流れ行く日々
◆◆◆◆◆
【2011/04/20】
今日の放課後は、花村に誘われて沖奈市まで遊びに行くにした。
学校から沖奈市に行くには商店街でバスに乗るのが早い。
二人でバスを待っていると、近くに居た主婦達がこちらをチラチラ見やりながらひそひそと話していた。
が、それなりに大きな声で話しているから、隠すつもりはないのだろう。……嫌らしい事だ。
ジュネス進出の煽りを受け潰れた店が多いのは、シャッターが閉まった店舗だらけの商店街を見れば直ぐに分かる。
しかし、それと花村とに何の関係があるというのだろう。
単純に行き場の無い憂さ晴らしの発散先として花村をスケープゴートにしてるだけの様にしか見えなかった。
花村は「有名人でゴメンな」などと言うが……。
花村に何の非もないのにそれでも責めるのは道理が通らない。
しかし、当人である花村が耐えているというのに、外野が勝手に反論して話を大きくする訳にはいかないだろう。
釈然としないものを抱えながらも、バスに乗って沖奈へと向かった。
◇◇◇◇◇
閑散とした八十稲羽駅よりも遥かに、地方都市の中心駅である沖奈駅は開発が進んでいる。
駅に隣接する様に建てられたショッピングモールには人の波が絶えず出入りし、それの反対隣にある映画館では上映中の映画のポスターがデカデカと掲げられている。
娯楽に乏しい八十稲羽とは異なり、こちらにはそれなりに娯楽施設が揃っている。
その為か、道行く人の波の中に時折八十神高校の制服や近隣の学校の制服が紛れている。
遊ぶと言ってもどう遊ぶのかはあまり考えていなかった。
が、まあ良い。
花村の様子を見ていると、商店街でバスを待っていた時よりも肩から力が抜けているみたいだ。
商店街……というよりも八十稲羽自体が、花村にとってあまり居心地の良い場所では無いのだろう。
まだ出会って一月も経っていない付き合いだが、稲羽の人々が花村に向ける感情の多くに良くないものが混じっているのは容易に察する事が出来た。
無論、全員が全員そうだという訳ではない。
里中さんや天城さん、それに一条や長瀬などは、別段花村に対して悪意を向けたりはしてないし、そもそも花村などどうでも良いという態度の人だって少なくはない。
が、商店街に関係する人々からは謂れの無い悪意を向けられている事が多い。
「ジュネスが来たから」「ジュネスのせいで」。
そんな言葉を幾度聞いた事か。
そしてそれを聞く度に、何度反論してやりたい衝動にかられた事か。
……いや、ジュネスへ不満を持つのはこの際良いだろう。
商店街の客足がジュネスに取られているのは、紛れもない事実である。
しかし、それを花村にぶつける事は全く以て道理に反する行為だ。
しかもそれに託つけて、花村がどんな人間なのかすら知りもしないクセに一方的に花村の人格までも貶める様な発言をする事は、度し難い蛮行である。
だが、花村自身が自身を取り巻く様々なものを鑑みた上で、それを黙して耐える事を選ぶのならば、ここで表立ってそれらを叩き潰しにいく訳にもいかない。
しかし耐え忍び続けてきた結果が、花村の『シャドウ』を産み出してしまったのであろう事は間違いの無い事で。
幾ら花村が『シャドウ』を受け入れた所で、その原因となってしまっている周囲の環境に変化が無いのなら、何れまた何処かで無理が出てしまうのではないだろうか……。
何か花村にしてやれる事は無いのだろうか……と考えていると、花村が携帯の画面を見て顔を顰めていた。
どうやら、悪質な迷惑メールが届いたらしい。
何度拒否しても、ドメインを変えてしつこく送られて来るそうだ。
最早ここまで来ると、ただの悪戯などと片付けられない。
「こういうのはウンザリするけどな……。
でも、メルアド変えるのも……」
「何か問題が?」
「稲羽に引っ越す前から、メルアド変えてないんだ。
一応、誰かからメールあるかも知んないし、さ。
いや、ほら……『メアド変えましたって』態々連絡すんのもウザいじゃん。
連絡する気ねーよ!って場合もあるし……」
「……」
「まー……正直、前のトコのヤツらとは何話してたんかも覚えてないし。『友だち』……ってのも多分何か違うんだろうけどな」
花村の目は何処と無く寂しそうだ。
しかし、一度俯いて再び顔を上げた時には、鬱屈した何かは花村の表情からは消え去っていた。
「ま、俺には稲羽でやるべき事があるから……。
これからも頑張ろうぜ。な、相棒!」
「『相棒』……?」
あまり、というか全くと言って良い程聞き慣れない言葉に、思わず聞き返してしまう。
いや、意味は分かるのだが。
しかし何故に、“相棒”?
