朝虹は雨、夕虹は晴れ
■■■■
景勝地としてそこそこ有名な湖畔なのだが、周辺にクロムとルフレ以外の人影は無い。
落ち着いてきたとは言え、まだ先の戦の復興の最中であるのだ。
行楽に割く余裕は、まだ一般の民には無い。
それにまだ、先王エメリナの喪に自主的に服している者も多いのである。
そんな諸々の事情もあって、湖畔は穏やかな静寂に包まれているのであった。
「……!」
緩やかに吹き渡る風に穏やかに水面を揺らしながら陽光を反射してキラキラと光る湖を見て、ルフレは目を大きく見開いて驚嘆の声を上げる。
自分の思い出に関する記憶を喪っているルフレにとっては、クロムと出会ってから見たモノが世界の全てだ。
イーリスにフェリアそしてペレジアと、実に様々な場所をクロムと共に巡ってきたルフレであるが。
その大半は戦場であり、少なくともこの様に態々景色を見る為だけに何処かを訪れた事は無い。
故に、こんなにも綺麗な湖を見るのは初めての事であったのだ。
それを考えて、クロムはここに連れてくる事を選んだ。
その目論見はどうやら成功した様である。
「良い場所だな」
ルフレが何処かはしゃぐ様にしているのを見て、クロムもまた気持ちが弾んでいた。
キラキラとした目で碧に染まる湖を見るルフレにそう声を掛けると。
「……!
く、クロムさん……!
は、はい! 凄く素敵な湖ですね!」
頬を赤らめながらルフレはブンブンと音が鳴りそうな勢いで頷いた。
そんな恋人の様子に、クロムも思わず体温が上がってしまいそうになる。
こうやって二人だけの時間を過ごすのは何時ぶりだろう。
ギャンレルを倒した後、まだ戦の余韻が残る戦場でルフレにクロムが思いの丈を伝えて以来であるのではないだろうか。
軍師と軍主と言う関係ではなく、ただのクロムとルフレとして……恋人として過ごすのは、もしかしたら初めての事であるのかもしれない。
ルフレのその長く艶やかで指通りの良さそうな髪は風で静かに揺れていて。
赤く染まった頬は、思わず触れたくなる程に魅惑的で。
緊張しているのか固く握られたその手には、クロムが贈った指環が輝いていて。
吸い込まれてしまいそうなその瞳には、クロムだけが映っていた。
何も言わず、何も言えず。
二人してお互いに見惚れてしまっていた。
見詰めあうだけで、止まっている様にも感じられる時間は放たれた矢の如く進んでしまう。
ポチャン、と。
魚か何かでも跳ねたのか、湖面に何かが落ちた音がして。
そこで漸く二人は全く同時にお互いから視線を外した。
クロムは思わず手で口元を覆う。
頬の熱さと遜色無い程に、手も熱くなっている。
二度三度と、深く息を吸い込んでは吐き出して、何とか気持ちを落ち着かせようとした。
こんな事ではいけない。
目的を思い出せ。
何の為に、仲間達に協力して貰ってまで、今日この日にルフレをここに連れてきたんだ?
自問自答して漸く冷静になったクロムは、未だに顔を逸らしているルフレに向き合った。
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景勝地としてそこそこ有名な湖畔なのだが、周辺にクロムとルフレ以外の人影は無い。
落ち着いてきたとは言え、まだ先の戦の復興の最中であるのだ。
行楽に割く余裕は、まだ一般の民には無い。
それにまだ、先王エメリナの喪に自主的に服している者も多いのである。
そんな諸々の事情もあって、湖畔は穏やかな静寂に包まれているのであった。
「……!」
緩やかに吹き渡る風に穏やかに水面を揺らしながら陽光を反射してキラキラと光る湖を見て、ルフレは目を大きく見開いて驚嘆の声を上げる。
自分の思い出に関する記憶を喪っているルフレにとっては、クロムと出会ってから見たモノが世界の全てだ。
イーリスにフェリアそしてペレジアと、実に様々な場所をクロムと共に巡ってきたルフレであるが。
その大半は戦場であり、少なくともこの様に態々景色を見る為だけに何処かを訪れた事は無い。
故に、こんなにも綺麗な湖を見るのは初めての事であったのだ。
それを考えて、クロムはここに連れてくる事を選んだ。
その目論見はどうやら成功した様である。
「良い場所だな」
ルフレが何処かはしゃぐ様にしているのを見て、クロムもまた気持ちが弾んでいた。
キラキラとした目で碧に染まる湖を見るルフレにそう声を掛けると。
「……!
く、クロムさん……!
は、はい! 凄く素敵な湖ですね!」
頬を赤らめながらルフレはブンブンと音が鳴りそうな勢いで頷いた。
そんな恋人の様子に、クロムも思わず体温が上がってしまいそうになる。
こうやって二人だけの時間を過ごすのは何時ぶりだろう。
ギャンレルを倒した後、まだ戦の余韻が残る戦場でルフレにクロムが思いの丈を伝えて以来であるのではないだろうか。
軍師と軍主と言う関係ではなく、ただのクロムとルフレとして……恋人として過ごすのは、もしかしたら初めての事であるのかもしれない。
ルフレのその長く艶やかで指通りの良さそうな髪は風で静かに揺れていて。
赤く染まった頬は、思わず触れたくなる程に魅惑的で。
緊張しているのか固く握られたその手には、クロムが贈った指環が輝いていて。
吸い込まれてしまいそうなその瞳には、クロムだけが映っていた。
何も言わず、何も言えず。
二人してお互いに見惚れてしまっていた。
見詰めあうだけで、止まっている様にも感じられる時間は放たれた矢の如く進んでしまう。
ポチャン、と。
魚か何かでも跳ねたのか、湖面に何かが落ちた音がして。
そこで漸く二人は全く同時にお互いから視線を外した。
クロムは思わず手で口元を覆う。
頬の熱さと遜色無い程に、手も熱くなっている。
二度三度と、深く息を吸い込んでは吐き出して、何とか気持ちを落ち着かせようとした。
こんな事ではいけない。
目的を思い出せ。
何の為に、仲間達に協力して貰ってまで、今日この日にルフレをここに連れてきたんだ?
自問自答して漸く冷静になったクロムは、未だに顔を逸らしているルフレに向き合った。
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