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Found Me

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 出せるペルソナは出し尽くし、『シャドウ』をあと一歩の所まで追い詰めた。
 だが、あちこちに傷を作りアンテナの至る所に罅を走らせた『シャドウ』は、それでも尚、倒れない。
 ……端的に言えば、仕留められなかったのだ。
 既に己の手札は出し尽くし、補助に回ってくれていた皆も、『シャドウ』からの攻撃により、もう動く事もままならない。


『……しぶとかったけど、もうゼーンブお見通し……。
 ウフフ、解析完了……、じゃあ……いくよォ!!
 かわせるもんなら、やってごらんッ!!』


 光、としか表現しようの無い攻撃が、叩き付けられた。
 攻撃範囲の外に居たクマと久慈川さん以外は、全員がその一撃で吹き飛ばされる。
 ……現在降魔中だった《皇帝》アルカナの『オオクニヌシ』のスキル……《食い縛り》で、自分はギリギリ踏み留まる事が出来たが、花村は、里中さんは、天城さんは、巽くんは、倒れたまま動けない。
 もう、誰も彼も限界なのだ。
 自分とて、クマに逃げろと叫んでやりたくとも、もう、声が出ない。
 口から零れていくのは、掠れた荒い息だけ。
 息が苦しくて、無意識に顎全体で息をしている様な動きになっている。
 ……まるで死戦期呼吸だな、と何処か他人事の様に、ボヤけた思考が頭の片隅を過った。
 せめて皆だけでもここから逃がしてやりたいのに、ペルソナを召喚する程度の力すら、もう自分には残っていない。

『シャドウ』は追撃とばかりに二射目を放とうと力を溜めている。
 己に近付く『死』を、何処か冷めた様に見詰める自分がいた。

 …………あれは万能属性の攻撃だ。
 ……万能属性を防げるペルソナは、少なくとも今の自分が扱えるペルソナの中には無い。
 せめて耐久力の高いペルソナで皆の壁になりたくても、もうペルソナを呼び出す力すらない。
 ……自分一人では、肉壁にすらなれないだろう。
 必死にこの場を凌ぐ方法を探そうと思考が踠く一方で、“どうしようもない事だ”という思いも頭の片隅にチラつく。
 ……出来る手は打ち、己に出来る全てで事を成してきた。
 少なくとも、その一瞬一瞬で己が最善と考えた道を選んできた。
 それだけは、確かに言える。
 ただ、自分の力ではどうする事も出来ない事はこの世には確かにある。
 これがその一つであった、というだけの事なのかもしれない。


 ━━だが、本当にそれで良いのか?


 己の脳裏に、そんな思いが過る。
 その思いに弾かれた様に、僅かに振り返って、床に倒れて動かない花村たちを見た。

 皆、胸は動いているから、息はある。
 だが、それも、『シャドウ』の二射目で止まるだろう。
 この攻撃を止める術が無い以上、皆、ここで、『死ぬ』。


 それを、その“現実”を、実感を伴って“認識”してしまった。


 ………………………………。
 ……いや、だ。
 ……いやだ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……!

 ……こんな所で、皆を死なせたくない!
 こんな風に、仲間を死なせられる訳が無い……!
 そんなの、何があっても、この世の中の誰よりも、この自分が、赦しはしない……!!
『死ぬ』なんてダメだ。
『死なせる』なんて、ダメだ。
 死なせたくない……、死なせない……!
 ……何をしてでも、絶対に。
 仲間を、死なせたりなんかしない!
 だから……!


『死』を……《《自分以外の》》仲間の『死』を認識した瞬間に、思考を支配したのは。
 今まで感じた事も無い程の、《恐怖》とも表現し難い激しい感情だった。
 自らの『死』自体は、実感が無いのじゃないかと自分で自分を疑う程に、冷静に思考していた筈なのに。
 それでも、感情は思考を凌駕し、自らを突き動かす。


 何でも良い。自分はどうなっても良い。
 だから……。
 守る為の、皆を死なせない為の力が、欲しい……!

 そう強く願ったその時。



 ━━……悠希……。



 ……声が、聞こえた。
 花村のものでも、里中さんのものでも、天城さんのものでも、巽くんのものでも、クマのものでも、久慈川さんのものでもない声が……。

 思考がマトモに定まらない中、その声が誰のものなのかは分からない。
 だけれど、それは自分にとってとても大切な声だ。
 それだけは、確かに何処かで感じている。


『シャドウ』から目を反らすまい、と、重い瞼を抉じ開ける様にして、霞む目で必死に前を見た。
 そして、一歩。
『シャドウ』に向かって、痛みだけを訴える身体を剣を支えにしながら、皆を背にしてよろめく様に前へと踏み出す。
 額が切れたのか、血が流れ落ちてきて赤く染まっている様にも見えるボヤけた視界の中に。

 そんな状況でもハッキリと分かる程、青く輝いているカードが目の前に浮かんでいた。


 ━━…………俺たちは、家族だ。
 ━━……忘れるなよ……。


 その力を《《今》》使う事が、どうなる事になるのかは、その青い光を見た時に何と無く分かった。
 …………それでも良い。……それで、良い。
 ……皆を守れるのなら、それで構わない。


 だから、躊躇無くその青く輝くカードを砕いた。






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