「おうよ! 俺はお前の相棒だ。そうだろ?」
確かに、そう言われればそうなのかもしれない。
一緒に戦う仲間で、事件解決を誓った仲でもある。
共に過ごした時間も……あちらの世界の事を考えると決して長くはないが濃密なもので。
何かと花村に力になって貰ってばかりでいる気はするが、一応こちらも花村の力になれているだろうとは思いたい。
成程確かに、『相棒』と呼ぶのに何の問題も無い関係だ。
……聞き慣れないそれは、少し擽ったくはあるが。
「ああ、こちらこそ。
よろしく、……『相棒』」
その後沖奈駅近辺で遊んでから、少し早めに稲羽へと帰った。
しかし、隣の市に行くにも一苦労するこの交通の便の悪さは如何ともし難い。
せめて何かバイクとか足になるものが、あれば良いのだろうけれど……。
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【2011/04/20】
今日の放課後は、花村に誘われて沖奈市まで遊びに行くにした。
学校から沖奈市に行くには商店街でバスに乗るのが早い。
二人でバスを待っていると、近くに居た主婦達がこちらをチラチラ見やりながらひそひそと話していた。
が、それなりに大きな声で話しているから、隠すつもりはないのだろう。……嫌らしい事だ。
ジュネス進出の煽りを受け潰れた店が多いのは、シャッターが閉まった店舗だらけの商店街を見れば直ぐに分かる。
しかし、それと花村とに何の関係があるというのだろう。
単純に行き場の無い憂さ晴らしの発散先として花村をスケープゴートにしてるだけの様にしか見えなかった。
花村は「有名人でゴメンな」などと言うが……。
花村に何の非もないのにそれでも責めるのは道理が通らない。
しかし、当人である花村が耐えているというのに、外野が勝手に反論して話を大きくする訳にはいかないだろう。
釈然としないものを抱えながらも、バスに乗って沖奈へと向かった。
◇◇◇◇◇
閑散とした八十稲羽駅よりも遥かに、地方都市の中心駅である沖奈駅は開発が進んでいる。
駅に隣接する様に建てられたショッピングモールには人の波が絶えず出入りし、それの反対隣にある映画館では上映中の映画のポスターがデカデカと掲げられている。
娯楽に乏しい八十稲羽とは異なり、こちらにはそれなりに娯楽施設が揃っている。
その為か、道行く人の波の中に時折八十神高校の制服や近隣の学校の制服が紛れている。
遊ぶと言ってもどう遊ぶのかはあまり考えていなかった。
が、まあ良い。
花村の様子を見ていると、商店街でバスを待っていた時よりも肩から力が抜けているみたいだ。
商店街……というよりも八十稲羽自体が、花村にとってあまり居心地の良い場所では無いのだろう。
まだ出会って一月も経っていない付き合いだが、稲羽の人々が花村に向ける感情の多くに良くないものが混じっているのは容易に察する事が出来た。
無論、全員が全員そうだという訳ではない。
里中さんや天城さん、それに一条や長瀬などは、別段花村に対して悪意を向けたりはしてないし、そもそも花村などどうでも良いという態度の人だって少なくはない。
が、商店街に関係する人々からは謂れの無い悪意を向けられている事が多い。
「ジュネスが来たから」「ジュネスのせいで」。
そんな言葉を幾度聞いた事か。
そしてそれを聞く度に、何度反論してやりたい衝動にかられた事か。
……いや、ジュネスへ不満を持つのはこの際良いだろう。
商店街の客足がジュネスに取られているのは、紛れもない事実である。
しかし、それを花村にぶつける事は全く以て道理に反する行為だ。
しかもそれに託つけて、花村がどんな人間なのかすら知りもしないクセに一方的に花村の人格までも貶める様な発言をする事は、度し難い蛮行である。
だが、花村自身が自身を取り巻く様々なものを鑑みた上で、それを黙して耐える事を選ぶのならば、ここで表立ってそれらを叩き潰しにいく訳にもいかない。
しかし耐え忍び続けてきた結果が、花村の『シャドウ』を産み出してしまったのであろう事は間違いの無い事で。
幾ら花村が『シャドウ』を受け入れた所で、その原因となってしまっている周囲の環境に変化が無いのなら、何れまた何処かで無理が出てしまうのではないだろうか……。
何か花村にしてやれる事は無いのだろうか……と考えていると、花村が携帯の画面を見て顔を顰めていた。
どうやら、悪質な迷惑メールが届いたらしい。
何度拒否しても、ドメインを変えてしつこく送られて来るそうだ。
最早ここまで来ると、ただの悪戯などと片付けられない。
「こういうのはウンザリするけどな……。
でも、メルアド変えるのも……」
「何か問題が?」
「稲羽に引っ越す前から、メルアド変えてないんだ。
一応、誰かからメールあるかも知んないし、さ。
いや、ほら……『メアド変えましたって』態々連絡すんのもウザいじゃん。
連絡する気ねーよ!って場合もあるし……」
「……」
「まー……正直、前のトコのヤツらとは何話してたんかも覚えてないし。『友だち』……ってのも多分何か違うんだろうけどな」
花村の目は何処と無く寂しそうだ。
しかし、一度俯いて再び顔を上げた時には、鬱屈した何かは花村の表情からは消え去っていた。
「ま、俺には稲羽でやるべき事があるから……。
これからも頑張ろうぜ。な、相棒!」
「『相棒』……?」
あまり、というか全くと言って良い程聞き慣れない言葉に、思わず聞き返してしまう。
いや、意味は分かるのだが。
しかし何故に、“相棒”?
「おうよ! 俺はお前の相棒だ。そうだろ?」
確かに、そう言われればそうなのかもしれない。
一緒に戦う仲間で、事件解決を誓った仲でもある。
共に過ごした時間も……あちらの世界の事を考えると決して長くはないが濃密なもので。
何かと花村に力になって貰ってばかりでいる気はするが、一応こちらも花村の力になれているだろうとは思いたい。
成程確かに、『相棒』と呼ぶのに何の問題も無い関係だ。
……聞き慣れないそれは、少し擽ったくはあるが。
「ああ、こちらこそ。
よろしく、……『相棒』」
その後沖奈駅近辺で遊んでから、少し早めに稲羽へと帰った。
しかし、隣の市に行くにも一苦労するこの交通の便の悪さは如何ともし難い。
せめて何かバイクとか足になるものが、あれば良いのだろうけれど……。
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