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天泣過ぎれば

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 ぺレジア戦争が終結してから半年の年月が経った頃。
 聖王代理は王妃としてある女性を迎える事を公表した。
 その者は、聖王の半身として名を馳せ、そしてぺレジア戦争をイーリスの勝利へと導いた功労者にして救国の英雄。
 イーリスの神軍師、ルフレであった。

 貴族でも何でもない彼女を王妃として迎える事に反対する貴族も居たが、時を同じくして彼女に反対する何名かの有力な貴族たちの、国に対する重大な反逆行為が露呈して多くはその権力の座を追われる事になった為、次第にその反対の声も下火となっていった。
 この当時実しやかに噂になっていた事によると、処罰された貴族の中に王妃を誘拐しようとした者が居たとか、そこに蒼髪で知られる聖王の化身の様な蒼い狼が現れて悪漢から王妃を救い出したのだとか、或いはその狼こそ聖王その人だったのではないかなどと、何とも信憑性の怪しい事ではあるが何らかの重大な事件が起きていたのは確かな様だ。

 何にせよ、その婚姻に反対する声が立ち消えた結果、聖王と軍師は多くの人々に心から祝福されながら、婚姻の儀を執り行った。

 それから少しの時を経て、見事に聖痕を受け継ぐ王女を身籠り出産した王妃に難色を示すものは最早一人もおらず。
 彼女の身元が分からぬ事を咎める者はもういなかった。
 その後、ヴァルム帝国の侵攻と、邪竜ギムレーの復活と言う、二度にも渡る大きな戦乱を乗り切った二人は。
 ギムレーとの戦いの後、その激戦の混乱故にか、暫しの間王妃の行方が分からなくなった時期を除いては、それはもう仲睦まじく寄り添い合って共に生きたのだと後世にも長く伝えられている。
 今も残されている聖王クロムの肖像画はどれも必ず寄り添い合う王妃ルフレと共に描かれている事からも、その中の良さは伺えよう。

 そんな仲睦まじく理想的な夫婦として後の世の人々の記憶に残り続ける二人ではあるが、嘘か誠かは分からない噂が残されていた。

 聖王クロムの楽しみの一つが妻手ずからその髪を梳って貰う事であったらしいのだが、そうやって王妃ルフレにブラシを当てて貰っているその姿は、まるで大きな狼の様であったと言う。

 まあ、何にせよ。
 彼らが心から互いを愛し、そして満ち足りた人生を最後まで共に過ごしていた事だけは一つ確かな事の様だ。








【天泣過ぎれば:終】



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