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虚構の勇者

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 終わりなど存在しない無間地獄の中を、何れ程彷徨っているのか、もう覚えていない。
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返した。
 だがもうそれらに、何も感じない、感じられない。

 皆をこの手で殺した自分。
 何も出来ず、皆を守れなかった自分。
 他愛無いが何よりも愛しい終わらない一日を、延々と繰り返し続ける自分。
 幽霊の様に、その場に居るのに其処には居ない自分。
 稲羽で過ごした時間全てが“夢”であった自分。

 何が“夢”で、何が“現実”なのか。
 最早自分には判別出来なかった。

 そもそも人間は五感や痛覚などの知覚で世界を認識している。
 ……その知覚で、“夢”と“現実”の違いを区別出来ないのならば。
 それは、全て己にとっては“現実”なのだ。
 胡蝶の夢とはよく言うが、それに近い状態であるのだろうか。

 花村達を自ら惨殺してしまった自分が“現実”で、それから逃避する為に見ている“夢”が今の自分なのかもしれない。
『シャドウ』に皆を殺されるのをただ見ているしか出来なかった自分が死の直前の瞬間に見ている“夢”が、今の自分なのかもしれない。
 そもそも『シャドウ』も『ペルソナ』も全て“夢”で、稲羽へとやって来て花村達と出会った事も“夢”でしかなかった自分が、“現実”から逃避する為に更に見ている“夢”が自分なのかもしれない。

 何もかもがあやふやになり、全てが虚ろへと溶けていきそうになる。
 泥濘の中へと沈みそうになる意識は、最早途切れ途切れで、目の前で起こる出来事を認識出来ていない。
 今が何時で、ここが何処で、自分が何をしているのか…………分からない。
 自分自身すら、次第に知覚出来なくなっていく。

 ──何も、見えない
 ──何も、聞こえない
 ──何も、匂わない
 ──何も、触れられない
 ──何も、痛みがない
 ──何も、感じない
 ──何も、考えられない

 死んだ様に何処かに居る自分は、何も感じず何も為さず、ただ屍の如くそこに佇んでいた。
 いや、佇んでいるのだろうか。
 倒れていたのかもしれないし、深い水底へと沈んでいるのかもしれない。

 もうどうであっても全て同じで、全てがどうでも良い事だった。




■■




 ふと喉元に圧迫感を感じる。
 それを知覚出来た事に僅かに驚き。
 そもそも驚くという心の動きが残っていた事自体に驚いた。

 ━━ナニモ ナイ
 ━━スベテ ハ 無ダ
 ━━オマエ ハ ナニモ デキナイ
 ━━オマエ ハ ナニモ マモレナイ
 ━━オマエ ハ ヒトリ ダ
 ━━オマエ ハ ムリョク ダ
 ━━オマエ ニハ ナニモ ナイ
 ━━ボクト オナジ ダ
 ━━ナニモ ナイ ノハ コワイ ダロ
 ━━ナニモ ナイ ノハ クルシイ ダロ
 ━━ボクガ オワラセテ アゲルヨ

 喉を潰そうとする様に、圧迫感が急に増した。

 息が、苦しい。
 苦しいと感じる事が、まだ出来たのかと、薄れていく意識の片隅で思う。



 ━━……………………!


 ふと、少し遠い場所から何かが聞こえた。


 ━━………………み!


 ……?誰かを呼んでいるのか?


 ━━……る……み!!


 誰を呼んでいるのだろう。


 ━━……るかみ!


 誰が呼んでいるのだろう。


 ━━……なるかみ!


 誰なんだろう、分からない。


 ━━……ゆう!


 でもこの声は、自分にとって大切な誰かだった。


 ━━……ゆうき!


 ……自分を、呼んでいるのか?





 ━━目を醒ませ、悠希!!











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