本当の“家族”
◆◆◆◆◆
【2011/06/02】
今日は朝から雨が降り続いている……。
雨は明後日の朝方まで降り続く予定らしい。
恐らくはこの雨が上がった時に、『霧』も出るだろう。
今の所、誰かが失踪した等との噂は聞こえてこない為、恐らくは【犯人】の動きは無いのだろうが……。
兎も角、注意は払わなければならないだろう。
……今日は巽くんたっての希望で、あちらの世界での戦闘の肩慣らしを行う事になっている。
早く準備をして、ジュネスに行かなくてはならない。
後は、ペルソナの調整を行うだけだ。
そう思って、商店街にあるベルベットルームへと繋がる扉を開けた。
……………………
………………
…………
……
目を開けると、もう見慣れてきた蒼い空間だった。
…………。
……、また、マリーの姿が見えない。
そして、床に便箋が落ちている。
……物凄く、嫌な予感がする……。
……マーガレットさんは、微笑んでいる……。
……イゴールさんからは、僅かにフイッと視線を逸らされた。
…………。
仕方無い、拾うか……。
『 【飛べ!】
どこへ行くのかって?
ツマンナイこと聞かないで
地図なんか要らない
コンパスはとっくに捨てた
アタシの|ココロ《パトス》が道を示すわ
アタシは一人で歩いていく
寂しくないかって?
冗談! 影だってジャマなのに
自由 それがルール!
できるものなら縛ってみたら?
アンタの前で華麗に死んでみせる
アタシの翼は 誰にも折れない! 』
……また図らずも目に入ってしまった文面に、思わず居た堪らなさを感じて視線を彷徨わせた……。
……マリーは、何と言うのか……独創的なポエマーだなぁ……。
「……わあああああっっ!!」
思わず遠い目をしていると、前と同じくマリーが慌てて駆け込んできて、便箋をひったくる。
「読んだっ!? また読んだっ!?
どうして!? ななな何なのキミッ!
読まないでって言ったじゃん!
それがルール、キミに自由なんてない!
…………。
きらいばかるーるやぶりむし。
有り得ないからッ!」
マリーは顔を真っ赤にして、感情的に言葉を並べ立てた。
……マリーには同情する。
もし、あのポエムを何かの気の迷いで自分が書いたのだとしたら、誰かに見られてしまったら、恥ずかしさの余り穴を掘って埋まりたくなるだろうから……。
「おっかしーなあ……。
ちゃんとしまったのに……」
ブツブツ呟きながら便箋をしまうマリーを、マーガレットさんが微笑みながら見ていた……。
多分……マーガレットさんも読んだんだろうな、あのポエム……。
……ポエムの事は取り敢えず脇に置いて、ペルソナの調整を行ってから、何とも言えない気持ちのままベルベットルームを後にした。
……
…………
………………
……………………
▲▽▲▽▲▽
……………………
………………
…………
……
テレビに入ると、早速クマが出迎えてくれた。
そしてクマが言う事には、巽くんのあの大浴場に強力なシャドウが居座っているらしい。
天城さんの時と同じだ。
そして、これまた天城さんの時と同じく、その強力なシャドウは最深部に居るのだと言う。
そのシャドウ討伐も目標にしながら、巽くんの為の肩慣らしは始まった。
◇◇◇◇◇
巽くんのペルソナ、『タケミカヅチ』は、強力な物理攻撃と電撃属性の魔法を使う、魔法よりは物理寄りのパワーファイターだ。
同じくパワーファイター寄りの里中さんよりも、一つ一つの動きの速さこそ劣るが、それを上回る力強さと、何よりも頑丈さを兼ね備えている。
巽くん自身の頑強さも相俟って、一撃で高火力を叩き出せるタイプだ。
道中戦ったシャドウを、千切っては投げる様な奮闘ぶりは、流石暴走族を一人で潰しただけの事はある、と思わず唸ってしまう程だった。
道中には、以前巽くんを救出しに来た時には遭遇しなかったシャドウも現れた。
どうやら、雨の日は『霧』が晴れた時程ではないがシャドウ達が活発になっているらしく、シャドウの中には雨の日位にしか滅多に出てこない様な、所謂レアなモノも居るのだそうだ。
