本当の“家族”
◆◆◆◆◆
【2011/06/06】
今日は、天城さんに頼まれて、買い物に付き合う事にした。
行き先はジュネスなのだが、ペンやルーズリーフは兎も角、勉強机や蛍光スタンドなど、大分色々と買いたいらしい。
しかし、そんなに買っても持って帰られるのだろうか。
そして、それらを何に使うのだろう。
フードコートで休憩しながら訊ねてみると、天城さんは気合いの入った顔で教えてくれた。
「あのね、資格の勉強を、本格的に始めてみようと思って!
……取り敢えず、どれが良いとかまだあんまり分からないから、取れそうなのを手当たり次第にやってみようかなって。
前に鳴上さんに教えて貰った翻訳のアルバイト、こっそりやっててお金も少しだけど貯まってきたんだ」
「そうか、天城さん、頑張っているんだな。
資格か……。
スタンダードだけど、『簿記』の資格とかどうかな。
一級とか取れたら、大分生計を立てるのにも役に立つと思うよ」
「『簿記』か……。
うん、考えてみるね」
二人でオススメの資格などについて話していると、何やら胡散臭そうな男達が三人程連れ立ってやって来た。
「あれぇ? 天城屋旅館の、女将さんじゃないですか。
あっ、違った。次期、女将さんかぁ」
特に胡散臭いスーツ姿の男がニヤニヤしながら話し掛けてくる。
「……まだいらっしゃったんですね」
天城さんの応対にかなりの棘がある。
……知っている相手なのだろうか?
「だって、ここバスも電車も、全っ然来ないからさぁ。
ほーんと、田舎だよねぇ、稲羽って。
そうなると、ここいらでやれる事なーんも無くってさ。
ほんと、田舎って嫌だねぇ」
じゃあ来るなよ、と心の中で返した。
そんな言葉は、実際にそこに住んでいる相手に向けるべき言葉では無い。
こういうゲスな人ってやっぱり居るんだな……、と思う。
「……そうは思いませんけど」
天城さんが内心苛立った様に返すと、スーツ姿の男は嘲笑う様に顔を歪める。
「オイシイ話に乗らないってのも、田舎の特徴かなぁ? あはは~」
バカにした様に笑った後、胡散臭い人達は去っていった。
……天城さんが説明してくれた所によると、何処かのテレビ局の取材班らしい。
天城屋旅館の取材を申し込みに来たのだとか……。
取材させて貰う方の態度としては有り得ない位には最低だ。
どうやら、旅番組とかではなく、所謂ワイドショーの番組らしく、山野アナの一件の影響で、宿泊客が減った事を下世話に取り上げたかったらしいが、あまりにも酷い内容なので、女将さんである天城さんのお母さんは断ったらしい。
女将さんの判断で正解だと思う。
そんなゲスいワイドショーに出された所で益は無い。
「でも、断らなくたって良かったかも……」
天城さんのその呟きを不思議に思い、首を傾げると、暗い表情でポツポツと語ってくれた。
「だって……、悪い評判が立ったらさ……。
お客さんが来なくなって、旅館が本当に潰れるのかも……。
そしたら……。
……せいせい、する」
しかし、言葉とは裏腹に、全くそう思っている様には見えない。
「天城さん、それ、本気で言ってるの?」
「……本気、だよ」
そう、天城さんは暗く呟いた。
…………。
「……なーんて、言っててもしょうがないよね……。
私は私の力で出ていくし……。
私が、私の人生を決めていくんだから。
それにね、私はもっとみんなの役にも立ちたい。
何時も、こんなにも私の用事に付き合ってくれてる鳴上さんの為にも……」
熱いやる気が天城さんから伝わってくる。
休憩を終えて、再び買い物に戻り、バス停まで天城さんを見送ってから家へと帰った。
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【2011/06/06】
今日は、天城さんに頼まれて、買い物に付き合う事にした。
行き先はジュネスなのだが、ペンやルーズリーフは兎も角、勉強机や蛍光スタンドなど、大分色々と買いたいらしい。
しかし、そんなに買っても持って帰られるのだろうか。
そして、それらを何に使うのだろう。
フードコートで休憩しながら訊ねてみると、天城さんは気合いの入った顔で教えてくれた。
「あのね、資格の勉強を、本格的に始めてみようと思って!
……取り敢えず、どれが良いとかまだあんまり分からないから、取れそうなのを手当たり次第にやってみようかなって。
前に鳴上さんに教えて貰った翻訳のアルバイト、こっそりやっててお金も少しだけど貯まってきたんだ」
「そうか、天城さん、頑張っているんだな。
資格か……。
スタンダードだけど、『簿記』の資格とかどうかな。
一級とか取れたら、大分生計を立てるのにも役に立つと思うよ」
「『簿記』か……。
うん、考えてみるね」
二人でオススメの資格などについて話していると、何やら胡散臭そうな男達が三人程連れ立ってやって来た。
「あれぇ? 天城屋旅館の、女将さんじゃないですか。
あっ、違った。次期、女将さんかぁ」
特に胡散臭いスーツ姿の男がニヤニヤしながら話し掛けてくる。
「……まだいらっしゃったんですね」
天城さんの応対にかなりの棘がある。
……知っている相手なのだろうか?
「だって、ここバスも電車も、全っ然来ないからさぁ。
ほーんと、田舎だよねぇ、稲羽って。
そうなると、ここいらでやれる事なーんも無くってさ。
ほんと、田舎って嫌だねぇ」
じゃあ来るなよ、と心の中で返した。
そんな言葉は、実際にそこに住んでいる相手に向けるべき言葉では無い。
こういうゲスな人ってやっぱり居るんだな……、と思う。
「……そうは思いませんけど」
天城さんが内心苛立った様に返すと、スーツ姿の男は嘲笑う様に顔を歪める。
「オイシイ話に乗らないってのも、田舎の特徴かなぁ? あはは~」
バカにした様に笑った後、胡散臭い人達は去っていった。
……天城さんが説明してくれた所によると、何処かのテレビ局の取材班らしい。
天城屋旅館の取材を申し込みに来たのだとか……。
取材させて貰う方の態度としては有り得ない位には最低だ。
どうやら、旅番組とかではなく、所謂ワイドショーの番組らしく、山野アナの一件の影響で、宿泊客が減った事を下世話に取り上げたかったらしいが、あまりにも酷い内容なので、女将さんである天城さんのお母さんは断ったらしい。
女将さんの判断で正解だと思う。
そんなゲスいワイドショーに出された所で益は無い。
「でも、断らなくたって良かったかも……」
天城さんのその呟きを不思議に思い、首を傾げると、暗い表情でポツポツと語ってくれた。
「だって……、悪い評判が立ったらさ……。
お客さんが来なくなって、旅館が本当に潰れるのかも……。
そしたら……。
……せいせい、する」
しかし、言葉とは裏腹に、全くそう思っている様には見えない。
「天城さん、それ、本気で言ってるの?」
「……本気、だよ」
そう、天城さんは暗く呟いた。
…………。
「……なーんて、言っててもしょうがないよね……。
私は私の力で出ていくし……。
私が、私の人生を決めていくんだから。
それにね、私はもっとみんなの役にも立ちたい。
何時も、こんなにも私の用事に付き合ってくれてる鳴上さんの為にも……」
熱いやる気が天城さんから伝わってくる。
休憩を終えて、再び買い物に戻り、バス停まで天城さんを見送ってから家へと帰った。
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