流れ行く日々
◆◆◆◆◆
【2011/04/21】
女子が入部した事で多少は戸惑っていた一条以外のバスケ部員達も、一緒に練習する内に次第にどうでもよくなってきたのか、チラチラとこちらを窺う視線は部活終了時には殆ど無くなっていた。
一条と共に練習メニューやポジションについての話をしながら後片付けをしていると、サッカー部のユニフォームを身に付けた男子が入ってくる。
……一条の親友の長瀬、だそうだ。
慢性的に(活動に参加している)部員が少ないバスケ部に、度々出没しては練習を手伝ってくれているらしい。
一条とは所謂「腐れ縁」に近い間柄らしく、二人の間にはそういった気安さがあった。
その後、二人に連れられて商店街の愛屋へと足を運んだ。
夕飯があるのであまりがっつく訳にはいかないから、二人が回鍋肉定食を頼むのを尻目に、自分は唐揚げ単品を注文する。
モギュモギュと程よい柔らかさとカラッとした衣が絶妙なバランスである唐揚げを食べながら、一条と長瀬が他愛もない様な雑談を交わしつつ時折此方に振ってくる話題に頷いたり言葉を返したりする。何とも気安い雰囲気は居心地が良い。
まだ転校して来たばかりの此方を気遣ってか、二人が話してくれるものは当たり障りの無い話が中心だ。
そんな中、話のネタはここ最近の【事件】についてに移る。
飼い猫が迷子になった位でちょっとした話題になる程の平和を絵に描いた様なこの稲羽の町では、殺人事件だなんてまさに青天の霹靂の様な出来事なのだそうだ。
結局、小西先輩の事件以降これといった目新しい情報も無く、テレビのニュース番組でも何時までも同じ様な内容しか流さないし、そもそもの話取り上げられる事自体が少なくなってきている。
その為か、今一つ実感が沸かないと長瀬は溢した。
都会から来たのなら事件の一つや二つ巻き込まれた事は有るのではと訊ねられたが、別にそんな事は無い。
少なくとも、全国規模で報道される様な出来事には巻き込まれた事は無かった筈だ。
そう返すと、長瀬は若干残念そうに「そうか」と答える。
ご期待に沿えなかった様だが、そこはまぁ仕方の無い事だ。
その後も部活の事やら学校生活の事を中心に色々と話し、そうこうする内に夕食の支度をし始める時間が近付いたので、愛屋の会計を終えた所でその場で解散となった。
◆◆◆◆◆
【2011/04/22】
放課後、里中さんに誘われて鮫川土手までやってきた。
どうやら、里中さんは足技に磨きをかける為に修行がしたいらしい。
まぁ、身体を動かす事は良い事だからそれは別に構わない。
里中さんなりに、シャドウと対峙して思う所があったのだろう。
一通り運動した後は、近くのベンチに座って二人してお喋りに興じた。
思えば、稲羽に来てからというもの事件の事ばかりで、こう言ったのんびりとした時間を里中さんと過ごすのは実は初めてな気がする。
里中さんは無類の肉好きである様で、稲羽でのオススメのスポットは商店街の愛屋で、そしてイチオシのメニューは雨の日限定のスペシャルメニュー『スペシャル肉丼』なのだそうだ。
ただでさえ大盛りな肉丼を遥かに凌駕する(推定三倍以上)そのメニューはこれまでに様々な猛者達を沈めてきたらしく、稲羽屈指のチャレンジメニューとして不動の地位を築いているらしい。
しかし里中さんは溢れる肉への愛故か、このメニューを完食出来るのだそうだ。何それ凄い。
「鳴上さんは、何か好きな肉とかある?」
「肉限定?
えっとうーん……割りと何でも食べられるし、あんまりそう言うのは考えた事無いかも。
あー……まぁ、カレーに入れるならビーフかチキンかなって思ってるから……、牛肉か鳥肉が好き、なのかな?
いやでも……料理によって合う肉って違うしなぁ。
うん、一般的な肉なら何でも好きかも」
結論的には旨かったら何でも良し、だ。
高い肉は勿論の事、安い肉だって調理を工夫すれば美味しくなる。
「あれ、もしかして鳴上さんって料理とかする感じの人?」
「まあね」
腕前の程は自分ではあまりよくは分からないが、そこそこ以上にはあるだろう。
忙しい両親に代わって見よう見真似で始めたのが最初ではあったが、直ぐ様のめり込む様に料理の腕前を上げる事に没頭した。
美味しく作れれば自分も満足出来るのだし、両親が「美味しいよ」と笑ってくれるのが何よりも嬉しかったからだ。
「あたし、家ではそういうの全然やってないからさ。
何か……料理とか出来る人って、純粋に凄いなーって思う」
そうだろうか?
