朝虹は雨、夕虹は晴れ
□□□□
それから数日後。
何だかよく分からないのだが、ルフレの元に舞い込み続ける仕事の都合が良い感じに少し減り、ルフレが色々と画策した結果もあってか、クロムとルフレの休みが重なる事となった。
これはもう、ここで決行するしかない。
そう心に決めたルフレは、クロムと王都から少し離れた所にある湖へと出掛けるべく、約束の時間よりも大分前から彼を待っていた。
昨晩から期待と不安で一杯で、あまりよくは眠れなかったのだが全く問題は無い。
仕事の時以外で久方振りに見るクロムの顔を見た瞬間に、疲れなど吹き飛んでしまうだろうからだ。
クロムの笑顔一つで、どんなに疲れてしんどい状態であっても忽ちの内にそんなモノは消え去ってしまう。
ドキドキと高鳴る胸の鼓動で、逆に死んでしまいそうになるのだ。
日々の政務やら軍議でクロムの顔なんて見慣れている筈なのに、いざ恋人と意識をすると、途端にどうして良いのかが分からない。
戦闘の作戦の事とかならスラスラと考え付き、どんな戦況だってひっくり返してみせる程の冴えを見せる頭脳も、恋愛事に関してはポンコツも良い所であった。
ティアモが何故か良い笑顔で貸してくれた『恋愛必勝法』と言う題の本は、ページに穴が空くんじゃないかと言う程に読み込んでスラスラと諳じる事が出来る程であるが、幾ら知識を付けようとも根本的な部分の解決には至っていなかった。
しかし、ルフレ自身はそれに気付いていない。
策を練り知識を積み上げた事で自信に満ち溢れていた。
(さあ、何時でもかかってきて下さい!)
そう内心で気合いを入れたルフレであったが……。
「すまんルフレ、待たせたか?」
「ふぇっ……!」
不意打ちの様に聞こえてきたクロムの優しい声に、思わず肩が大きく跳ねた。
車軸に油をさし忘れた車輪の様にがたつきつつ、声がした方向に顔を向けると。
「…………っ!」
一瞬息が止まってしまう。
そこに居たのは何時もと同じ格好をしたクロムだったのだが、ルフレの目には光り輝いているかの如き煌めきを纏っている様に見えていた。
恋とは正に盲目である。
見慣れている筈のクロムの姿を、いざ恋人として意識すると、とてもでは無いが直視出来ない。
何時でもかかってこい? 無理だ、もう降参だ。
数秒前の自分の決意を躊躇う事無く翻し、ルフレは内心で白旗を揚げる。
「お、おい、ルフレ……? 大丈夫か……?」
固まってしまったかの様なルフレを心配そうに見詰めながら、クロムは戸惑ってしまったかの様に狼狽える。
クロムとて、まさかルフレがクロムの顔を見ただけで、クロムの事で頭が一杯になってしまうとは思ってもいない。
「…………。……!
えっ、は、はい! 全然問題無いですよ!
私は何時も通りですし……!」
クロムが自分の目を覗きこんでいる事に気が付いて、漸くルフレに正常な思考が戻る。
正確には正常に戻ったのではなく、過剰な負荷によって一旦思考を放り投げた様なものなのだが。
とにもかくにも、受け答え出来る程度には思考の余地が生まれたのであった。
「そ、そうか。
あー、その、今日はちょっと出掛けたい所があってだな。
ルフレにも、出来れば一緒に来て欲しい訳なのだが……」
照れた様に、クロムが頬を僅かに赤く染めながらそうルフレを誘うと……。
「そっ、そうなんですか!!
奇遇ですね、私も今日クロムさんと出掛けたい所があったのですよっ!
えーっとですね……」
よく熟れた林檎の様に頬を赤くしながら、ルフレは一息にそう言う。
そして、王都近くにある景勝地として名高い湖畔の名を上げた。
すると。
「まさに奇遇だな。
丁度俺もそこに誘うつもりだったんだ」
驚いた様にクロムが言う。
どうやらお互いに、良い雰囲気になれる場所を探そうとして被った様だ。
その辺り、クロムとルフレは思考回路が似ているのかもしれない。
が、既に一杯一杯なルフレはそんな所に思考が行き着かず、とにかくクロムを連れてそこに行かなくてはと言う事しか頭の中に無い。
「そ、そうなんですか!
