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本当の“家族”

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【2011/06/05】


 マリーに頼まれ、沖奈駅前へとやって来た。
 どうやら、稲羽の外も気になった様だ。
 電車が物珍しかったのか、マリーは車窓の外を流れていく風景をキラキラとした目で眺めていた。
 尚、電車賃はこちら持ちである。
 休日という事もあって、沖奈駅前の通行人はとても多い。

「ここが“街”……?
 ふ~ん……」

 キョロキョロと辺りを見回していたマリーは、ふと首を傾げた。

「……変なの。
 広いのに狭いし、四角と…灰色ばっかり。
 ……何をする所なの、“街”って?」

「“何かをする”って、そういう目的がある場所でもなくって、基本は稲羽と同じかな。
 人が住んでいて、そこで生活している。
 でも、単純に稲羽よりも人が多いし、他の場所に行く為の交通の便も良いから多くの人が集まって来るから、そういう人達の為に、娯楽を提供するお店とか、物を売る店が色々と多い、かな」

「ふうん……。
 キミって、こういう所で遊んでる“遊び人”?
 だから、あんまりあの部屋に来ないんだ……。
 ばかきらいさいてー。
 ……キミが来てくれるの、待ってるのに……。
 こっちの身にもなってよ……」

 ぷうっと、マリーは頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
 いきなり“遊び人”認定されて思わず少し苦笑してしまう。
 “遊び人”って……ドラクエでもあるまいに。
 あのゲームで、ネタで“遊び人”ばかり育ててみた事はあったけど。
 遊ぶ時は結構遊んでいるけれど、“遊び人”って呼ばれる程放蕩した覚えは無い。

 まあでも、マリーはこうやって連れ出している時以外は、基本的にあの部屋でずっと待っているのだから、退屈を覚えて拗ねてしまっても仕方無いか。

「ごめんね、今度からはもうちょっと小まめに行くよ」

「……なら、ゆるす」

 頬を膨らませるのを止めたマリーは、やっとこちらを向いた。

「そう言えば、マリーは夜は出歩いてはダメなのか?」

 もし夜間も出歩けるのなら、夜の商店街を一緒に散策したり、夜釣りをしてみたりしても良いなと思ったのだが……。
 果たしてどうなのだろう。
 今の所、マリーを外に連れ出しても大丈夫だと分かっているのは、雨の日ではない日中位なモノだ。
 しかし、これから先は夏祭りとか花火大会とか、そういう夜間に行われる催しモノもあるだろうから、一応訊ねておきたかった。

