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初めての「おつかい」

◇◇◇◇




 クロムの執務室に突風の様にやって来たルキナとマークは、クロムが止める間もなくそのまま勢いよく飛び出していってしまった。
 一瞬過ぎて思わずポカンとなってしまっていたクロムは頭を一度振って意識を切り換え、止めなければ、と腰を浮かした、が。


「まあまあ、止めとけよ」


 と、その行動に待ったを掛ける者が居た。
 ガイアだ。
 ペレジアとの戦乱の最中に出会った盗賊は、今やクロム直属の密偵の長と言う立場にまでなっていた。
 クロムとしてはそれ以上に色々と気心の知れた男友達の様な関係でもある。
 報告をしていた途中の珍事にも、ガイアはさして驚いた様子も見せない。


「これはアレだ。
 “はじめてのおつかい”ってやつさ。
 親としては見守ってやるべきもので、それに水をさすのは野暮ってもんだぜ」

「そうなのか?」

「ルフレの所……って事は行き先は騎士団本拠地だろ?
 ここからなら別に遠くはないし、治安が悪い所なんて通りやしない。
 一々心配する事じゃないさ」

「だが、ルキナはまだ8歳でマークはまだ4歳も満たないんだぞ?」

「“はじめてのおつかい”なんてそんなもんだ。
 寧ろクロムは過保護な位だな。
 ま、それも仕方ないっちゃそうなんだろうが」


 王族ってのも大変だな、と他人事の様にガイアは言う。(事実他人事ではあるが)
 そんなガイアを見て、クロムは一つ思い付いた。
 そして。


「よし、ガイア。
 二人をこっそり陰から見守ってくれないか?
 もし何かありそうだったら、事前に対応してくれ」

「は? 何でまたそんな事を……」

「特別報酬なら弾むぞ?」


 一瞬面倒くさそうな顔をしたガイアの前に、クロムはとっておきの一品を取り出す。


「おい! おいおい……! それってまさか……!」

「ああ、サイリ殿から贈られてきたソンシンの菓子だ。
 こっちには一切流通していない高級品らしくてな。
 味は保証するぞ?
 これ一箱まるごとでどうだ?」


 菓子が詰まった箱を見た瞬間に目の色を変えたガイアは、迷うまでもなく快諾するのであった。





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