虚構の勇者
◆◆◆◆◆
『そのブロックの中に本体が居るよ!
先ずはソイツをそこから引っ張り出さないと、ダメージを与えられないみたい!』
りせが、ブロックで形作られた“ゆうしゃ”を模した鎧──『導かれし勇者ミツオ』を壊さないと、『シャドウ』本体へはダメージを与えられない事を告げる。
「了解! 行っくよー!」
それに頷いて一気に駆け出したトモエと千枝が、腹の部分を狙って同時に飛び蹴りを繰り出した。
2・3個のブロックがそれにより溢れ落ちたが、直ぐ様自動的に元の位置に修復されてしまう。
一気にブロックを崩さなければ、直ぐに再生してしまうのだ。
千枝に反撃するかの様に『導かれし勇者ミツオ』の頭上に【>たたかう】と表示され、『導かれし勇者ミツオ』は何処かカクカクとした動きで手にした剣をクマへと勢いよく振り下ろす。
「させるか! 来い、ギリメカラ!」
悠希は《月》アルカナの『ギリメカラ』を呼び出し、振り下ろされる剣の下へと身を投げ出させた。
すると、甲高い音を立てて剣は弾き返されその衝撃にブロックを幾つか崩壊させながら『導かれし勇者ミツオ』は仰向けに倒れる。
ギリメカラはランダと同じく、物理攻撃を反射させるからだ。
「先輩流石っス!」
その期を逃すかとばかりに、《チャージ》で力を溜めていたタケミカヅチの《ミリオンシュート》が一気にブロックを崩壊させ、中に居た『シャドウ』を露出させた。
剥き出しになった『シャドウ』に、ギリメカラから《星》アルカナの『ガネーシャ』に切り換えた悠希が《スタードロップ》を撃ち込ませ、ダメージを与えると同時に『シャドウ』の防御力を低下させる。
そこを一斉攻撃で叩くと、かなりのダメージを稼げた様で、『シャドウ』の滞空高度が下がった。
悠希たちは続け様に攻撃しようとするが。
そうはさせまいと『シャドウ』は《マハガルーラ》で闘技場全体に烈風を吹き荒れさせる。
凄まじい風に砂埃が舞い上がり視界を閉ざす中、咄嗟に悠希はタケミカヅチと完二をガネーシャの巨体で庇い、陽介は千枝と雪子とクマをジライヤを盾にして守らせた。
吹き荒れる風が収まったと同時に、悠希たちが目を開けた其処には。
ブロックが組み直された『導かれし勇者ミツオ』が復活していた。
どうやら『導かれし勇者ミツオ』は何度でも復活させる事が出来るらしい。
ブロック単体を破壊しても、暫くすると再生されてしまうのであまり手としては意味が無い様だ。
一人が大技を決めてブロックを一気に崩して、露出した本体を残り全員で集中砲火するのが最適解だろうか。
「先ずは私がもう一度ヤツの殻を崩す!
皆は『シャドウ』が露出したら、一気に叩いてくれ!」
悠希はそう指示を出して、《法王》の『ケルベロス』を召喚した。
しかし、ケルベロスが攻撃を仕掛ける前に『導かれし勇者ミツオ』が動く。
【>ギガダイン】と頭上に表示されると同時に『導かれし勇者ミツオ』が剣を頭上に掲げると。
雷の豪雨の様な荒々しいエネルギーの塊が辺りを焼き払う。
全員がダメージに膝をついた所から、先程の雷は万能属性の攻撃であった様だ。
「お願い、コノハナサクヤ!」
素早く立ち直った雪子が《メディラマ》で皆を回復させ、その隙を狙って『導かれし勇者ミツオ』が雪子にブロックの剣を叩き付け様としたのをトモエとタケミカヅチが受け止めて押し返す。
僅かに『導かれし勇者ミツオ』が踏鞴を踏んだ瞬間を狙い、ケルベロスのその強靭な鋭爪がブロックの塊を一気に削り取って『導かれし勇者ミツオ』の中から『シャドウ』を露出させ、《マハラギダイン》で周囲に纏わり付くブロックを一気に吹き飛ばした。
『どうして……必死になって戦うの……?