『霧雨兄弟の四男』と『霧雨兄弟の四女』はスモッグが形になった様なシャドウで、どちらも氷結属性と万能属性以外の攻撃は全て無効化するという厄介な性質を持っていた。
尤も、弱点さえ突ければ、直ぐ様殲滅出来たのだが。
ホラー映画やホラゲにでも出てきそうな『雨女の壺』の攻撃は受けた相手から冷静さを奪うモノで、それを食らった里中さんがまるでバーサーカーの様になって敵に突っ込んでいきそうになったのを止めたりしなくてはならず、その点は手こずった。
しかしこのシャドウも、弱点の電撃属性を突けば直ぐに制圧出来たのであった。
そんなこんなで、初見のシャドウ達もそれなりに大きな問題はなく倒していき、とうとう最深部の扉の前まで辿り着いた。
皆の気力・体力とも問題無い。
目線で合図してから大扉を押し開くと、部屋の中央に鎮座していたシャドウが、それに気が付いた様にその巨体を揺らす。
見た目だけならこの大浴場で散々戦った『収賄のファズ』に似ているが、元々大きな『収賄のファズ』よりも格段に大きい。
まるで巨人だ。
「ムムッ、ソイツは『狭量の官』!
アルカナは《法王》クマ!!」
そうクマが叫ぶとほぼ同時に、強烈な烈風が部屋中を薙ぎ払う。
「ぐッ……!」
後ろに居たクマと巽くんは何とか無事だが、強烈な一撃に里中さんと天城さんは膝を付いてしまう。
花村はジライヤは疾風属性に耐性を持っているし、自分は降魔中のペルソナが偶々疾風属性に耐性を持つペイルライダーであった為、何とか軽微なダメージで済んだ。
「里中さん、天城さん、立てる!?」
幸い天城さんにとっても里中さんにとっても、膝を付きこそしたものの疾風属性は弱点では無かった事も奏効してか深刻なダメージにはなっておらず、直ぐ様二人とも立ち上がる。
「花村と里中さんは魔法使ってみて、耐性を調べて!
天城さんは回復優先で魔法を、巽くんは風を食らわない様に警戒して魔法!」
兎も角は、敵の耐性を調べなくてはならない。
またあの烈風が来たら、疾風属性が弱点かつ回避能力には難がある巽くんは一溜まりも無いだろうから、迂闊に接近戦に持ち込ませる訳にはいかないだろう。
ペルソナをペイルライダーから《永劫》のナーガラージャに切り替え、《マハタルカジャ》で全員の攻撃力を高めてから、《ジオンガ》を叩き込む。
身を撃ち抜いた雷撃に、シャドウは倒れた。
どうやら電撃属性は弱点らしい。
倒れこんだシャドウは、続けざまに叩き込まれた烈風や業火や冷気に削られ、タケミカヅチの放った《ジオンガ》で完全に気絶した。
「よし、今だ! 一気に攻め落とせ!!」
このシャドウは、巨体故にその体力は高く防御力こそそこそこ高いものの、耐性自体は貧弱と言っても良い。
ペルソナをイザナギに切り換え、《ラクンダ》で気絶しているシャドウの防御力を下げる。
そこに先ず花村とジライヤが飛び込んだ。
風を纏ったジライヤの一撃がシャドウの仮面に叩き込まれ、そのジライヤの体を駆け昇って、倒れ伏しても尚厚みだけでも二メートルはあるシャドウの巨体の上を取った花村が投げ放った山刀が、ジライヤの力を受けて風を纏いながらシャドウの巨体に突き刺さる。
そして、続いてトモエに投げ上げられた里中さんが落下する勢いも乗せた全力の脳天落としを決め、間を置かずにトモエの黒点撃が更に叩き込まれ、シャドウの仮面に微かな罅が入った。
「二人とも、退いて!」
と、天城さんの声に花村と里中さんがシャドウから距離を取るや否や、シャドウの巨体全体が炎の渦に飲み込まれ、巨体がそのダメージで跳ねた振動が床を揺らす。
「先輩、いっちょぶちかましてやりましょう!」
巽くんが気合いと共に叩き込んだ《ジオンガ》は、花村が突き刺した山刀を伝ってシャドウの体の奥までダメージを与え、イザナギの雷撃を纏った刃がそれに追随した。
それらの攻撃の余りのダメージに、気絶から醒めたシャドウは、床を激しく揺らしながら起き上がり、手にしていた最早大砲の様な大きさの拳銃を、天城さんへと向け、その引き金を引いた。
「させるかァッ!!」
現実に当て嵌めれば何mm弾になるのかも考えたく無い程巨大なその銃弾を、イザナギの刀の腹で受け止める。