「えっ、どうだろ……分かんない……」

「そうか……、もし出歩けるのなら、夜釣りとかにでも誘おうかと思ったんだが……」

「よづり……?
 分かんないけど、……まーがれっとに訊いてみる」

 その時、背後から誰かに呼ばれる。

「あれ、鳴上さんとマリーちゃんじゃん!」

 振り返ると、「おーい」と手を振りながら近付いてくる里中さんと、見慣れないマリーに首を傾げている天城さんが居た。

「こんにちは、鳴上さん。
 えっと……そっちの子は、鳴上さんの友達?」

「あっ、そっか……雪子は会った事無かったっけか。
 この子、鳴上さんの友達のマリーちゃんって言ってね、前に何回か稲羽で会ったんだ」

 首を傾げて訊ねてきた天城さんに、里中さんが説明をする。
 そして更に、マリーに天城さんを紹介した。

「あ、こっちは天城雪子。
 あたしらの仲間なんだ」

「……なかま……」

 快活に笑いながらそう説明した里中さんの言葉を呟き、マリーはこちらを見上げる。

「奇遇だね、二人とも。
 そっちも何か買い物に?」

「まあ、そんな所かな。
 “も”って事は、里中さんたちは買い物に来た?」

「うん、二人で服買いに来たんだー。
 あっちだと、ジュネス位にしか服売ってないから」

 成る程。確かに、稲羽には所謂お洒落な服を売っている店は無い。

「緑の人、緑の服買うの?」

「みっ、緑の人?
 あっ、そっか前会った時も何時も緑色着てたからか。
 あはは……変、かな?」

「変じゃないよ、似合ってる。
 でも、緑の人もそっちの赤の人も、どっちも同じ色ばっかな感じ」

 マリーの言葉に驚いた様に里中さんと天城さんは目を見開いた。
 図星だったのかもしれない。
 そして二人して苦笑しつつも俯く。

「うぅ……痛いトコ突かれた……」

「でも、当たってるよね……」

 二人の様子に、マリーは首を傾げた。

「何で落ち込んでるのか分かんないけど……。
 何か……勿体ない。
 人間は服変えられるじゃん。
 もっと色んなの着ればいいのに。
 他のも、似合うと思う」

「そ、そういうものかな。
 あまり自分で選んだりとか、しないから……」

「天城さんのその服も似合ってるけど、他の色合いとかにも挑戦してみて良いと思うよ」

 天城さんが今着ている服も大変似合っているが、他の色合いの服だって似合うだろう。

「マリーちゃんって、もしかしてファッションセンスある感じの人?
 だったらさ、マリーちゃんも一緒に行こうよ!
 勿論、鳴上さんも一緒にさ!」

「ちょっと千枝、いきなり誘ったら迷惑かもしれないよ?
 鳴上さんたちにも用事あるんだろうし……」

 良い事を思い付いた、と言いたげな里中さんを天城さんは窘めた。

「私はマリーが良ければ構わないけど。
 ……マリーはどう?」

 マリーを見やると、マリーも少し戸惑いながら頷く。

「え……私も……別に……いいけど」

「よしなら決まり! ホラ、早く行こ!」

 マリーの言葉に里中さんは我が意を得たりとばかりに大きく頷いて、マリーの手を掴んで駅前のショップへと引っ張っていった。
 店の主なターゲット層は若い女性の様だが男性用の服もそこそこ売場面積を占めている。
 服の種類も、ゴスロリ程ではなくともフリルが少々施されたモノから、ユニセックスなモノ…………果ては映画に出てくるFBIが着込んでいそうなスーツなど、品揃えはかなり豊富な様だ。

 里中さんと天城さんが楽しそうに服を選ぶ傍らで、マリーは時折アドバイスを与えている。
 しかし、里中さんは無意識なのかほぼ確実に緑系統の色合いの服を選んでいるし、天城さんはシンプルなモノだと目に痛い位の真紅のものを選び、脱シンプルを目指すと目がチカチカしそうな程カラフルなモノを選んできたりと、中々“脱緑色”・“脱赤色”は果たせそうにない。

「……緑の人は、この組合わせが似合うんじゃない?」

 服を眺めていたマリーは、シャツとスカートをひょいと取ると里中さんに渡す。
 そして、天城さんにも同じ様に服を渡した。

「あっ、凄い! マリーちゃん、センス良いね!!」

「ホントだ、コレ良いかも!」

 どちらも緑や赤色ではないが、二人にとても似合っている。
 二人ともその組み合わせを気に入った様で、早速自分に合うサイズのモノを探し始めた。
 しかし、何故か里中さんの分はサイズが売り切れだった様で見付からず、里中さんは残念そうにガックリと肩を落とす。
 次は入荷されているかもしれないからまた来よう、と天城さんが励ますと、里中さんは元気良く頷いた。