諦めれば、楽になれるんだよ?』
自らの鎧を剥ぎ取られた『シャドウ』は、陰鬱な声でそう囁きかけてくる。
それに淡々と悠希は答えた。
「諦めたら決して手には入らないモノが欲しいからだ。
それに、諦めて得た安楽は、己の心から自ら目を反らした結果に過ぎない……!」
刀に炎を纏わせて悠希はケルベロスと共に『シャドウ』に斬りかかり、赤子の様に縮こまらせていたその左手を切り裂く。
それに火が着いた様な叫び声を上げ、手を滅茶苦茶に振り回して『シャドウ』は自らを傷付けるモノを振り払おうとするが。
その時には一撃を与えた悠希とケルベロスは素早くその場を離脱していた。
『シャドウ』は忌々し気に悠希を睨む。
「今だ! 叩き込め!!」
イザナギが《マハタルカジャ》で援護するのと同時に悠希が合図を出し、皆一斉に攻撃を叩き込んだ。
『シャドウ』は吹き飛ばされ地を転がるが、それでもまだまだ倒れる様な気配は無い。
嬰児の様な無力そうな見目とは裏腹に、存外打たれ強い様だ。
『シャドウ』は苛ついた様な叫び声を上げ、《蒼の壁》で己に電撃耐性を付けると同時に周囲を《マハジオンガ》で焼き払った。
「っ……! 花村、クマ! 無事か!?」
悠希と完二はイザナギとタケミカヅチに電撃耐性があるが故に軽傷。
千枝と雪子は防御が間に合ったので比較的に軽傷だ。
「間一髪な!」
陽介は紙一重の所で回避に成功し、ジライヤで咄嗟にクマを抱えて避難していた。
キントキドウジに電撃が直撃した衝撃でクマは目を回しているが、一応は無事である。
悠希達が体勢を立て直そうとする隙に、『シャドウ』は再び『導かれし勇者ミツオ』を構築してその中に隠れた。
そして、【>バクダン】と表示させながら、ブロックで出来た巨大な爆弾の様な物体を悠希に向かって投擲する。
「イザナギっ!」
一瞬の判断でそれを危険なモノと判断した悠希は、敢えて叩き斬らずにイザナギの剣の腹の部分で『導かれし勇者ミツオ』の方へと爆弾を打ち返した。
直後、派手に爆炎の様なエフェクトのブロックを撒き散らしながら、爆弾は四散する。
『今の攻撃も万能属性だよ!
アレに当たると衰弱もしちゃうから、絶対に避けて!』
攻撃の正体を直ぐ様りせは分析し、それを皆に伝えた。
それに頷く暇すら与えず、『導かれし勇者ミツオ』はブロックで出来た剣を悠希目掛けて振り下ろしてくる。
横に跳んで悠希はそれを回避するが、『導かれし勇者ミツオ』はカクカクとした見た目と動きにそぐわない程素早い動きで矢継ぎ早に剣を振り回しながら執拗に悠希を狙ってくる。
その行動に悠希は一度軽く舌打ちをし、『導かれし勇者ミツオ』が剣を上段に構えてから一気に叩き潰そうと振り下ろした瞬間に、イザナギを割り込ませて鍔迫り合いを引き起こさせた。
そして、イザナギの身体を踏み台にして、悠希はブロックで出来た剣に乗り、そのままそれを足場として一気に『導かれし勇者ミツオ』の身体を駆け上って、イザナギの力により紫電を纏う刀で頭周りのブロックを一気に崩す。
そして、素早く『導かれし勇者ミツオ』の身体を蹴ってその場から離れ、力を溜めていた陽介とクマに合図をした。
「よっしゃ、行くぜクマ!」
「行くクマよー、そりゃ!」
タイミングを合わせて放たれた魔法は、荒れ狂う猛吹雪となって一気に『導かれし勇者ミツオ』のブロックを引き剥がしていく。
露出した『シャドウ』は、風に身を刻まれ末端が凍り付いていた。
「行くぞ、クー・フーリン!」
白銀の鎧に身を包んだケルト神話の大英雄、《塔》の『クー・フーリン』がその槍に風を纏わせ、《チャージ》によって高まった力で『シャドウ』に一撃を与える。
『シャドウ』の傷口には風が絡み付く様に残留し、千枝達が悠希に続いて攻撃する度に、激しさを増しながら『シャドウ』の身を破壊していく。
だが、まだ『シャドウ』は倒れない。
金切り声を上げ、《デカジャ》で悠希達に掛かっていた《マハタルカジャ》の効果を打ち消し、直後に《白の壁》を使う。
「不味い! 天城さん、防御して!!」
そして悠希が叫んだ直後、『シャドウ』は《マハブフーラ》で場内に吹雪を吹き荒れさせた。
「……っ!」
警告が間に合ったので雪子はガードを固めた上にトモエに庇われていたので無事であり、悠希もクー・フーリンを消してガードを固めたので何とか軽傷であった。
『アイツ、自分に耐性を付けてからその属性の全体魔法を使ってる!