物理への耐性は無いイザナギは、その一撃を殺し切れずに後ろへと弾き飛ばされ、床に叩き付けられた。
「鳴上、大丈夫か!?」
焦った様な花村の声に、頷いて返す。
大丈夫、ではあるが、随分と重い一撃だった。
自己強化能力を使った素振りは見受けられなかったから、あのシャドウは素の攻撃力が非常に高いタイプなのだろう。
物理攻撃に耐性は無いとは言えそこそこ以上に防御力のあるイザナギが防御に徹していても、それすらも押し切られる様な攻撃力……。
非常に厄介だ。
そこそこ以上の防御力と高い体力故のタフさと、強化するまでも無く高い物理・魔法の攻撃力……。
下手に戦闘を長引かせれば、手酷い傷を負いかねない。
ここは短期で一気に決めるしかなさそうだ。
幸い電撃属性でダウンを取れるのだから、攻め様はある。
「もう一度、私がヤツのダウンを取る!
皆はその時一気にヤツを削ってくれ!!」
そして、現在召喚可能なペルソナの中で最も威力が高い電撃魔法を放てる《女教皇》のパールヴァティにペルソナを切り換え、全力を込めた《ジオンガ》をシャドウに食らわせる。
パールヴァティの持つ電撃属性の攻撃の威力を引き上げるスキルの効果も手伝って、雷撃はナーガラージャやタケミカヅチの放つそれよりも鋭さと威力が段違いに引き上げられ、それを仮面目掛けて撃ち込まれたシャドウは、その一撃で轟音を立てながら床へと倒れ伏した。
空かさず攻撃を次々に叩き込まれ、シャドウは悲鳴を上げるが、それでもまだ沈まない。
ボロボロになり、身体のあちこちから煙を立ち上らせたり焦げた匂いを漂わせながらもシャドウは立ち上がる。
だが既に、その仮面には無数の罅が走っている。
もう一押しだ。
シャドウが抵抗しているつもりなのか、その手にしている巨大な手錠を闇雲に振り回したが、それをイザナギとジライヤとトモエの三人掛かりで押さえ込まれ、逆に動きを拘束される。
そして、そこに。
「これで、止めだァッ!!」
激しく電撃を迸らせるタケミカヅチの拳がシャドウの罅だらけの仮面に叩き付けられ、仮面を粉砕されたシャドウは悲鳴を上げて塵へと還っていった。
……
…………
………………
……………………
▲▽▲▽▲▽
巽くんの肩慣らしと『狭量の官』の討伐を終えてテレビの向こうから帰還した後、その場で解散して各自帰宅した。
あちらの世界での活動も大分熟れてきたからか、あちらでシャドウ相手に散々暴れまわっていても、活動を始めた当初に感じていた様な極度の疲労は感じ難くなっている。
今夜なんて、中島くんのお宅に家庭教師のアルバイトをやりに行く余裕すらあった。
それは、ペルソナを使って戦う事に慣れてきたからなのか、それともペルソナの力と共に自分自身も成長出来ているという事だからなのか……。
どちらにせよ、成長している事には変わりはない、か。
それを実感しながら、その日は早めに眠った。
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【2011/06/02】
今日は朝から雨が降り続いている……。
雨は明後日の朝方まで降り続く予定らしい。
恐らくはこの雨が上がった時に、『霧』も出るだろう。
今の所、誰かが失踪した等との噂は聞こえてこない為、恐らくは【犯人】の動きは無いのだろうが……。
兎も角、注意は払わなければならないだろう。
……今日は巽くんたっての希望で、あちらの世界での戦闘の肩慣らしを行う事になっている。
早く準備をして、ジュネスに行かなくてはならない。
後は、ペルソナの調整を行うだけだ。
そう思って、商店街にあるベルベットルームへと繋がる扉を開けた。
……………………
………………
…………
……
目を開けると、もう見慣れてきた蒼い空間だった。
…………。
……、また、マリーの姿が見えない。
そして、床に便箋が落ちている。
……物凄く、嫌な予感がする……。
……マーガレットさんは、微笑んでいる……。
……イゴールさんからは、僅かにフイッと視線を逸らされた。
…………。
仕方無い、拾うか……。
『 【飛べ!】
どこへ行くのかって?