その辺りの感覚はよくは分からないが……、賛辞は素直に受け取っておく事にした。
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【2011/04/21】
女子が入部した事で多少は戸惑っていた一条以外のバスケ部員達も、一緒に練習する内に次第にどうでもよくなってきたのか、チラチラとこちらを窺う視線は部活終了時には殆ど無くなっていた。
一条と共に練習メニューやポジションについての話をしながら後片付けをしていると、サッカー部のユニフォームを身に付けた男子が入ってくる。
……一条の親友の長瀬、だそうだ。
慢性的に(活動に参加している)部員が少ないバスケ部に、度々出没しては練習を手伝ってくれているらしい。
一条とは所謂「腐れ縁」に近い間柄らしく、二人の間にはそういった気安さがあった。
その後、二人に連れられて商店街の愛屋へと足を運んだ。
夕飯があるのであまりがっつく訳にはいかないから、二人が回鍋肉定食を頼むのを尻目に、自分は唐揚げ単品を注文する。
モギュモギュと程よい柔らかさとカラッとした衣が絶妙なバランスである唐揚げを食べながら、一条と長瀬が他愛もない様な雑談を交わしつつ時折此方に振ってくる話題に頷いたり言葉を返したりする。何とも気安い雰囲気は居心地が良い。
まだ転校して来たばかりの此方を気遣ってか、二人が話してくれるものは当たり障りの無い話が中心だ。
そんな中、話のネタはここ最近の【事件】についてに移る。
飼い猫が迷子になった位でちょっとした話題になる程の平和を絵に描いた様なこの稲羽の町では、殺人事件だなんてまさに青天の霹靂の様な出来事なのだそうだ。
結局、小西先輩の事件以降これといった目新しい情報も無く、テレビのニュース番組でも何時までも同じ様な内容しか流さないし、そもそもの話取り上げられる事自体が少なくなってきている。
その為か、今一つ実感が沸かないと長瀬は溢した。
都会から来たのなら事件の一つや二つ巻き込まれた事は有るのではと訊ねられたが、別にそんな事は無い。
少なくとも、全国規模で報道される様な出来事には巻き込まれた事は無かった筈だ。
そう返すと、長瀬は若干残念そうに「そうか」と答える。
ご期待に沿えなかった様だが、そこはまぁ仕方の無い事だ。
その後も部活の事やら学校生活の事を中心に色々と話し、そうこうする内に夕食の支度をし始める時間が近付いたので、愛屋の会計を終えた所でその場で解散となった。
◆◆◆◆◆
【2011/04/22】
放課後、里中さんに誘われて鮫川土手までやってきた。
どうやら、里中さんは足技に磨きをかける為に修行がしたいらしい。
まぁ、身体を動かす事は良い事だからそれは別に構わない。
里中さんなりに、シャドウと対峙して思う所があったのだろう。
一通り運動した後は、近くのベンチに座って二人してお喋りに興じた。
思えば、稲羽に来てからというもの事件の事ばかりで、こう言ったのんびりとした時間を里中さんと過ごすのは実は初めてな気がする。
里中さんは無類の肉好きである様で、稲羽でのオススメのスポットは商店街の愛屋で、そしてイチオシのメニューは雨の日限定のスペシャルメニュー『スペシャル肉丼』なのだそうだ。
ただでさえ大盛りな肉丼を遥かに凌駕する(推定三倍以上)そのメニューはこれまでに様々な猛者達を沈めてきたらしく、稲羽屈指のチャレンジメニューとして不動の地位を築いているらしい。
しかし里中さんは溢れる肉への愛故か、このメニューを完食出来るのだそうだ。何それ凄い。
「鳴上さんは、何か好きな肉とかある?」
「肉限定?
えっとうーん……割りと何でも食べられるし、あんまりそう言うのは考えた事無いかも。
あー……まぁ、カレーに入れるならビーフかチキンかなって思ってるから……、牛肉か鳥肉が好き、なのかな?
いやでも……料理によって合う肉って違うしなぁ。
うん、一般的な肉なら何でも好きかも」
結論的には旨かったら何でも良し、だ。
高い肉は勿論の事、安い肉だって調理を工夫すれば美味しくなる。
「あれ、もしかして鳴上さんって料理とかする感じの人?」
「まあね」
腕前の程は自分ではあまりよくは分からないが、そこそこ以上にはあるだろう。
忙しい両親に代わって見よう見真似で始めたのが最初ではあったが、直ぐ様のめり込む様に料理の腕前を上げる事に没頭した。
美味しく作れれば自分も満足出来るのだし、両親が「美味しいよ」と笑ってくれるのが何よりも嬉しかったからだ。
「あたし、家ではそういうの全然やってないからさ。
何か……料理とか出来る人って、純粋に凄いなーって思う」
そうだろうか?
その辺りの感覚はよくは分からないが……、賛辞は素直に受け取っておく事にした。
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