皆、弱点を突かれない様に注意して!』
《蒼の壁》・《白の壁》と言った対象に属性への耐性を一時的に付与する魔法の効果は、そう長くは持たない。
現に、既に先に使っていた《蒼の壁》の効果は消えている。
だが、厄介な行動パターンであるのは確かだ。
再び『導かれし勇者ミツオ』を再構築させていた『シャドウ』は、相変わらず何故か悠希に狙いを定めていた。
クー・フーリンから、弱点の無い《太陽》の『タムリン』へと切り換えた悠希はその攻撃を避けたり捌いたりしつつ何とか凌いでいる。
『僕はね……僕がここに居る証拠が欲しいんだ……。
君を殺せば、僕が……ここに居る証明になる。
君らを殺せば、僕は僕でいられる……。
だから……君らを殺さなきゃ!』
何処か壊れた様にそんな身勝手な事を生気の無い声で喚く『シャドウ』に、攻撃を避けつづける悠希は僅かに眉間に皺を寄せた。
そして。
「私を殺した所で、お前の存在証明になど成り得はしない。
それは、そうお前が思い込んでいるだけに過ぎない。
他者を害する事でしか確立出来ない自分など、只のまやかしだ」
淡々とそう述べる。
その言葉に『導かれし勇者ミツオ』は一瞬動きが止まった。
「っ! 今だ、斬り刻め! タムリン!」
その一瞬を突いて、タムリンの放った《刹那五月雨撃》の斬撃が『導かれし勇者ミツオ』を幾重にも斬り刻む。
ブロックの大半を削り飛ばしたその一撃に、『導かれし勇者ミツオ』は地に倒れた。
「燃やしなさい! コノハナサクヤ!!」
そこを雪子が《アギダイン》で追撃し、残りのブロックを一気に溶かして再び『シャドウ』を露出させる。
そこに《チャージ》で力を溜めていたタムリンが飛び込み雷を纏ったその槍を一閃させ、『シャドウ』の左腕を完全に斬り落とした。
反撃の様に放たれた電撃はタムリンの耐性に依って完全に無効化され、寧ろその隙を突かれて放たれたタムリンの一撃により『シャドウ』はダウンする。
「よーし、チャンス到来!
行っくよー、完二くん!」
「うっス!」
《チャージ》により力を溜めていたトモエとタケミカヅチの《凍殺刃》と《震電砕》が炸裂し、《連鎖の雷刃》による電撃ダメージに内部を侵食された『シャドウ』の身体は大きく跳ね上がった。
ジライヤの《ガルダイン》とキントキドウジの《ブフダイン》が動けない『シャドウ』を蹂躙し、止めとばかりに放たれたコノハナサクヤの《アギダイン》が『シャドウ』を大きく吹き飛ばす。
壁に叩き付けられた『シャドウ』は何処かぐったりとしているが、それでもまだ消滅する気配は無い。
《赤の壁》を使った後に《マハラギオン》で周囲を焼き払うが、再び『導かれし勇者ミツオ』を構築しようとするも、今までは瞬時に構築されていたそのスピードは、目に見えて遅くなっていた。
そこに、タムリンの耐性故にほぼ無傷の悠希が駆け出し、7割程しか再生しきれていない『導かれし勇者ミツオ』の身体の復活を阻止しようと、ブロックの隙間から『シャドウ』を攻撃しようとするが。
ブロックの隙間から見えた『シャドウ』が。
──ニヤリと、嗤った
その途端。
何故か悠希は急に脱力した様にふらつきタムリンは消滅する。
それをブロックの隙間から素早く手を伸ばした『シャドウ』が鷲掴みにして、『導かれし勇者ミツオ』を形作るブロックの内部へと悠希を引き摺りこんだ。
「鳴上!!」
陽介が急いでジライヤで救出しようとするも、直前に完全に再生されたブロックに隙間を埋められ、後一歩の所で届かなかった。
ジライヤの拳を打ち付けるが、『導かれし勇者ミツオ』はビクともしない。
悠希を内部に取り込んだまま、『導かれし勇者ミツオ』は完全なる再生を果たしてしまった。
◇◇◇◇◇
『そのブロックの中に本体が居るよ!