ツマンナイこと聞かないで
地図なんか要らない
コンパスはとっくに捨てた
アタシの|ココロ《パトス》が道を示すわ
アタシは一人で歩いていく
寂しくないかって?
冗談! 影だってジャマなのに
自由 それがルール!
できるものなら縛ってみたら?
アンタの前で華麗に死んでみせる
アタシの翼は 誰にも折れない! 』
……また図らずも目に入ってしまった文面に、思わず居た堪らなさを感じて視線を彷徨わせた……。
……マリーは、何と言うのか……独創的なポエマーだなぁ……。
「……わあああああっっ!!」
思わず遠い目をしていると、前と同じくマリーが慌てて駆け込んできて、便箋をひったくる。
「読んだっ!? また読んだっ!?
どうして!? ななな何なのキミッ!
読まないでって言ったじゃん!
それがルール、キミに自由なんてない!
…………。
きらいばかるーるやぶりむし。
有り得ないからッ!」
マリーは顔を真っ赤にして、感情的に言葉を並べ立てた。
……マリーには同情する。
もし、あのポエムを何かの気の迷いで自分が書いたのだとしたら、誰かに見られてしまったら、恥ずかしさの余り穴を掘って埋まりたくなるだろうから……。
「おっかしーなあ……。
ちゃんとしまったのに……」
ブツブツ呟きながら便箋をしまうマリーを、マーガレットさんが微笑みながら見ていた……。
多分……マーガレットさんも読んだんだろうな、あのポエム……。
……ポエムの事は取り敢えず脇に置いて、ペルソナの調整を行ってから、何とも言えない気持ちのままベルベットルームを後にした。
……
…………
………………
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▲▽▲▽▲▽
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テレビに入ると、早速クマが出迎えてくれた。
そしてクマが言う事には、巽くんのあの大浴場に強力なシャドウが居座っているらしい。
天城さんの時と同じだ。
そして、これまた天城さんの時と同じく、その強力なシャドウは最深部に居るのだと言う。
そのシャドウ討伐も目標にしながら、巽くんの為の肩慣らしは始まった。
◇◇◇◇◇
巽くんのペルソナ、『タケミカヅチ』は、強力な物理攻撃と電撃属性の魔法を使う、魔法よりは物理寄りのパワーファイターだ。
同じくパワーファイター寄りの里中さんよりも、一つ一つの動きの速さこそ劣るが、それを上回る力強さと、何よりも頑丈さを兼ね備えている。
巽くん自身の頑強さも相俟って、一撃で高火力を叩き出せるタイプだ。
道中戦ったシャドウを、千切っては投げる様な奮闘ぶりは、流石暴走族を一人で潰しただけの事はある、と思わず唸ってしまう程だった。
道中には、以前巽くんを救出しに来た時には遭遇しなかったシャドウも現れた。
どうやら、雨の日は『霧』が晴れた時程ではないがシャドウ達が活発になっているらしく、シャドウの中には雨の日位にしか滅多に出てこない様な、所謂レアなモノも居るのだそうだ。
『霧雨兄弟の四男』と『霧雨兄弟の四女』はスモッグが形になった様なシャドウで、どちらも氷結属性と万能属性以外の攻撃は全て無効化するという厄介な性質を持っていた。
尤も、弱点さえ突ければ、直ぐ様殲滅出来たのだが。
