初めての「おつかい」
◇◇◇◇◇
隣国ペレジアと、そして海を隔てたヴァルム帝国と、二度にも渡る大きな戦争も既に今となっては少し昔の話。
初代聖王の伝説の彼方から蘇った邪竜も、神竜ナーガの力を受けた神剣の担い手たる当代聖王と彼が率いる名だたる英雄達によって滅ぼされ、世界は平和な時代を迎えようとしていた。
滅竜の大英雄たる聖王クロムと、その妻にして神軍師と謳われる聖王妃ルフレの第一子たるルキナ王女は既にその齢を8を数え。
邪竜討伐時の混乱によって一時消息不明になっていたルフレが無事帰還した後に産まれた第二子たるマーク王子は今年で4歳になる。
どちらも両親や周囲の愛情を目一杯に受けてすくすくと健やかに育ち、父と同じくファルシオンに担い手として選ばれたルキナ王女は、父の様な剣士を目指してめきめきと剣の腕を磨いていた。
またまだ幼いながらも母譲りの聡明さを遺憾なく発揮するマーク王子は、周囲からその将来を嘱望されている。
次代を担う王族も健やかに育ち、自らは武を奮う王ながらも、姉たる先代聖王に倣って内政と文治に重きを置く聖王クロムの統治も大禍無く続いている。
そんな穏やかで安定した繁栄をイーリス聖王国が迎える事が出来ているのには、聖王妃たるルフレの力が大いに貢献しているのは誰もが知る所である。
聖王妃としての務めを果たしながらも神軍師とまで讃えられたその叡知を遺憾無く発揮して国内のみならず国外の問題まで解決してしまうルフレは、当然の帰結として極めて多忙な人であった。
それでいて家族と過ごす時間は必ず捻り出すのだから、ほとほと有能すぎて恐ろしい人である。
そんな多忙を極めるルフレは、今日は王都の外周付近にあるイーリス騎士団の本拠地へと赴いていた。
先の戦の後に新生した騎士団は、かつてのクロム自警団やイーリス軍を母体としているだけに友人や顔見知りも多く、ルフレにとっては勝手知ったる場所である。
が、しかし。
「これは……!
お母さまが大切にいつも持ち歩いているペンじゃないですか……!
それがどうしてここに……?
お母さま、忘れていってしまったのでしょうか……?」
日課の剣の稽古を終えたルキナは、何時もの様にルフレの執務室へと遊びに行った。
無論、手を付けてはならないモノには触らない。
様々な本や書類で溢れるルフレの執務室は、幼いルキナやマークにとってはまるで宝探しの山の様で、ここに居ればルフレが執務を終えれば直ぐに構ってもらえると言う事もあって、二人にとってはお気に入りの場所であった。
そんなルフレの執務室の、執務机の上。
そこには、ルフレが常に持ち歩いている程に愛用しているペンが、忘れられた様に転がっていた。
かつて父クロムから贈られたのだと言うそのペンは、良質な上に頑丈で、ルフレを相棒の様に長年支え続けていたのだ。
ルフレが殊の外大切にしているそのペンを、ルキナもマークも勿論知っていた。
常に持ち歩いている程のそれがどうしてこんな所に転がっているのであろう。
珍しい事に、忘れてしまったのだろうか?
「このペンがないと、おかーさんはこまっちゃうんじゃないでしょうか」
マークも心配そうにペンを見詰める。
「大事な大事なペンだって、お母さまは言ってましたものね」
そんなに大切なペンが手元に無いとなると、ルフレはとても困ってしまうし不安になるのではないだろうか。
なら、誰かがこのペンをルフレの所へと届けなければならない。
そう考えたルキナは、名案を思い付いたとばかりに「そうだ!」と顔をあげた。
「私たちが、お母さまのところまでこのペンを届けにいけばいいんです!
そうしたら、きっとお母さまも安心してくれるし、よろこんでくれるはずです!」
「わあ! さすがねえさん!
めいあんですね!」
ルキナの賛成する様に、マークはパチパチと拍手する。
そうと決まれば善は急げというものだ。
早速二人は、クロムの執務室へとトコトコと走って行った。
「お父さま!