では、行きましょう!」
クロムが少し押され気味になる勢いでルフレはそう言って、馬を出して一路目的地の湖畔を目指すのであった。
■■■■
それから数日後。
何だかよく分からないのだが、ルフレの元に舞い込み続ける仕事の都合が良い感じに少し減り、ルフレが色々と画策した結果もあってか、クロムとルフレの休みが重なる事となった。
これはもう、ここで決行するしかない。
そう心に決めたルフレは、クロムと王都から少し離れた所にある湖へと出掛けるべく、約束の時間よりも大分前から彼を待っていた。
昨晩から期待と不安で一杯で、あまりよくは眠れなかったのだが全く問題は無い。
仕事の時以外で久方振りに見るクロムの顔を見た瞬間に、疲れなど吹き飛んでしまうだろうからだ。
クロムの笑顔一つで、どんなに疲れてしんどい状態であっても忽ちの内にそんなモノは消え去ってしまう。
ドキドキと高鳴る胸の鼓動で、逆に死んでしまいそうになるのだ。
日々の政務やら軍議でクロムの顔なんて見慣れている筈なのに、いざ恋人と意識をすると、途端にどうして良いのかが分からない。
戦闘の作戦の事とかならスラスラと考え付き、どんな戦況だってひっくり返してみせる程の冴えを見せる頭脳も、恋愛事に関してはポンコツも良い所であった。
ティアモが何故か良い笑顔で貸してくれた『恋愛必勝法』と言う題の本は、ページに穴が空くんじゃないかと言う程に読み込んでスラスラと諳じる事が出来る程であるが、幾ら知識を付けようとも根本的な部分の解決には至っていなかった。
しかし、ルフレ自身はそれに気付いていない。
策を練り知識を積み上げた事で自信に満ち溢れていた。
(さあ、何時でもかかってきて下さい!)
そう内心で気合いを入れたルフレであったが……。
「すまんルフレ、待たせたか?」
「ふぇっ……!」
不意打ちの様に聞こえてきたクロムの優しい声に、思わず肩が大きく跳ねた。
車軸に油をさし忘れた車輪の様にがたつきつつ、声がした方向に顔を向けると。
「…………っ!」
一瞬息が止まってしまう。
そこに居たのは何時もと同じ格好をしたクロムだったのだが、ルフレの目には光り輝いているかの如き煌めきを纏っている様に見えていた。
恋とは正に盲目である。
見慣れている筈のクロムの姿を、いざ恋人として意識すると、とてもでは無いが直視出来ない。
何時でもかかってこい? 無理だ、もう降参だ。
数秒前の自分の決意を躊躇う事無く翻し、ルフレは内心で白旗を揚げる。
「お、おい、ルフレ……? 大丈夫か……?」
固まってしまったかの様なルフレを心配そうに見詰めながら、クロムは戸惑ってしまったかの様に狼狽える。
クロムとて、まさかルフレがクロムの顔を見ただけで、クロムの事で頭が一杯になってしまうとは思ってもいない。
「…………。……!
えっ、は、はい! 全然問題無いですよ!
私は何時も通りですし……!」
クロムが自分の目を覗きこんでいる事に気が付いて、漸くルフレに正常な思考が戻る。
正確には正常に戻ったのではなく、過剰な負荷によって一旦思考を放り投げた様なものなのだが。
とにもかくにも、受け答え出来る程度には思考の余地が生まれたのであった。
「そ、そうか。
あー、その、今日はちょっと出掛けたい所があってだな。
ルフレにも、出来れば一緒に来て欲しい訳なのだが……」
照れた様に、クロムが頬を僅かに赤く染めながらそうルフレを誘うと……。
「そっ、そうなんですか!!
奇遇ですね、私も今日クロムさんと出掛けたい所があったのですよっ!
えーっとですね……」
よく熟れた林檎の様に頬を赤くしながら、ルフレは一息にそう言う。
そして、王都近くにある景勝地として名高い湖畔の名を上げた。
すると。
「まさに奇遇だな。
丁度俺もそこに誘うつもりだったんだ」
驚いた様にクロムが言う。
どうやらお互いに、良い雰囲気になれる場所を探そうとして被った様だ。
その辺り、クロムとルフレは思考回路が似ているのかもしれない。
が、既に一杯一杯なルフレはそんな所に思考が行き着かず、とにかくクロムを連れてそこに行かなくてはと言う事しか頭の中に無い。
「そ、そうなんですか!
では、行きましょう!」
クロムが少し押され気味になる勢いでルフレはそう言って、馬を出して一路目的地の湖畔を目指すのであった。
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