ホラー映画やホラゲにでも出てきそうな『雨女の壺』の攻撃は受けた相手から冷静さを奪うモノで、それを食らった里中さんがまるでバーサーカーの様になって敵に突っ込んでいきそうになったのを止めたりしなくてはならず、その点は手こずった。
しかしこのシャドウも、弱点の電撃属性を突けば直ぐに制圧出来たのであった。
そんなこんなで、初見のシャドウ達もそれなりに大きな問題はなく倒していき、とうとう最深部の扉の前まで辿り着いた。
皆の気力・体力とも問題無い。
目線で合図してから大扉を押し開くと、部屋の中央に鎮座していたシャドウが、それに気が付いた様にその巨体を揺らす。
見た目だけならこの大浴場で散々戦った『収賄のファズ』に似ているが、元々大きな『収賄のファズ』よりも格段に大きい。
まるで巨人だ。
「ムムッ、ソイツは『狭量の官』!
アルカナは《法王》クマ!!」
そうクマが叫ぶとほぼ同時に、強烈な烈風が部屋中を薙ぎ払う。
「ぐッ……!」
後ろに居たクマと巽くんは何とか無事だが、強烈な一撃に里中さんと天城さんは膝を付いてしまう。
花村はジライヤは疾風属性に耐性を持っているし、自分は降魔中のペルソナが偶々疾風属性に耐性を持つペイルライダーであった為、何とか軽微なダメージで済んだ。
「里中さん、天城さん、立てる!?」
幸い天城さんにとっても里中さんにとっても、膝を付きこそしたものの疾風属性は弱点では無かった事も奏効してか深刻なダメージにはなっておらず、直ぐ様二人とも立ち上がる。
「花村と里中さんは魔法使ってみて、耐性を調べて!
天城さんは回復優先で魔法を、巽くんは風を食らわない様に警戒して魔法!」
兎も角は、敵の耐性を調べなくてはならない。
またあの烈風が来たら、疾風属性が弱点かつ回避能力には難がある巽くんは一溜まりも無いだろうから、迂闊に接近戦に持ち込ませる訳にはいかないだろう。
ペルソナをペイルライダーから《永劫》のナーガラージャに切り替え、《マハタルカジャ》で全員の攻撃力を高めてから、《ジオンガ》を叩き込む。
身を撃ち抜いた雷撃に、シャドウは倒れた。
どうやら電撃属性は弱点らしい。
倒れこんだシャドウは、続けざまに叩き込まれた烈風や業火や冷気に削られ、タケミカヅチの放った《ジオンガ》で完全に気絶した。
「よし、今だ! 一気に攻め落とせ!!」
このシャドウは、巨体故にその体力は高く防御力こそそこそこ高いものの、耐性自体は貧弱と言っても良い。
ペルソナをイザナギに切り換え、《ラクンダ》で気絶しているシャドウの防御力を下げる。
そこに先ず花村とジライヤが飛び込んだ。
風を纏ったジライヤの一撃がシャドウの仮面に叩き込まれ、そのジライヤの体を駆け昇って、倒れ伏しても尚厚みだけでも二メートルはあるシャドウの巨体の上を取った花村が投げ放った山刀が、ジライヤの力を受けて風を纏いながらシャドウの巨体に突き刺さる。
そして、続いてトモエに投げ上げられた里中さんが落下する勢いも乗せた全力の脳天落としを決め、間を置かずにトモエの黒点撃が更に叩き込まれ、シャドウの仮面に微かな罅が入った。
「二人とも、退いて!」
と、天城さんの声に花村と里中さんがシャドウから距離を取るや否や、シャドウの巨体全体が炎の渦に飲み込まれ、巨体がそのダメージで跳ねた振動が床を揺らす。
「先輩、いっちょぶちかましてやりましょう!」
巽くんが気合いと共に叩き込んだ《ジオンガ》は、花村が突き刺した山刀を伝ってシャドウの体の奥までダメージを与え、イザナギの雷撃を纏った刃がそれに追随した。