「じゃあそん時はさ、またこの四人で来ようよ!」

 マリーが良ければ喜んで、と頷くと、マリーは戸惑った様に視線を彷徨わせる。

「え……私も? 何で?」

「何でって? 友達じゃん、あたしたち」

 あっけらかんと言う里中さんの言葉に、マリーはキョトンとした顔をする。

「……“ともだち”? 
 そうなの? いつから?」

 友達という言葉に実感が湧かなかったのか、マリーがそう訊ねると、里中さんはショックを受けたかの様に微かに呻いた。

「ひょっとしてマリーちゃん……楽しくなかった感じ!? 
 今日とか、この前とかも……め、迷惑だった?」

「え……迷惑じゃないよ。
 “ともだち”って言うから訊いただけ。
 ……“ともだち”になると、何か意味あるの?」

 慌てた様な里中さんに、マリーは首を横に振るが、“ともだち”自体があまりよく分かってないのか、マリーは不思議そうに首を傾げる。

「と、友達の意味? 
 う~ん……、説明とかどうすれば……」

 説明の為の言葉を探し、里中さんは頭を抱えた。

「友達になってみれば、分かるんじゃないかな?」

 そんなに難しく考えるモノではない。
 “ともだち”なんて、気が付けばなっているものだろう。
 “意味”なんて、無理に探さなくても、何と無く見付かるモノだ。

「うん……意味は、あると思うよ。
 一人じゃ無理だと思った事でも、二人なら出来る事もあるじゃない。
 ほら、今日だって、マリーちゃんのお陰で、新しい服見付けられたんだし」

 天城さんの言葉にマリーは俯き、首を横に振った。

「……わかんないよ。
 だって……私には……」

 マリーが何か言おうとしたその時、里中さんが唐突に顔を上げて、何かを思い出したかの様な声を出す。

「そうだ! 欲しいDVDあったんだ! 
 早く行かなきゃ、売り切れちゃう!」

「カンフー映画だったよね?
 多分、売り切れないと思うけど……」

 そう言う天城さんの背を軽く押して、里中さんは駆け出した。

「いいからいいから! 
 ほら、全員駆け足~っ!」

 天城さんも走って行く里中さんの後を追って行く。

「え……私も?」

 戸惑いこちらを見上げるマリーに、「その様だね」と頷いた。

「早く行こう。……それとも、嫌なのか?」

「意味わかんない……。
 別に、行きたくないとかじゃないけど……」

 嫌では無いが、里中さんの言う“ともだち”がよく分からない為戸惑っているのだろう、マリーは。
 大分先を走っている二人を見ながら、マリーは言葉を溢す。

「ね、あの人達ペルソナ使うんでしょ? 
 キミと一緒に、“真実を追う”人達……。
 一人じゃ無理でも二人なら出来るの? 
 “ともだち”だから……?」

 立ち止まって黙りこむマリーを急かす様に、里中さんは「早く早く」と両手を大きく振ってピョンピョンと飛び跳ねながらこちらを呼んでいる。
 何かしら納得のいく答えが見付かったのか、マリーは静かに頷いて里中さんたちの方へと駆けて行った。




◇◇◇◇◇




 里中さんたちの買い物に付き合い、先に帰る二人を見送ってから、マリーと二人で駅前をフラフラしていると、ある店の前でウロウロしている巽くんを見掛けた。
 ……巽くんが前をウロウロしているのは、……所謂ファンシーショップだ。

「巽くん、どうかした?」

 声を掛けると、巽くんは盛大にキョドッた。
 そして、初めて出会うマリーに首を傾げる。

「誰っスか、そいつ?」

 巽くんに答える前に、マリーは巽くんを指差しながらこちらを見上げてきた。

「……誰、このオッサン」

「オ、オッサン!?」

 酷い言われ様に、巽くんは目を見開く。
 まあ、巽くんはガタイが良いから歳上に見え易いのは分かるのだけれども……。

「マリー……彼は巽完二くん。
 私よりも一つ年下なんだから、オッサンは辞めてあげてくれ、頼むから。
 あっ、巽くん。この子はマリー、私の友達だ。
 ……巽くんはこんな所でどうしたんだ?」