これからマークと二人でお母さまのところまで届けものをしてきます!」
「いってきます!」
そして、クロムの返事も聞かずに、二人は元気よく飛び出していったのであった。
◇◇◇◇
隣国ペレジアと、そして海を隔てたヴァルム帝国と、二度にも渡る大きな戦争も既に今となっては少し昔の話。
初代聖王の伝説の彼方から蘇った邪竜も、神竜ナーガの力を受けた神剣の担い手たる当代聖王と彼が率いる名だたる英雄達によって滅ぼされ、世界は平和な時代を迎えようとしていた。
滅竜の大英雄たる聖王クロムと、その妻にして神軍師と謳われる聖王妃ルフレの第一子たるルキナ王女は既にその齢を8を数え。
邪竜討伐時の混乱によって一時消息不明になっていたルフレが無事帰還した後に産まれた第二子たるマーク王子は今年で4歳になる。
どちらも両親や周囲の愛情を目一杯に受けてすくすくと健やかに育ち、父と同じくファルシオンに担い手として選ばれたルキナ王女は、父の様な剣士を目指してめきめきと剣の腕を磨いていた。
またまだ幼いながらも母譲りの聡明さを遺憾なく発揮するマーク王子は、周囲からその将来を嘱望されている。
次代を担う王族も健やかに育ち、自らは武を奮う王ながらも、姉たる先代聖王に倣って内政と文治に重きを置く聖王クロムの統治も大禍無く続いている。
そんな穏やかで安定した繁栄をイーリス聖王国が迎える事が出来ているのには、聖王妃たるルフレの力が大いに貢献しているのは誰もが知る所である。
聖王妃としての務めを果たしながらも神軍師とまで讃えられたその叡知を遺憾無く発揮して国内のみならず国外の問題まで解決してしまうルフレは、当然の帰結として極めて多忙な人であった。
それでいて家族と過ごす時間は必ず捻り出すのだから、ほとほと有能すぎて恐ろしい人である。
そんな多忙を極めるルフレは、今日は王都の外周付近にあるイーリス騎士団の本拠地へと赴いていた。
先の戦の後に新生した騎士団は、かつてのクロム自警団やイーリス軍を母体としているだけに友人や顔見知りも多く、ルフレにとっては勝手知ったる場所である。
が、しかし。
「これは……!
お母さまが大切にいつも持ち歩いているペンじゃないですか……!
それがどうしてここに……?
お母さま、忘れていってしまったのでしょうか……?」
日課の剣の稽古を終えたルキナは、何時もの様にルフレの執務室へと遊びに行った。
無論、手を付けてはならないモノには触らない。
様々な本や書類で溢れるルフレの執務室は、幼いルキナやマークにとってはまるで宝探しの山の様で、ここに居ればルフレが執務を終えれば直ぐに構ってもらえると言う事もあって、二人にとってはお気に入りの場所であった。
そんなルフレの執務室の、執務机の上。
そこには、ルフレが常に持ち歩いている程に愛用しているペンが、忘れられた様に転がっていた。
かつて父クロムから贈られたのだと言うそのペンは、良質な上に頑丈で、ルフレを相棒の様に長年支え続けていたのだ。
ルフレが殊の外大切にしているそのペンを、ルキナもマークも勿論知っていた。
常に持ち歩いている程のそれがどうしてこんな所に転がっているのであろう。
珍しい事に、忘れてしまったのだろうか?
「このペンがないと、おかーさんはこまっちゃうんじゃないでしょうか」
マークも心配そうにペンを見詰める。
「大事な大事なペンだって、お母さまは言ってましたものね」
そんなに大切なペンが手元に無いとなると、ルフレはとても困ってしまうし不安になるのではないだろうか。
なら、誰かがこのペンをルフレの所へと届けなければならない。
そう考えたルキナは、名案を思い付いたとばかりに「そうだ!」と顔をあげた。
「私たちが、お母さまのところまでこのペンを届けにいけばいいんです!
そうしたら、きっとお母さまも安心してくれるし、よろこんでくれるはずです!」
「わあ! さすがねえさん!
めいあんですね!」
ルキナの賛成する様に、マークはパチパチと拍手する。
そうと決まれば善は急げというものだ。
早速二人は、クロムの執務室へとトコトコと走って行った。
「お父さま!
これからマークと二人でお母さまのところまで届けものをしてきます!」
「いってきます!」
そして、クロムの返事も聞かずに、二人は元気よく飛び出していったのであった。
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