春を告げる
◇◇◇◇◇
新節祭の宴はとても豪勢なモノで、クロムとルフレは久方ぶりに会えたフェリアの仲間達との歓談を楽しんだり、ルキナとマークと共に親子の時間を過ごしたりもしていた。
が、祝いだと称してバジーリオが次々に酒樽を運び込んできた辺りで、比較的穏やかだった賑やかさは最早喧騒と表現するべきモノへと代わり、呑めや歌えやの大宴会へと変貌してしまって。
終いには、バジーリオとフラヴィアに乗せられて酒飲み勝負を挑む事になりかけたルフレを止めたりする羽目になった。
ルフレは酒に非常に強く、酔っても微酔い止まりで酔い潰される事など殆ど無いのだが……。
一定量を超えると、まあ、その、色々と積極的になるのだ。
そんな妻の姿を余人の目がある所で晒す訳にはいかず、クロムは酒豪どもの饗宴からは早々に引き揚げて客室へと退出したのであった。
そんな宴から一夜が明けて。
昨日の約束通りに、クロムとルフレはルキナとマークを連れてフェリアの街へと繰り出した。
ルフレとマークは勿論の事ながら、ルキナも新節祭一色に染まったフェリアの街並みを何処かはしゃぐ様に見て回っていて。
三人で楽しそうに屋台を見て回る姿を、クロムは見守りながら歩いていた。
「母さん、見て見て!
新節祭の時限定のお菓子だって!」
「へー、このお祭り限定のお菓子なんてあるのね。
綺麗だし、とても美味しそうね……。
折角だからガイアにお土産として買っておいてあげようかな?」
「きっとガイアさんも喜んで下さいますね!
あっ、お母様、あっちはこの時期だけの特別な飾りだそうですよ!
あれを新節祭の間飾っておくと、その一年が幸せに過ごせるらしいです」
わいわいと賑やかしく三人はあれを見て!これを見て!と屋台を練り歩いていく。
その姿は、外見的な年齢差が然程無い為に親子と言うよりは仲の良い姉弟の様に傍目からは見えているのであろう。
が、何にせよ、見るからに家族仲が良さげなルフレ達の姿に、屋台の主人達も皆微笑ましくその姿を見守っていた。
ふと、装飾品の類いを取り扱っている屋台がクロムの目に入った。
そして、本当に何と無くだが飾ってある装飾品の一つに目を留めてそれを手に取る。
「おや、福寿草のペンダントに興味があるのかい?」
クロムが手にした装飾品を見て、店番をしていた老婆が声を掛けてくる。
「福寿草?」
「福寿草は春を告げる花さ。
丁度新節祭の頃から咲き始めるから、縁起物として春節祭でも飾られたりする。
ほら、色んな所で福寿草の鉢植えがあっただろう?」
言われてみれば、この黄色い花を街の色々な所で見掛けた気がする。
縁起物だから、こうしてその意匠の装飾品が新節祭で売られているのだろう。
「福寿草にはね、『永久の幸福』や『幸福を招く』や『祝福』や『希望』と言う花言葉があってね。
贈り物としても縁起が良いってされているのさ。
冬の厳しい寒さを耐え、雪解けの始まりと共に雪の中からその黄色い花を咲かせてくれるからねぇ……。
このフェリアでは特におめでたい花って扱いなんだよ。
特にほら、そのペンダントをよく見ると、福寿草以外にももう一つ意匠が施されているだろう?」
そう言われてよく見てみると、黄色い花の意匠の他に、何やら赤い玉の様な粒の様な何かがある。
「そいつは南天って言う花の実さ。
丁度この時期に実を結ぶから、福寿草と並んで縁起が良いモノとされているんだ。
こっちの花言葉は『私の愛は増すばかり』、『幸せ』、『良い家庭』って所だねぇ……。
『難を転じて福と成す』って意味もあるんだ。
どうだい? 家族や恋人に贈ってやると喜ばれると思うよ?」
老婆に上手く乗せられた気もするが、クロムはルフレへの贈り物としてそれを購入する。
ルフレが苦手とする程の派手さや華美さは無い為、きっと気に入ってくれるであろう。
一通り祭りを見て回った後にでも渡そうと、そう思ってクロムはペンダントを懐にしまったのであった。
◇◇◇◇
