聖なる夜の子供達に
◇◇◇◇
「わぁっ!
ルキナさん、見て下さい!
街中が物凄く賑やかですよ。
僕、こんなの初めて見ました!」
そう言いながら、マークは興奮した様に辺りを見回した。
そんなマークの様子を微笑ましく思いながら、ルキナもまた飾り付けられた街を歩く。
弟であるマークと共に久し振りに帰って来た王都は、何時も以上に活気に満ちていた。
市場が降り積もる雪に負けぬ程の活気に満ち溢れ、街の至る所が飾り付けられているのを見て、ルキナは漸く今は『冬祭り』の時期なのだと思い至る。
ルキナがかつて居た最早遠い未来でも、勿論『冬祭り』と言う風習はあった。
……あったのだが、それもギムレーが復活するまでの事だ。
ギムレーに支配された世界では、人々は日々の暮らしにすら困窮する様になり。
祭り事なんて、とてもではないが催す余力は何処にも無かった。
だから、ルキナにとっての『冬祭り』の記憶は、父と母と共に過ごせた幼いあの日々の最中で途切れている。
それに関して今更ルキナが思う所は無い。
未来は変わり、あの絶望が世界を支配する事は未来永劫無くなった。
邪竜を道連れに自らも消滅した過去の母も、人の心が成した奇跡によって生還している。
次の春には、この時間の弟も生まれるであろう。
世界は、紛う事無く救われたのだ。
本来は此所に居るべきではないルキナの事も大切な娘であると宣言し事実大切にしてくれる両親が居て、未来で共に過ごしていた記憶は喪われてしまったもののたった一人残された大切な弟も居る。
本来は干渉するべきでは無いのかもしれないが、この時間の“ルキナ”も自分を姉の様に慕ってくれている。
置き去りにせざるを得なかった遠い未来を想う事が無い訳では無いのだけれど。
それでも、ルキナは今この時間を生きているのであった。
ふと、行き交う人々の中に、仲の良さそうな親子の姿を見付ける。
それは、母親に手を繋がれ父親に見守られながら幼子が嬉しそうに歩いている、何て事はない光景で。
しかし、その幼子の手に抱えられた愛らしい人形が目についた。
赤い服を纏い帽子を被り、そして優しそうな目をしたその人形は。
冬至の夜に子供達のもとを訪れると言う、サンタクロースを模したモノである。
親子はルキナの視線に気付く事無くそのまま通り過ぎて行った。
サンタクロース……、か。
ルキナはそう心の内で呟く。
その名前は、最早ルキナにとっては遠く懐かしく……そして何処か苦い。
幼いあの日々で、ルキナはその存在を確かに信じていたし、冬祭りが来る度にサンタクロースからの贈り物を心待ちにしていた。
贈り物を届けにやって来た所に出会してみたいと思い、夜更かししてみようとした事もあった。
……まあ、その時は睡魔に呆気なく負けて失敗してしまったけれども。
マークが物心付いてからは二人して、拙いながらも母の真似事をするかの様に策を練ってみた事もあった。
しかし、結局その尻尾を捕まえる事は終ぞ果たせぬままで。
『冬祭り』が無くなってしまった未来では、勿論サンタクロースもまた消えてしまったのだった……。
だからこそ、未来から過去へとやって来た時のルキナにとってのサンタクロースは……。
もう還る事の出来ないあの日々の、残響の様なモノであったのだ。
しかし、今のルキナにとってのサンタクロースは。
小さな子供達が無邪気にサンタクロースに思いを馳せる事が出来る様な世界を、未来を、この手で守れたのだと言うその象徴でもあった。
……その正体を掴めず終いであるのが、少しばかり心残りではあるけれど。
そんなもう叶わぬかつての想いに、少しばかりの感傷を残しつつ。
ルキナはマークと共に王城へと向かうのであった。
◇◇◇◇
「わぁっ!
ルキナさん、見て下さい!
街中が物凄く賑やかですよ。
僕、こんなの初めて見ました!」
そう言いながら、マークは興奮した様に辺りを見回した。
そんなマークの様子を微笑ましく思いながら、ルキナもまた飾り付けられた街を歩く。
弟であるマークと共に久し振りに帰って来た王都は、何時も以上に活気に満ちていた。
市場が降り積もる雪に負けぬ程の活気に満ち溢れ、街の至る所が飾り付けられているのを見て、ルキナは漸く今は『冬祭り』の時期なのだと思い至る。
ルキナがかつて居た最早遠い未来でも、勿論『冬祭り』と言う風習はあった。
……あったのだが、それもギムレーが復活するまでの事だ。
ギムレーに支配された世界では、人々は日々の暮らしにすら困窮する様になり。
祭り事なんて、とてもではないが催す余力は何処にも無かった。
だから、ルキナにとっての『冬祭り』の記憶は、父と母と共に過ごせた幼いあの日々の最中で途切れている。
それに関して今更ルキナが思う所は無い。
未来は変わり、あの絶望が世界を支配する事は未来永劫無くなった。
邪竜を道連れに自らも消滅した過去の母も、人の心が成した奇跡によって生還している。
次の春には、この時間の弟も生まれるであろう。
世界は、紛う事無く救われたのだ。
本来は此所に居るべきではないルキナの事も大切な娘であると宣言し事実大切にしてくれる両親が居て、未来で共に過ごしていた記憶は喪われてしまったもののたった一人残された大切な弟も居る。
本来は干渉するべきでは無いのかもしれないが、この時間の“ルキナ”も自分を姉の様に慕ってくれている。
置き去りにせざるを得なかった遠い未来を想う事が無い訳では無いのだけれど。
それでも、ルキナは今この時間を生きているのであった。
ふと、行き交う人々の中に、仲の良さそうな親子の姿を見付ける。
それは、母親に手を繋がれ父親に見守られながら幼子が嬉しそうに歩いている、何て事はない光景で。
しかし、その幼子の手に抱えられた愛らしい人形が目についた。
赤い服を纏い帽子を被り、そして優しそうな目をしたその人形は。
冬至の夜に子供達のもとを訪れると言う、サンタクロースを模したモノである。
親子はルキナの視線に気付く事無くそのまま通り過ぎて行った。
サンタクロース……、か。
ルキナはそう心の内で呟く。
その名前は、最早ルキナにとっては遠く懐かしく……そして何処か苦い。
幼いあの日々で、ルキナはその存在を確かに信じていたし、冬祭りが来る度にサンタクロースからの贈り物を心待ちにしていた。
贈り物を届けにやって来た所に出会してみたいと思い、夜更かししてみようとした事もあった。
……まあ、その時は睡魔に呆気なく負けて失敗してしまったけれども。
マークが物心付いてからは二人して、拙いながらも母の真似事をするかの様に策を練ってみた事もあった。
しかし、結局その尻尾を捕まえる事は終ぞ果たせぬままで。
『冬祭り』が無くなってしまった未来では、勿論サンタクロースもまた消えてしまったのだった……。
だからこそ、未来から過去へとやって来た時のルキナにとってのサンタクロースは……。
もう還る事の出来ないあの日々の、残響の様なモノであったのだ。
しかし、今のルキナにとってのサンタクロースは。
小さな子供達が無邪気にサンタクロースに思いを馳せる事が出来る様な世界を、未来を、この手で守れたのだと言うその象徴でもあった。
……その正体を掴めず終いであるのが、少しばかり心残りではあるけれど。
そんなもう叶わぬかつての想いに、少しばかりの感傷を残しつつ。
ルキナはマークと共に王城へと向かうのであった。
◇◇◇◇