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朝虹は雨、夕虹は晴れ

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 一方、ルフレが何か間違った方向性へ走り出そうとしているその頃。
 自分の執務室からルフレと同様に街を見下ろしていたクロムもまた、ルフレと同様に深い溜め息を吐いていた。

 クロムもまた、婚約してから今に至るまで、全くと言って良い程に恋人らしい何かをルフレにしてあげられていない事を悩んでいたのだ。

 クロムは別にルフレの様に記憶喪失と言う訳でも、恋愛的な知識が皆無と言う訳でも無い。
 無いのだが、実はルフレに出会うまで、家族以外の人間に愛情の類いの感情を向けた事が無かった。
 クロムに好意を寄せる貴族のお嬢様方は数知れず居たのだが、クロムとしては彼女らにさっぱり興味が無かったのだ。
 クロムにとっては、大好きな姉エメリナと大切な妹のリズを守る為に強くなる事の方が余程大切な事であった。
 要するに、クロムはクロムで実際の経験値は0である。

 恋人になったからと言って、どうすれば良いのか知識はあっても中々それが行動に結び付けられない。
 そして追い討ちをかける様に、ルフレと過ごせる私的な時間がほぼ無い。


 クロムもまた、悩みに悩んでいた。


 クロムはルフレを愛している。
 あの日草原で行き倒れている記憶喪失のルフレを拾ったあの時から、きっとルフレの事が好きであった。
 所謂一目惚れに近かった。
 “運命”の様な何かを感じた。
 それは自警団の軍師と軍主として共に戦場を駆け抜けて行く内に、信頼を伴った好意へと深まってゆき。
 最愛の家族であったエメリナを喪った時、途方に暮れていたクロムを引っ張り上げてくれたその時に、何にも替え難い愛情へと変わっていた。

 が、しかし、そんな思いを一向にルフレに伝えられていないんじゃないかと、クロムは悩んでいた。
 悲しいかな、二人とも真面目であるが故に、軍議やらの会議やその他の政務で顔を合わせる事は多々あるのだが、その時に恋人同士の甘い会話など無い、皆無だ。
 戦争が終結したその時に、戦場の跡地で最初に想いを伝えて婚約して……、それっきりなのである。

 ヴェイグやガイアなどからは、「無いわー……」と言う目で見られている。
 リズからは「もっと二人で過ごさないと!」と小言を喰らう。
 フレデリクからは、「応援しております」の一言のみだ。
 解せぬ。


 クロムは悩んでいた。


 もうすぐ、クロムとルフレが出会ってから一年が経つ、……つまりルフレの誕生日まで後僅かと言う事になる。
 自分に関する何もかもを忘れていたルフレは、記憶が戻るまでの間、暫定的にクロムに拾われた日を自分の誕生日としているのだ。

 愛する恋人の誕生日。
 ここで何もしない訳にはいかないのだ。

 ルフレに「好きだ、愛している」と伝えるのは勿論だが、それ以上に彼女を喜ばせたい。
 しかし、どうすれば良いのだろう。
 ルフレが喜ぶ“何か”と言うのは中々の難敵であった。
 ルフレに喜んで貰えそうな物を挙げていくと、稀少な戦術書だの、質の良い武器だの、恋人に贈る物としては何だか間違っている気がするモノばかりだ。

 花とか装飾品だとかも贈れば喜んで貰えるだろうけれども、やはり戦術書等を贈った方が相対的に喜んでは貰える。
 ……物を贈る作戦は一先ず置いておこう。

 では、贈り物では無く、ちょっと二人で出掛けてみるとかはどうだろうか。
 あまり遠出は出来ないだろうが、王都に程近い場所ならば…………。


 幾つかの候補地の中からより条件の良い場所を選ぶ為、クロムは早速仲間達と作戦会議に取り掛かるのであった。






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