新節祭の宴はとても豪勢なモノで、クロムとルフレは久方ぶりに会えたフェリアの仲間達との歓談を楽しんだり、ルキナとマークと共に親子の時間を過ごしたりもしていた。
が、祝いだと称してバジーリオが次々に酒樽を運び込んできた辺りで、比較的穏やかだった賑やかさは最早喧騒と表現するべきモノへと代わり、呑めや歌えやの大宴会へと変貌してしまって。
終いには、バジーリオとフラヴィアに乗せられて酒飲み勝負を挑む事になりかけたルフレを止めたりする羽目になった。
ルフレは酒に非常に強く、酔っても微酔い止まりで酔い潰される事など殆ど無いのだが……。
一定量を超えると、まあ、その、色々と積極的になるのだ。
そんな妻の姿を余人の目がある所で晒す訳にはいかず、クロムは酒豪どもの饗宴からは早々に引き揚げて客室へと退出したのであった。
そんな宴から一夜が明けて。
昨日の約束通りに、クロムとルフレはルキナとマークを連れてフェリアの街へと繰り出した。
ルフレとマークは勿論の事ながら、ルキナも新節祭一色に染まったフェリアの街並みを何処かはしゃぐ様に見て回っていて。
三人で楽しそうに屋台を見て回る姿を、クロムは見守りながら歩いていた。
「母さん、見て見て!
新節祭の時限定のお菓子だって!」
「へー、このお祭り限定のお菓子なんてあるのね。
綺麗だし、とても美味しそうね……。
折角だからガイアにお土産として買っておいてあげようかな?」
「きっとガイアさんも喜んで下さいますね!
あっ、お母様、あっちはこの時期だけの特別な飾りだそうですよ!
あれを新節祭の間飾っておくと、その一年が幸せに過ごせるらしいです」
わいわいと賑やかしく三人はあれを見て!これを見て!と屋台を練り歩いていく。
その姿は、外見的な年齢差が然程無い為に親子と言うよりは仲の良い姉弟の様に傍目からは見えているのであろう。
が、何にせよ、見るからに家族仲が良さげなルフレ達の姿に、屋台の主人達も皆微笑ましくその姿を見守っていた。
ふと、装飾品の類いを取り扱っている屋台がクロムの目に入った。
そして、本当に何と無くだが飾ってある装飾品の一つに目を留めてそれを手に取る。
「おや、福寿草のペンダントに興味があるのかい?」
クロムが手にした装飾品を見て、店番をしていた老婆が声を掛けてくる。
「福寿草?」
「福寿草は春を告げる花さ。
丁度新節祭の頃から咲き始めるから、縁起物として春節祭でも飾られたりする。
ほら、色んな所で福寿草の鉢植えがあっただろう?」
言われてみれば、この黄色い花を街の色々な所で見掛けた気がする。
縁起物だから、こうしてその意匠の装飾品が新節祭で売られているのだろう。
「福寿草にはね、『永久の幸福』や『幸福を招く』や『祝福』や『希望』と言う花言葉があってね。
贈り物としても縁起が良いってされているのさ。
冬の厳しい寒さを耐え、雪解けの始まりと共に雪の中からその黄色い花を咲かせてくれるからねぇ……。
このフェリアでは特におめでたい花って扱いなんだよ。
特にほら、そのペンダントをよく見ると、福寿草以外にももう一つ意匠が施されているだろう?」
そう言われてよく見てみると、黄色い花の意匠の他に、何やら赤い玉の様な粒の様な何かがある。
「そいつは南天って言う花の実さ。
丁度この時期に実を結ぶから、福寿草と並んで縁起が良いモノとされているんだ。
こっちの花言葉は『私の愛は増すばかり』、『幸せ』、『良い家庭』って所だねぇ……。
『難を転じて福と成す』って意味もあるんだ。
どうだい? 家族や恋人に贈ってやると喜ばれると思うよ?」
老婆に上手く乗せられた気もするが、クロムはルフレへの贈り物としてそれを購入する。
ルフレが苦手とする程の派手さや華美さは無い為、きっと気に入ってくれるであろう。
一通り祭りを見て回った後にでも渡そうと、そう思ってクロムはペンダントを懐にしまったのであった。
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