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未知への誘い

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 気が付けばいつの間にか、自分の身体すら見失ってしまいそうな、何処までも深い霧の中に居た。
 白く深い霧の中は、まるで眩しい光の中にでもいるかの様にも思えてくる。
 そんな白の世界に、たった一人きりだ。
 多分、夢だろう。
 しかし、何故こんな霧の夢を見ているのかはよく分からない。
 どうせ見るなら満漢全席を堪能する夢とかの方が良いのに。

 ふと見下ろした足元は、レンガの様なタイルの様な……不思議な赤い素材で出来ていた。
 赤い道は何処かに続いている様だけれど、あまりにも深い霧の中、その道の先は何も見えない。
 この赤い道は水の上に浮かんでいるのだろうか。
 道の外には水しかない。
 水深は少なくとも腕の長さよりはあるみたいだ。
 川……にしては水の流れを感じないので、湖や沼なのだろうか。

 奇妙な場所だし、言葉にし難い違和感を感じるが、それでも不思議とあまり恐いとは思わなかった。
 尤も、長居するのはご免被りたいが。

 足元に注意を向けながら赤い道を辿って行くと、不意に深い霧の向こうに気配を感じた。


『【真実】が知りたいって……?』


 何者かの声が、霧の向こうから響く様に聴こえてくる。
 男のものなのか、或いは女のものなのかは分からない。
 子供特有の甲高さはないから、ある程度は歳を取った人のものなのだろうけれど。

『それなら……捕まえてごらんよ……』

 何故だか良く分からないが、この声の主を捕まえなくてはならないという思いに駆られた。
 追う必要性も理由も、声が言っている【真実】とやらも……それに全く心当たり等は無いのだが……。
 それでも、この声の主は逃してはならない。
 胸の内で“何か”がそう急かしていた。

 相変わらず霧の先は何も見えないが、胸に巣食う衝動のままに、声が聴こえた方向を見失わない内に駆け出す。
 暫く走っていると、壁に行き当たった。
 壁の向こうに何者かの気配を感じる。
 恐らくは声の主だ、と己の直感がそう囁いた。
 迂回路は見当たらない。
 ならばいっそ体当たりで、と壁に手をつけると、不意にその壁はそもそも存在して居なかったかの如く消え失せる。

 消え去った壁の向こうは、また一段と深い霧に覆われていた。
 その中に躊躇わずに踏み込んでいく。

『追いかけてくるのは……君か……。
 ふふふ……やってごらんよ……』

 深い霧の中に誰かの人影は見えるが、何故かその位置はボヤけている。
 それでも伸ばした左手の指先に何かが掠めた。

『へえ……この霧の中なのに多少は見える様だね……。
 成る程……確かに……興味深い素養だ……。
 でも……簡単には捕まえられないよ……。
 求めているものが【真実】なら、尚更ね……』

 更に踏み込んで人影に右手を伸ばす。
 しかし確かに人影を捉えた筈なのに、そこには何も無く、指先はただ霧を掴んだだけだ。

 いつの間にか有り得ない程深くなった霧が全てを覆い隠していく。
 もう、人影はおろか自分の位置ですら捉えきれない。
 そんな中、声だけが霧の中に響いている。

『誰だって、見たいものだけを、見たい様に見る……。
 そして霧は何処までも深くなる……。
 いつか……また会えるのかな……。
 こことは……別の場所で……。
 フフ、君に会えるその時を、楽しみに待ってるよ……』

 全方位から響いてくる様な声を最後に、視界も意識も真白に塗り潰された。





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