先ずはソイツをそこから引っ張り出さないと、ダメージを与えられないみたい!』
りせが、ブロックで形作られた“ゆうしゃ”を模した鎧──『導かれし勇者ミツオ』を壊さないと、『シャドウ』本体へはダメージを与えられない事を告げる。
「了解! 行っくよー!」
それに頷いて一気に駆け出したトモエと千枝が、腹の部分を狙って同時に飛び蹴りを繰り出した。
2・3個のブロックがそれにより溢れ落ちたが、直ぐ様自動的に元の位置に修復されてしまう。
一気にブロックを崩さなければ、直ぐに再生してしまうのだ。
千枝に反撃するかの様に『導かれし勇者ミツオ』の頭上に【>たたかう】と表示され、『導かれし勇者ミツオ』は何処かカクカクとした動きで手にした剣をクマへと勢いよく振り下ろす。
「させるか! 来い、ギリメカラ!」
悠希は《月》アルカナの『ギリメカラ』を呼び出し、振り下ろされる剣の下へと身を投げ出させた。
すると、甲高い音を立てて剣は弾き返されその衝撃にブロックを幾つか崩壊させながら『導かれし勇者ミツオ』は仰向けに倒れる。
ギリメカラはランダと同じく、物理攻撃を反射させるからだ。
「先輩流石っス!」
その期を逃すかとばかりに、《チャージ》で力を溜めていたタケミカヅチの《ミリオンシュート》が一気にブロックを崩壊させ、中に居た『シャドウ』を露出させた。
剥き出しになった『シャドウ』に、ギリメカラから《星》アルカナの『ガネーシャ』に切り換えた悠希が《スタードロップ》を撃ち込ませ、ダメージを与えると同時に『シャドウ』の防御力を低下させる。
そこを一斉攻撃で叩くと、かなりのダメージを稼げた様で、『シャドウ』の滞空高度が下がった。
悠希たちは続け様に攻撃しようとするが。
そうはさせまいと『シャドウ』は《マハガルーラ》で闘技場全体に烈風を吹き荒れさせる。
凄まじい風に砂埃が舞い上がり視界を閉ざす中、咄嗟に悠希はタケミカヅチと完二をガネーシャの巨体で庇い、陽介は千枝と雪子とクマをジライヤを盾にして守らせた。
吹き荒れる風が収まったと同時に、悠希たちが目を開けた其処には。
ブロックが組み直された『導かれし勇者ミツオ』が復活していた。
どうやら『導かれし勇者ミツオ』は何度でも復活させる事が出来るらしい。
ブロック単体を破壊しても、暫くすると再生されてしまうのであまり手としては意味が無い様だ。
一人が大技を決めてブロックを一気に崩して、露出した本体を残り全員で集中砲火するのが最適解だろうか。
「先ずは私がもう一度ヤツの殻を崩す!
皆は『シャドウ』が露出したら、一気に叩いてくれ!」
悠希はそう指示を出して、《法王》の『ケルベロス』を召喚した。
しかし、ケルベロスが攻撃を仕掛ける前に『導かれし勇者ミツオ』が動く。
【>ギガダイン】と頭上に表示されると同時に『導かれし勇者ミツオ』が剣を頭上に掲げると。
雷の豪雨の様な荒々しいエネルギーの塊が辺りを焼き払う。
全員がダメージに膝をついた所から、先程の雷は万能属性の攻撃であった様だ。
「お願い、コノハナサクヤ!」
素早く立ち直った雪子が《メディラマ》で皆を回復させ、その隙を狙って『導かれし勇者ミツオ』が雪子にブロックの剣を叩き付け様としたのをトモエとタケミカヅチが受け止めて押し返す。
僅かに『導かれし勇者ミツオ』が踏鞴を踏んだ瞬間を狙い、ケルベロスのその強靭な鋭爪がブロックの塊を一気に削り取って『導かれし勇者ミツオ』の中から『シャドウ』を露出させ、《マハラギダイン》で周囲に纏わり付くブロックを一気に吹き飛ばした。
『どうして……必死になって戦うの……?