それらの攻撃の余りのダメージに、気絶から醒めたシャドウは、床を激しく揺らしながら起き上がり、手にしていた最早大砲の様な大きさの拳銃を、天城さんへと向け、その引き金を引いた。
「させるかァッ!!」
現実に当て嵌めれば何mm弾になるのかも考えたく無い程巨大なその銃弾を、イザナギの刀の腹で受け止める。
物理への耐性は無いイザナギは、その一撃を殺し切れずに後ろへと弾き飛ばされ、床に叩き付けられた。
「鳴上、大丈夫か!?」
焦った様な花村の声に、頷いて返す。
大丈夫、ではあるが、随分と重い一撃だった。
自己強化能力を使った素振りは見受けられなかったから、あのシャドウは素の攻撃力が非常に高いタイプなのだろう。
物理攻撃に耐性は無いとは言えそこそこ以上に防御力のあるイザナギが防御に徹していても、それすらも押し切られる様な攻撃力……。
非常に厄介だ。
そこそこ以上の防御力と高い体力故のタフさと、強化するまでも無く高い物理・魔法の攻撃力……。
下手に戦闘を長引かせれば、手酷い傷を負いかねない。
ここは短期で一気に決めるしかなさそうだ。
幸い電撃属性でダウンを取れるのだから、攻め様はある。
「もう一度、私がヤツのダウンを取る!
皆はその時一気にヤツを削ってくれ!!」
そして、現在召喚可能なペルソナの中で最も威力が高い電撃魔法を放てる《女教皇》のパールヴァティにペルソナを切り換え、全力を込めた《ジオンガ》をシャドウに食らわせる。
パールヴァティの持つ電撃属性の攻撃の威力を引き上げるスキルの効果も手伝って、雷撃はナーガラージャやタケミカヅチの放つそれよりも鋭さと威力が段違いに引き上げられ、それを仮面目掛けて撃ち込まれたシャドウは、その一撃で轟音を立てながら床へと倒れ伏した。
空かさず攻撃を次々に叩き込まれ、シャドウは悲鳴を上げるが、それでもまだ沈まない。
ボロボロになり、身体のあちこちから煙を立ち上らせたり焦げた匂いを漂わせながらもシャドウは立ち上がる。
だが既に、その仮面には無数の罅が走っている。
もう一押しだ。
シャドウが抵抗しているつもりなのか、その手にしている巨大な手錠を闇雲に振り回したが、それをイザナギとジライヤとトモエの三人掛かりで押さえ込まれ、逆に動きを拘束される。
そして、そこに。
「これで、止めだァッ!!」
激しく電撃を迸らせるタケミカヅチの拳がシャドウの罅だらけの仮面に叩き付けられ、仮面を粉砕されたシャドウは悲鳴を上げて塵へと還っていった。
……
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巽くんの肩慣らしと『狭量の官』の討伐を終えてテレビの向こうから帰還した後、その場で解散して各自帰宅した。
あちらの世界での活動も大分熟れてきたからか、あちらでシャドウ相手に散々暴れまわっていても、活動を始めた当初に感じていた様な極度の疲労は感じ難くなっている。
今夜なんて、中島くんのお宅に家庭教師のアルバイトをやりに行く余裕すらあった。
それは、ペルソナを使って戦う事に慣れてきたからなのか、それともペルソナの力と共に自分自身も成長出来ているという事だからなのか……。
どちらにせよ、成長している事には変わりはない、か。
それを実感しながら、その日は早めに眠った。
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