流れ行く日々
◆◆◆◆◆
彼方の世界から帰って直ぐに、天城さんの実家と警察に連絡を入れてから、天城さんを病院まで連れていった。
思っていたよりも天城さんには疲労が溜まっていた様で、彼方の世界から帰還するなり、安堵からかは知らないが一気に体力が尽きてしまったのだ。
それに若干ながらも衰弱もしていたから致し方ない。
因みに、『天城さんがいなくなって心配していた里中さんが、運良く河原の近くで天城さんが倒れているのを発見した』という事にしている。
態々「河原」としたのは、ジュネス近辺で見付かった事にすると後々面倒だったからだ。
要らぬ火種や誤解は撒く前に消しておくべきである。
病院に連れていく前に一応確認をした所、天城さんは誰かに呼ばれた様な気がするものの……『誰』にテレビの中に放り込まれたのかまでは覚えていないそうだ。
突然の異常事態に混乱していた、というのもあるだろうし、ハッキリと顔を見る前に気を失わせられたのかもしれない。
ただ、天城さんを放り込んだ『誰か』がいる、という事はハッキリと分かった。
この『誰か』が、山野アナや小西先輩もテレビに放り込んだ【犯人】なのかはまだ確証は得られていないが、その可能性は大いに有り得る。
しかし、その『誰か』は何を目的として天城さんを彼方の世界に放り込んだのだろう。
山野アナ達を放り込んだ【犯人】と、天城さんを放り込んだ『誰か』が同一人物なのだとすれば、テレビに人を放り込んだら(その詳しい仕組みは分かっていないのだとしても)少なくとも死ぬ可能性がある事は分かっている筈だ。
ならば、「殺す」事を目的として天城さんを放り込んだのだろうか?
それを目的としていたとしても、何故?
分かりやすい理由としては、『怨恨』だろうけれども。
だが、天城さんに対してそこまでの『怨恨』を持つ人が果たしているのだろうか。
勿論、人は誰しも意図しない内に誰かを傷付けているモノであり、本人は知らぬ内に誰かから怨みを買う事など特には珍しくは無いのだろう。
天城さんだって、本人にその気が無くても他人を傷付けた事など幾らでもあるだろうし。
その内の一つが、天城さんに殺意を抱く程のものになっている可能性だって無くはない。
どうにも天城さんは異性の目を惹き易いので、そういった点でも比較的恨みは買いやすいかもしれない。
大抵そんなものは逆怨みだし怨まれている本人からしたら理不尽なものではあるのだけど、怨むのなんて理屈がある訳では無い。
だがしかし、天城さんを怨恨からテレビに放り込んだとして、その『誰か』が小西先輩や山野アナを襲った理由は何だろう。
まさか、三人ともに恨みがあったのだろうか?
それは少し考え難い。
そもそもの話、三人全員に一定以上の接点がありそうな人などそうは居ないだろう。
小西先輩と天城さんなら、同じ高校に通ってるのだし、歳は一つしか変わらないし、同じ地域に住んでいるのだから二人共に接点がある人はかなり居るだろう。
だが、最初の被害者である山野アナはまず年齢がかなり違う。
この段階で他二人とはかなり関係性が薄れる。
そんな中で、三人共に深い怨恨を抱く様な人物など果たして存在するのだろうか……?