諦めれば、楽になれるんだよ?』
自らの鎧を剥ぎ取られた『シャドウ』は、陰鬱な声でそう囁きかけてくる。
それに淡々と悠希は答えた。
「諦めたら決して手には入らないモノが欲しいからだ。
それに、諦めて得た安楽は、己の心から自ら目を反らした結果に過ぎない……!」
刀に炎を纏わせて悠希はケルベロスと共に『シャドウ』に斬りかかり、赤子の様に縮こまらせていたその左手を切り裂く。
それに火が着いた様な叫び声を上げ、手を滅茶苦茶に振り回して『シャドウ』は自らを傷付けるモノを振り払おうとするが。
その時には一撃を与えた悠希とケルベロスは素早くその場を離脱していた。
『シャドウ』は忌々し気に悠希を睨む。
「今だ! 叩き込め!!」
イザナギが《マハタルカジャ》で援護するのと同時に悠希が合図を出し、皆一斉に攻撃を叩き込んだ。
『シャドウ』は吹き飛ばされ地を転がるが、それでもまだまだ倒れる様な気配は無い。
嬰児の様な無力そうな見目とは裏腹に、存外打たれ強い様だ。
『シャドウ』は苛ついた様な叫び声を上げ、《蒼の壁》で己に電撃耐性を付けると同時に周囲を《マハジオンガ》で焼き払った。
「っ……! 花村、クマ! 無事か!?」
悠希と完二はイザナギとタケミカヅチに電撃耐性があるが故に軽傷。
千枝と雪子は防御が間に合ったので比較的に軽傷だ。
「間一髪な!」
陽介は紙一重の所で回避に成功し、ジライヤで咄嗟にクマを抱えて避難していた。
キントキドウジに電撃が直撃した衝撃でクマは目を回しているが、一応は無事である。
悠希達が体勢を立て直そうとする隙に、『シャドウ』は再び『導かれし勇者ミツオ』を構築してその中に隠れた。
そして、【>バクダン】と表示させながら、ブロックで出来た巨大な爆弾の様な物体を悠希に向かって投擲する。
「イザナギっ!」
一瞬の判断でそれを危険なモノと判断した悠希は、敢えて叩き斬らずにイザナギの剣の腹の部分で『導かれし勇者ミツオ』の方へと爆弾を打ち返した。
直後、派手に爆炎の様なエフェクトのブロックを撒き散らしながら、爆弾は四散する。
『今の攻撃も万能属性だよ!
アレに当たると衰弱もしちゃうから、絶対に避けて!』
攻撃の正体を直ぐ様りせは分析し、それを皆に伝えた。
それに頷く暇すら与えず、『導かれし勇者ミツオ』はブロックで出来た剣を悠希目掛けて振り下ろしてくる。
横に跳んで悠希はそれを回避するが、『導かれし勇者ミツオ』はカクカクとした見た目と動きにそぐわない程素早い動きで矢継ぎ早に剣を振り回しながら執拗に悠希を狙ってくる。
その行動に悠希は一度軽く舌打ちをし、『導かれし勇者ミツオ』が剣を上段に構えてから一気に叩き潰そうと振り下ろした瞬間に、イザナギを割り込ませて鍔迫り合いを引き起こさせた。
そして、イザナギの身体を踏み台にして、悠希はブロックで出来た剣に乗り、そのままそれを足場として一気に『導かれし勇者ミツオ』の身体を駆け上って、イザナギの力により紫電を纏う刀で頭周りのブロックを一気に崩す。
そして、素早く『導かれし勇者ミツオ』の身体を蹴ってその場から離れ、力を溜めていた陽介とクマに合図をした。
「よっしゃ、行くぜクマ!」
「行くクマよー、そりゃ!」
タイミングを合わせて放たれた魔法は、荒れ狂う猛吹雪となって一気に『導かれし勇者ミツオ』のブロックを引き剥がしていく。
露出した『シャドウ』は、風に身を刻まれ末端が凍り付いていた。
「行くぞ、クー・フーリン!」
白銀の鎧に身を包んだケルト神話の大英雄、《塔》の『クー・フーリン』がその槍に風を纏わせ、《チャージ》によって高まった力で『シャドウ』に一撃を与える。
『シャドウ』の傷口には風が絡み付く様に残留し、千枝達が悠希に続いて攻撃する度に、激しさを増しながら『シャドウ』の身を破壊していく。
だが、まだ『シャドウ』は倒れない。
金切り声を上げ、《デカジャ》で悠希達に掛かっていた《マハタルカジャ》の効果を打ち消し、直後に《白の壁》を使う。
「不味い! 天城さん、防御して!!」
そして悠希が叫んだ直後、『シャドウ』は《マハブフーラ》で場内に吹雪を吹き荒れさせた。
「……っ!」
警告が間に合ったので雪子はガードを固めた上にトモエに庇われていたので無事であり、悠希もクー・フーリンを消してガードを固めたので何とか軽傷であった。
『アイツ、自分に耐性を付けてからその属性の全体魔法を使ってる!
