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お伽噺の果てに

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 クロムが最後に見た光景は。
 この世の全てよりも愛しい妻──ルフレが、この世の全てに絶望した様な顔で自身を掻き抱くその姿であった。
 壊れた様にクロムの名を呼び、「ごめんなさい」「私の所為で」と自身への呵責で今にも壊れてしまいそうなルフレに。
 クロムは最期の力を振り絞って、自身の血で汚れてしまった手で、ルフレの頬を撫でた。

『お前の所為じゃない』
『お前だけでも、逃げろ』

 脇腹に走る激痛と共に薄れ行く意識の中で、必死に紡いだその言葉は。
 果たしてルフレに届いたのだろうか……。

 届いていれば良いのだけれども、と思う反面。
 届いていたとしても、ルフレは自身を責め立てて追い詰めてしまうだろう。
 それが良く分かっているから、もうそれを慰め支える事すら出来なくなるであろう自身の不甲斐なさが、何よりも歯痒かった。

 自分の死を感じる中でも、クロムの心の内を何よりも占めていたのは。
 志半ばに倒れる後悔でも、後に遺す事になる仲間達の事でも、城に置いてきたルフレとの愛しい子供たちの事でも無く。
 ただ一人、クロムの命よりも大切な宝物である、ルフレの事であった。

 ルフレは、どうなるのだろうか。
 操られて、自身の意思とは無関係に、望まぬままクロムを殺させられてしまった、誰よりも優しく愛しい人は……。

 愛しい人が自ら死を願いそれを成そうとする事だけは無い様にと。
 そうクロムは、死の淵に沈み行く中で、誰にとは無く祈ったが。
 果たしてその祈りは、誰かの元へ届いただろうか……。

 そんな心残りばかりを遺しながら。
 何よりも愛しい温かさに抱かれたまま、クロムの意識は闇の中へと沈んでいったのだった。







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