いやまぁ、世の中には『誰でも良かった』的な通り魔な人も居るので、偶々目についただけという可能性だって無きにしもあらずではあるが。
……現段階では『誰か』の意図は掴めない。
もう少し、考える材料を集めなくては。
この狭いコミュニティの中で起きた事だ、恐らくそう遠くはない内に天城さんをあの世界に放り込んだ『誰か』の耳にも、天城さんが無事である事は届いてしまうだろう。
取り敢えず、天城さんの命を狙った犯行であった可能性を考慮して、『誰か』が再び天城さんを狙う可能性もあるので、不審な人物が天城さんに接触しない様に警戒を怠る訳にはいかないだろう。
◇◇◇◇◇
夕飯の支度をしていると、叔父さんからメールが届いた。
どうやら今夜は早く帰って来れるらしい。
それと、部下の刑事を一人連れてくる様だ。
ならば今夜は少し多目に作っておこう。
叔父さんが連れてきた部下の刑事は『足立透』と言うらしい。
この春から叔父さんの部下となっているそうだ。
そう言えば、山野アナの事件の時に、叔父さんと一緒に現場に来ていた気がする。
「そう言えば、天城さん見付かって良かったね。
まぁでも、まだ分からない部分が多いんだけど……」
ヘラッとした顔でそう言った足立さんに、首を傾げる。
「それは、どういう事ですか?」
「いやね、天城さん……連絡付かなくなってた間の事何も覚えてないって言うし……。
なーんか怪しいって言うか……裏がありそうって言うか……」
そう足立さんが言った瞬間、叔父さんから拳骨が飛んだ。
「馬鹿野郎。んな事言うな」
「す、すいません……」
頭を押さえる足立さんは若干涙目だ。
相当良い音がしたし、結構痛かったに違いない。
だがまぁ……守秘義務を軽々しく破ろうとしたのだから、致し方無い制裁ではあるのかもしれない。
「あー……ま、全部こいつの勝手な想像だからな。
気にしなくていいぞ、悠希」
はぁ、と溜め息をついて叔父さんは夕飯を食べ始める。
足立さんも交えた夕飯は何時もよりも賑やかで、菜々子ちゃんも嬉しそうだった。
まぁ、菜々子ちゃんの場合は『叔父さんと一緒に食事が出来る』というのが一番嬉しかったのだろうが。
こうして穏やかな時間を過ごしていると『日常』に戻って来た事を実感するし、同時に天城さんを無事に救出出来た事も実感する。
今夜は、何時も以上に良い気分で眠る事が出来るだろう。
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彼方の世界から帰って直ぐに、天城さんの実家と警察に連絡を入れてから、天城さんを病院まで連れていった。
思っていたよりも天城さんには疲労が溜まっていた様で、彼方の世界から帰還するなり、安堵からかは知らないが一気に体力が尽きてしまったのだ。
それに若干ながらも衰弱もしていたから致し方ない。
因みに、『天城さんがいなくなって心配していた里中さんが、運良く河原の近くで天城さんが倒れているのを発見した』という事にしている。
態々「河原」としたのは、ジュネス近辺で見付かった事にすると後々面倒だったからだ。
要らぬ火種や誤解は撒く前に消しておくべきである。
病院に連れていく前に一応確認をした所、天城さんは誰かに呼ばれた様な気がするものの……『誰』にテレビの中に放り込まれたのかまでは覚えていないそうだ。
突然の異常事態に混乱していた、というのもあるだろうし、ハッキリと顔を見る前に気を失わせられたのかもしれない。
ただ、天城さんを放り込んだ『誰か』がいる、という事はハッキリと分かった。
この『誰か』が、山野アナや小西先輩もテレビに放り込んだ【犯人】なのかはまだ確証は得られていないが、その可能性は大いに有り得る。
しかし、その『誰か』は何を目的として天城さんを彼方の世界に放り込んだのだろう。
山野アナ達を放り込んだ【犯人】と、天城さんを放り込んだ『誰か』が同一人物なのだとすれば、テレビに人を放り込んだら(その詳しい仕組みは分かっていないのだとしても)少なくとも死ぬ可能性がある事は分かっている筈だ。
ならば、「殺す」事を目的として天城さんを放り込んだのだろうか?
それを目的としていたとしても、何故?