皆、弱点を突かれない様に注意して!』
《蒼の壁》・《白の壁》と言った対象に属性への耐性を一時的に付与する魔法の効果は、そう長くは持たない。
現に、既に先に使っていた《蒼の壁》の効果は消えている。
だが、厄介な行動パターンであるのは確かだ。
再び『導かれし勇者ミツオ』を再構築させていた『シャドウ』は、相変わらず何故か悠希に狙いを定めていた。
クー・フーリンから、弱点の無い《太陽》の『タムリン』へと切り換えた悠希はその攻撃を避けたり捌いたりしつつ何とか凌いでいる。
『僕はね……僕がここに居る証拠が欲しいんだ……。
君を殺せば、僕が……ここに居る証明になる。
君らを殺せば、僕は僕でいられる……。
だから……君らを殺さなきゃ!』
何処か壊れた様にそんな身勝手な事を生気の無い声で喚く『シャドウ』に、攻撃を避けつづける悠希は僅かに眉間に皺を寄せた。
そして。
「私を殺した所で、お前の存在証明になど成り得はしない。
それは、そうお前が思い込んでいるだけに過ぎない。
他者を害する事でしか確立出来ない自分など、只のまやかしだ」
淡々とそう述べる。
その言葉に『導かれし勇者ミツオ』は一瞬動きが止まった。
「っ! 今だ、斬り刻め! タムリン!」
その一瞬を突いて、タムリンの放った《刹那五月雨撃》の斬撃が『導かれし勇者ミツオ』を幾重にも斬り刻む。
ブロックの大半を削り飛ばしたその一撃に、『導かれし勇者ミツオ』は地に倒れた。
「燃やしなさい! コノハナサクヤ!!」
そこを雪子が《アギダイン》で追撃し、残りのブロックを一気に溶かして再び『シャドウ』を露出させる。
そこに《チャージ》で力を溜めていたタムリンが飛び込み雷を纏ったその槍を一閃させ、『シャドウ』の左腕を完全に斬り落とした。
反撃の様に放たれた電撃はタムリンの耐性に依って完全に無効化され、寧ろその隙を突かれて放たれたタムリンの一撃により『シャドウ』はダウンする。
「よーし、チャンス到来!
行っくよー、完二くん!」
「うっス!」
《チャージ》により力を溜めていたトモエとタケミカヅチの《凍殺刃》と《震電砕》が炸裂し、《連鎖の雷刃》による電撃ダメージに内部を侵食された『シャドウ』の身体は大きく跳ね上がった。
ジライヤの《ガルダイン》とキントキドウジの《ブフダイン》が動けない『シャドウ』を蹂躙し、止めとばかりに放たれたコノハナサクヤの《アギダイン》が『シャドウ』を大きく吹き飛ばす。
壁に叩き付けられた『シャドウ』は何処かぐったりとしているが、それでもまだ消滅する気配は無い。
《赤の壁》を使った後に《マハラギオン》で周囲を焼き払うが、再び『導かれし勇者ミツオ』を構築しようとするも、今までは瞬時に構築されていたそのスピードは、目に見えて遅くなっていた。
そこに、タムリンの耐性故にほぼ無傷の悠希が駆け出し、7割程しか再生しきれていない『導かれし勇者ミツオ』の身体の復活を阻止しようと、ブロックの隙間から『シャドウ』を攻撃しようとするが。
ブロックの隙間から見えた『シャドウ』が。
──ニヤリと、嗤った
その途端。
何故か悠希は急に脱力した様にふらつきタムリンは消滅する。
それをブロックの隙間から素早く手を伸ばした『シャドウ』が鷲掴みにして、『導かれし勇者ミツオ』を形作るブロックの内部へと悠希を引き摺りこんだ。
「鳴上!!」
陽介が急いでジライヤで救出しようとするも、直前に完全に再生されたブロックに隙間を埋められ、後一歩の所で届かなかった。
ジライヤの拳を打ち付けるが、『導かれし勇者ミツオ』はビクともしない。
悠希を内部に取り込んだまま、『導かれし勇者ミツオ』は完全なる再生を果たしてしまった。
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