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初めての「おつかい」

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 と、クロムからの依頼を受けてこっそり二人の尾行を開始したものの、ガイアが見ている限りでは特にこれといって問題はなさそうだった。
 元々ルキナは賢いし分別があり、マークはマークでとても4歳前とは思えない程に周りを見ている。
 二人とも危険な場所になど最初から近寄らないのだ。

 まあそもそもの話この王都に危険な場所なんて、もう殆ど残っていない。
 かつては犯罪の温床であった貧民街ですら、クロムの統治が安定し区域の整備が進んだ結果、多少荒っぽい者が他よりも多い程度の場所に変わっている。
 裏の道の連中が屯する場所なんて、普通にしていればそもそも辿り着けやしない。

 まあ王族として過保護にならざるを得ないのは分かるのだが、今日日“はじめてのおつかい”なんて5歳程度で済ませる子供もザラに居るのだ。
 騎士団本拠地が城から子供の足でも辿り着ける場所にある事もあって、大した“おつかい”でもない。

 まあ、それはあくまでも外野から見た場合の話なのだが。

 まだ幼いルキナとマークにとっては、父や母を伴う事も、(こっそりガイアが尾行しているとは言え)護衛を伴う事もなく、子供だけで王城の外に行くのは初めての経験なのであるから。
 勢いで飛び出してきたのはいいものの、やはりどうしたって緊張してしまっているのではないだろうか。

 緊張しているのは窺えながらもその足取りに迷いはない点は、流石はクロムとルフレの子供だなぁ……とガイアは思う。
 今あの二人は、幼心を高鳴らせつつ“はじめてのおつかい”と言う掛替えの無い冒険をしているのだ。
 クロムにも言ったが、水をさすのは野暮と言うものである。

 騎士団本拠地に無事辿り着いた二人が、二人の正体を認識した門番の度肝を抜きつつも、勢い込んでルフレの元へ駆け込んでいくのを見届けたガイアはやれやれと頭を掻いた。

 その視線の先には、ガイアに気付いていたのだろうルフレが、にっこりと微笑んで礼を言うように軽く頭を下げた姿があった。

 ルフレに無事忘れ物を届ける事に成功した二人は、大喜びでその道中の冒険の噺を語って聞かせているようだ。
 きっと、あの二人はガイアがこうして見守っていた事には気付いてないのだろう。
 が、それで良いのだ。


「全く、“平和”ってのは良いもんだな」


 平和なのは良い事だ。
 旨い菓子も食えるし、幼い子供が自分の思うがままに“冒険”する事を許してやれる。
 クロムとルフレ、そしてガイア達が必死になって戦ってきた先にある世界は、素晴らしいものだった。

 口の端を緩めたガイアは、懐の中からお気に入りの菓子を取り出して一つ口に頬張った。


「ん、やっぱ旨いな」


 願わくば、こうやって旨い菓子が存分に食べられる様な世界が少しでも長く続いて欲しいものだ。
 そんな事を考えつつ。
 ガイアは、ソンシンの特別な菓子とやらを楽しみにしつつ、クロムへ報告する為に城へと引き返すのであった。






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