「えっ、あー……、家の手伝いでこの近くまで手拭いを届けに来てたんスよ。
 で、その帰りに駅前に寄ってたんス。
 新作に使う毛糸を見繕ってたんで」

 そう言って巽くんは、手芸店の紙袋を持ち上げて見せてくれた。
 ……しかし、では何故ファンシーショップの前をウロウロしていたのだろうか。

「入らないのか?」

 親指でファンシーショップを指し示すと、巽くんは慌てた様に辺りを見回す。

「いや、そのっ、気になってたんスけど、流石に入るのは気が退けるっつーか……」

 要は入ってみたいけど、一人で入るその勇気が無かったらしい。
 ……仕方無い。
 まだ少し帰るまでに時間はあるし……。

「マリー、この店に興味はないか?」

「……何をするお店?」

 唐突に訊ねられたからか、コテンと首を傾げてマリーは訊ねてきた。

「そうだな……、可愛らしい小物とか、そういうモノを売ってる店かな。
 まあ、一度入ってみるのも面白いと思う」

「そうなの? ……君が言うのなら、入ってみたいかも」

 よし、マリーの許可も貰ったし……。

「よし、ああそうだ、巽くんも荷物持ちとして付き合ってくれないかな?」

「へっ、オレがっスか?」

「沢山買ったら、マリーや私だけでは持ち帰るのが難しいかもしれないからね。
 こういう店は入り辛いかもしれないが、なに、荷物持ちなら男性が入ったってそう不思議でも何でもないだろう。
 どうかな?」

 要は、荷物持ちを口実に入ってはどうか、と巽くんに提案しているのだ。
 勿論、乗るか乗らないかは巽くんの自由であるけれども。

「えっと、オレは……」

「……ここの店は、この店オリジナルの商品が有名らしくてな。
 フワッフワのテディベアとか、モッコモコの愛らしい縫いぐるみとか、そういうモノを多く取り扱っているそうだ。
 で、どうなんだ? 入るのか、入らないのか」

 巽くんはフワフワモコモコの魔力の前に見事に陥落した。
 尚、即答である。


 一頻り(特に巽くんが)堪能した後、(巽くんだけだが)買い物を済ませ、嬉しそうにファンシーショップの袋を抱えた巽くんとは(巽くんは自転車で沖奈まで来ていた為)駅前で別れ、マリーと二人で電車で稲羽へと帰った。





◆◆◆◆◆





 買い物帰りに商店街を通り掛かると、足立さんが困った様な顔をして、シャッターが下ろされた惣菜屋の前に立っていた。

「どうかしたんですか、足立さん?」

「あっ、悠希ちゃんか。
 いやねえ、折角早めに上がれたからさ、偶には何か作ろうかなって思ったんだけど、メンドくさくなっちゃって……。
 惣菜で済ませようかなって思ったんだけどね。
 田舎の店って閉まるの早過ぎだよ……」

「家に何かないんですか?」

「あー……煮物ならあるんだけどなー……、それも大量に……。
 参ったなー……」

 その時、例の老婦人が前を通り掛かった。
 もしかして、この辺りの人なのだろうか。

「あら、透ちゃんじゃない!
 お仕事どう? 頑張ってるの?」

 老婦人は足立さんを見るなり、詰め寄る様に近付いていく。

「あ……どうも。
 さっき上がった所で……」

「あらそうなの。
 あっ、そうだわ透ちゃん。
 夕飯は済んだのかしら?
 若いんだからしっかり食べなきゃダメよ。
 何だったらウチに来ない?
 透ちゃんが大好きな煮物、沢山用意しているの」

 その煮物が好きな『透ちゃん』とは、足立さんではなくこの老婦人の実の息子さんなのではないだろうか。
 ……何とも言えない気持ちになる。

「あー、いや、今日はそのー……」

 困った様な顔をした足立さんがこちらに目を留めて、妙案を思い付いた様な顔をした。

「今日は僕、彼女の家で食べる約束してて」

 そんな話は聞いていない。
 単純に老婦人の誘いを断る為の、口から出任せの口実だろう。

「上司のトコの子だから断れなくって。
 はは……お家にお邪魔するのは、また今度でお願いします」

「そう……残念ね。
 それじゃ、今度は絶対ね」

 そう言って老婦人は名残惜しそうにその場を去っていった。
 老婦人の姿が見えなくなった途端、足立さんはげんなりとした顔をして溜め息を吐く。

「……参るよなぁ。
 他人の家でサシで夕飯とか、気不味いでしょー。
 大体、あの煮物蓮根が硬すぎで苦手なんだよね。
 っと、ごめんね、ダシに使っちゃってさ。
 あーでも言っとかないと、あの人しつこいから。
 でも、お陰で助かったよ」

