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天泣過ぎれば

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 人目に触れぬ様にこっそりと馬車を降りたクロム達は、そのままひっそりと王城の最奥の……王家の者のみが自由に出入り出来る区画へと移動した。
 そしてそこにある、今はあまり使われていない一室にクロムは身を潜める。
 ここならば、侍女達が出入りする事もそう無い為、少しは事態の発覚を先伸ばしに出来るであろう。
 それがクロムが『呪われた』姿なのだとバレる訳ではなくとも、そもそも王城に狼など現れようものなら蜂の巣を突ついたかの様な大騒ぎになる事が目に見えている。
 が、かと言って他に身を寄せられる場所などないのだ。

 ルフレが居住区を与えられている元自警団・現イーリス騎士団のアジトは常に人の出入りが激しく、とてもではないが狼の姿であるクロムが人目から身を隠し続けられる環境ではない。
 王都の一画にあるフレデリクの屋敷に身を寄せるのも、あまり現実的ではなかった。
 その点、勝手知ったる王城ならば、咄嗟の時にも身を隠せる場所やら隠し通路やらに逃げ込める。
 そんな訳で、クロムは王城に身を置いていたのであった。

 しかし王城に身を隠しているからと言って、何の問題も起きぬ訳ではない。

 体調を崩している為に療養している、と言う体で人前に姿を見せていないのではあるけれど。
 だからと言って、フレデリクとリズとルフレ以外の誰にも会わない状態など何時までもは続けてはいられない。
 止むを得ず侍医には事情を話して口裏を合わせて貰ってはいるものの、それで誤魔化すのも限りはあるだろう。

 日に一度、こっそりと城奥に招いたサーリャに診て貰ってはいるが、まだ一向に解呪の手懸かりは掴めぬままであった。
 しかしそれもそう長くは続けられない。
 万が一にもペレジア出身の呪術師であるサーリャが城の奥部に出入りしている事が他の者に知られでもしたら大きな騒ぎになるであろう事は目に見えているので、このまま頻回にサーリャに診て貰うのも難しいだろう。
 先の戦争の事もあって貴族高官にはペレジアの民に対する忌避感と恐怖感が蔓延している為、彼等にサーリャの姿が目に留まりでもすればどんな在りもしない言い掛かりを付けられるか分かったものではなかった。

 クロムの不在を他の者達に悟られるまでもうあまり猶予は残されていない為、一刻も早く呪いを解かなければならないのだが。
 しかし……王城に帰還して数日が経っても、まだ何の手掛かりも掴めず呪いは解けぬままであった。
 もしかしてこのまま一生……などと、皆がそんな不安に次第に苛まれていく。

 そんな中で、事件は起こったのであった。






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