り無く無限に広がり行くものだ。
 選ばなかった選択の先にある“もしも”の世界。
 それは、平行世界やら異界やらと呼ばれ、決して交わる事の無い異世となる。
 多くの人々は、自分が今生きる世界──自らが選択した結果の世界以外の事を考えはしない。
 “もしも”などと現実から逃避する為の夢想の中で垣間見る事はあるのだとしても、それが現実に存在しているもう一つの“世界”であるとは思いもしない。
 例え何れ程後悔しようとも選択を取り消す事は出来ず、人は自らが選んだ世界でしか生きられないのだから、それはそれで良いのだろう。
 何れ程想い焦がれようとも、異世が交わる事など無いのだから。

 だが、現実で交わる事がないのだとしても、異世の断絶は実は絶対では無かった。
 何故ならば、異世の数だけ“私”は存在し得るからだ。
 異なる世界、異なる可能性の中で異なる生き方を歩んだ“私”が、可能性の向こうには無数に存在する。
 そして、そう言った数多の“私”たちは、時折“夢”と言う形で出逢う事があるのだ。

 多くの人々は“夢”を見てもそれを忘れてしまう。
 朧気に覚えている事はあっても、それも“現実”での時を過ごす内に次第に薄れ消えていく。
 どんなに幸せな“夢”でも、或いは残酷な“夢”であっても、平等に儚く消えていくものなのだ。
 でも、本当に極稀に。
 “夢”を忘れる事がない人もいる。
 “夢”で得た数多の異世の記憶を出逢いを、覚え続ける事が出来る人もいる。
 そう言う人々の中には、“夢”と“現実”の境を見失い自分が生きている“世界”が何れなのかすら分からずに狂っていく者も多く居た。
 また逆に、異世の記憶を元にしてより自分に望ましい未来を手に入れようと足掻く者も居た。
 異世を覗き見る事が、そしてそれを忘れずに居る事が、果たして幸せな事なのかは分からないが。
 私も、願う未来を手に入れる為に、足掻く者の一人であった。


 私は時折“夢”を見る。
 それは、異なる可能性を生きている“私”と出逢う“夢”。
 決して交わらぬ筈の、異なる可能性を覗き見る“夢”だ。
 “夢”の中で出逢う“私”は、皆同じ共通点があった。
 同じ願いを胸に、絶望に抗い全てを賭けて叶えようとしている“私”である、と言う点だ。
 ……“夢”の中で出逢う“私”の中には、志半ばに“失敗”してしまった者も多く居た。
 そんな“私”達は皆決まって、“まだ失敗していない私”達へと力を貸そうとする。
 決して交われない異世の存在であるのだとしても、“私”と言う存在にとっては“あの人”である事には変わらないからだ。
 例えそれが決して逢う事も叶わない存在であるのだとしても、“あの人”が救われるのならば……“私”にはそれだけで良いからだ。
 そんな“私”達の想いは、私には痛い程に理解出来る。
 考えたくも無いがもし私も“失敗”してしまった時には、“夢”で出逢う全ての“私”へ、私と同じ“失敗”を犯さない様にと力を貸すだろう。
 “私”達は、全て同じ目的の為に戦う“同志”であるのだから。


 そして今夜の“夢”でもまた一人、私は“私”と出逢った。
 髪や目や服の色は全く違うけれども、出逢った瞬間に“私”だと理解出来る。
 そう言うものなのだ。
 私が出逢った“私”達の中にはそもそも人間でもない“私”も存在したが、それでも一目見た瞬間に互いに“私”であると理解出来る。


「あなたは“失敗した私”?
 それとも、まだ“足掻いている私”?」

「まだ“足掻いている私”よ」

「そう……“私”もよ」


 最早慣れ親しんだそんな問答を行い、そして共に少し安堵した様な顔を見せる。
 “失敗した私”から学べる事はとても多いが、どうしてもその痛々しさは私には辛くなる。
 そこに居るのは、明日の“私”の姿のかもしれないからだ。
 だから、まだ足掻けている“私”である事は、少しばかり気が楽になるのだ。
 それは、向こうにとっても同じなのだろう。

 互いに自分の世界ではどの様な選択で何が起きたのか、何が起きているのかを掻い摘まんで話していく。
 同じ“私”であるから、余計な言葉は必要なく最低限度の内容で全て互いに理解出来る事が有り難い。
 こうして得られた“異なる選択の先の結果”を知る事で、少しでも“現実”を“私”達が望む未来へと近付ける為の力に出来るのだ。
 “あの人”を救う事は極めて困難で、幾万幾億の“私”達が挑み敗れても一向にその筋道すら見えない。
 もしかしたら“あの人”を救える可能性など、全ての可能性を探しても存在しないのでは無いかと、不安になってしまう程だ。


「…………何時か、“あの人”を救える日が本当に来るのでしょうか……」


 ポツリと“私”が溢した言葉は、“私”達全てに共通する想いであった。


「……分からないけど、でもそれが“不可能”な事でも諦められないでしょ?
 だから、私も“私”もこうしてここで足掻いているんだから……」


 諦めてしまえばこうして“夢”で逢う事など無いのだ。
 ここに居ると言うそれだけで、その“私”は闘い抗う事を選んでいると言う証明になる。


「……そうね」


 闘い続け、幾度も絶望を味わって、それでも尚諦められない。
 それはいっそ愚かな事のかも知れないが、どうしても救いたいのだ。
 それは、“私”達が“あの人”の娘だから。

 そろそろもう“夢”も終わる。
 こうしてここで一度出逢った“私”と再び巡り逢う事は、今まで一度も無かった。
 無限に等しい程私が存在するのだとしたら、それもまた当然の事なのだろう。

 だから、別れる時には互いに願うのだ。
 願わくば、その願いが叶う様に、“私”の“あの人”を救う事が出来る様に、と。


 目覚めれば、再び地獄よりも絶望に満ちた“現実”が待っている。
 それでも、私は臆さずに立ち向かい続ける。

 この世の誰よりも大切な父さんを、絶望の底から助け出す為に。
 それが、全ての“私”達の、幾万幾億の有りとあらゆる異世の“マーク”の願いなのだから。






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