 あの老婦人の所で夕飯をご馳走になるのは、自分でもちょっと嫌だ。
 と、言うよりも。
 自分を通して自分ではない『誰か』を見ていて、しかも自分の事自体はその『誰か』の代替品程度にしか思っていない相手は、あまり好きにはなれそうにない。

「いっそ本当に来ちゃいますか?
 どうせ、作るのは今からですし。
 足立さん一人の分位なら、増えても大丈夫ですよ」

「えっ、堂島さん家に?
 君も意外とオープンな感じなんだねー。
 あれ、でも堂島さんまだ仕事してるし……。
 って事は僕らだけ?
 ……何か変じゃない?」

 まあ、確かに。
 それはそれで足立さん的にも気不味いかもしれない。
 だから、別に無理にとは思っていないが。

「まあ、そうかもしれないんで無理にとは言いませんけど。
 でも、足立さんが不健康な食生活とか空腹とかで倒れたりしたら、叔父さんの負担も倍増なんで、その予防線みたいなモノです」

 前に足立さんの食事生活が不健康だ、と溢していたから、叔父さんも結構気には掛けているのだろう。

「はー……君って変わってるよね。
 あ、でも、確かにあの煮物とかよりも君の料理の方が美味しいのは間違いないだろうけど。
 んー……でも、今日はいいや、また今度って事で。
 ま、誘ってくれてありがとね」

「そうですか」

 まあ、そう言う事ならば仕方がない。
 今度、家に叔父さんが連れてきた時にでも、ご馳走するだけだ。

「でもホント、君位の歳で料理出来るのって、凄いよね。
 僕なんて、その位の時は料理の“り”の字も知らなかったからさ」

「どんな高校生だったんですか?」

 足立さんの高校生時代、か。
 想像出来そうで、あまり想像は出来なかった。
 どういう友人が居たのだろう?
 どういう風に毎日を過ごしていたのだろう?

「勉強ばっかだったかな。
 それなりの進学校だったからさ、成績が全てだったし。
 まあ、でも嫌って訳でもなかったよ。
 成績なんて、やれば上がるんだし。
 親も、成績が良かったら何も言わなかったしね。
 ま、でも……。
 そんなんで上手く行くのは、所詮は学校の中だけなんだよね」

 社会では勉強が出来れば良いという訳ではない。
 対人関係とか、それ以上の柵とか、そういう物がやはり多いのだろう。
 両親を見ていると、そうなんだろうな、とは思っていた。

「やっぱり働き始めると、大変ですか?」

「そりゃあね。
 仲間内での泥の擦り付けあいとか、足の引っ張りあいとか、……ま、大人は大変だって事さ」

 そう言って足立さんは笑った。
 足立さんは昔は本庁……要はエリートコースに居た人なのだと、聞いた事がある。
 その時に色々あったから、稲羽に来たのかもしれない……。
 トンでもなく狭き門である国家試験を潜り抜けて、エリートとして頑張ってきたのなら、少なくとも稲羽の様な田舎町に来たのは足立さんからすると全くの不本意であろう。

「けどまあ、最近は結構、楽しいかな。
 僕にもやれる事があるって感じで。
 ……ハハッ、恥ずかし」

 そう言って足立さんは笑った。
 ……足立さんなりに、遣り甲斐を見出だしているのだろう。
 それは良い事だ。
 遣り甲斐を見付けられるなら、それに越した事は無い。
 足立さんとはそこで別れて、家に帰った。





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