分かりやすい理由としては、『怨恨』だろうけれども。
だが、天城さんに対してそこまでの『怨恨』を持つ人が果たしているのだろうか。
勿論、人は誰しも意図しない内に誰かを傷付けているモノであり、本人は知らぬ内に誰かから怨みを買う事など特には珍しくは無いのだろう。
天城さんだって、本人にその気が無くても他人を傷付けた事など幾らでもあるだろうし。
その内の一つが、天城さんに殺意を抱く程のものになっている可能性だって無くはない。
どうにも天城さんは異性の目を惹き易いので、そういった点でも比較的恨みは買いやすいかもしれない。
大抵そんなものは逆怨みだし怨まれている本人からしたら理不尽なものではあるのだけど、怨むのなんて理屈がある訳では無い。
だがしかし、天城さんを怨恨からテレビに放り込んだとして、その『誰か』が小西先輩や山野アナを襲った理由は何だろう。
まさか、三人ともに恨みがあったのだろうか?
それは少し考え難い。
そもそもの話、三人全員に一定以上の接点がありそうな人などそうは居ないだろう。
小西先輩と天城さんなら、同じ高校に通ってるのだし、歳は一つしか変わらないし、同じ地域に住んでいるのだから二人共に接点がある人はかなり居るだろう。
だが、最初の被害者である山野アナはまず年齢がかなり違う。
この段階で他二人とはかなり関係性が薄れる。
そんな中で、三人共に深い怨恨を抱く様な人物など果たして存在するのだろうか……?
いやまぁ、世の中には『誰でも良かった』的な通り魔な人も居るので、偶々目についただけという可能性だって無きにしもあらずではあるが。
……現段階では『誰か』の意図は掴めない。
もう少し、考える材料を集めなくては。
この狭いコミュニティの中で起きた事だ、恐らくそう遠くはない内に天城さんをあの世界に放り込んだ『誰か』の耳にも、天城さんが無事である事は届いてしまうだろう。
取り敢えず、天城さんの命を狙った犯行であった可能性を考慮して、『誰か』が再び天城さんを狙う可能性もあるので、不審な人物が天城さんに接触しない様に警戒を怠る訳にはいかないだろう。
◇◇◇◇◇
夕飯の支度をしていると、叔父さんからメールが届いた。
どうやら今夜は早く帰って来れるらしい。
それと、部下の刑事を一人連れてくる様だ。
ならば今夜は少し多目に作っておこう。
叔父さんが連れてきた部下の刑事は『足立透』と言うらしい。
この春から叔父さんの部下となっているそうだ。
そう言えば、山野アナの事件の時に、叔父さんと一緒に現場に来ていた気がする。
「そう言えば、天城さん見付かって良かったね。
まぁでも、まだ分からない部分が多いんだけど……」
ヘラッとした顔でそう言った足立さんに、首を傾げる。
「それは、どういう事ですか?」
「いやね、天城さん……連絡付かなくなってた間の事何も覚えてないって言うし……。
なーんか怪しいって言うか……裏がありそうって言うか……」
そう足立さんが言った瞬間、叔父さんから拳骨が飛んだ。
「馬鹿野郎。んな事言うな」
「す、すいません……」
頭を押さえる足立さんは若干涙目だ。
相当良い音がしたし、結構痛かったに違いない。
だがまぁ……守秘義務を軽々しく破ろうとしたのだから、致し方無い制裁ではあるのかもしれない。
「あー……ま、全部こいつの勝手な想像だからな。
気にしなくていいぞ、悠希」
はぁ、と溜め息をついて叔父さんは夕飯を食べ始める。
足立さんも交えた夕飯は何時もよりも賑やかで、菜々子ちゃんも嬉しそうだった。
まぁ、菜々子ちゃんの場合は『叔父さんと一緒に食事が出来る』というのが一番嬉しかったのだろうが。
こうして穏やかな時間を過ごしていると『日常』に戻って来た事を実感するし、同時に天城さんを無事に救出出来た事も実感する。
今夜は、何時も以上に良い気分で眠る事が出来るだろう。
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