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自称特別捜査隊

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 天城さんが失踪してから三日目。
 里中さんが『シャドウ』を受け入れたその翌日、里中さんを含めた三人で再びテレビの向こうへと訪れた。

 万が一を考えてもう一日は里中さんの休養にあてたかったのが本音ではあるものの、『もう回復したしじっとしていると逆に気が滅入ってしまう』、という里中さんの意見を無視する訳にもいかず、実際体調面に問題はなさそうであったので、昨日の今日ではあるが早速天城さんの救助に向かう事になった。

 里中さんの『ペルソナ』━━━トモエは物理攻撃を得意とする生粋のアタッカーの様だ。
 トモエ……恐らくは木曾義仲と共に戦ったかの有名な巴御前が元となっているのだろう。
 それを言うのならば花村のジライヤも、江戸時代の創作話に出てくる義賊児雷也が元なのだろうけれど。
 しかし、何故『ペルソナ』が歴史上の有名人や神話や創作話の中の登場人物を模しているのだろう。
 ……まぁ、考えた所で早々に答えが出る様な物ではないのだろうけれども。

 城の中の構造は昨日訪れた時とはやや異なる様だ。
 昨日はあった筈の通路や部屋がなく、代わりに新たな部屋や通路になっている。
 クマ曰く、『心』とは常に同じに定まっている物ではない為、変化してしまうのは仕方無い事なのだそうだ。
 ……つまりは、入る度に地形が変わる『不思議なダンジョン』と同じ、という事なのだろう。
 ならば通路等の構造を把握してもあまり意味はない。
 マッピングしようと持参した紙とペンの出番は無さそうだ。

 特にこれといった問題はなく次々とフロアを踏破していく。
 天城さんがいるのはクマの見立てでは最上階らしい。
 後どれ程登らなくてはならないのかは分からないが、中々良いペースだと思われる。
 城の中を徘徊する様々な姿の《シャドウ》は、花村の『シャドウ』や里中さんの『シャドウ』と比べれば然程強くない。
『ペルソナ』に頼らずとも、武器による攻撃でも凌げる程だ。
『ペルソナ』を使うとどうしても疲労が溜まってしまう為、有り難い事ではある。
 勿論、だからと言って油断出来る訳でもないのだけれども。
 現在の武器は模造刀に模造短刀、それに普通の革靴。
 武器としては些か頼りない。
 今度何か調達しといた方が良いだろう。
 ……まず調達先から探さなくてはならないだろうが。



◇◇◇◇◇



 ━━『もうすぐ王子様が私を迎えに来てくれます』
 ━━『ふふ……私は何時までもお待ちしてます……何時までも、何時までも……』

 ━━いらっしゃいませ。
 ━━本日は天城屋旅館にお越し頂き、誠にありがとうございます。
 ━━こちらがお部屋でございます。
 ━━何か御用がございましたら、何時でもお申し付け下さい

 ━━『王子様、早く私を連れ去って!』
 ━━『何処か……私の事なんか誰も知らない世界に……』


 時折姿は見えないが、天城さんの声が響いてくる。
 これは……あの商店街で聞こえてきた小西先輩達の声と同じく、『シャドウ』の……天城さんの心に押し込められていた声なのだろうか。

「王子様」を待ち望む声、旅館の手伝い中らしき天城さんの声、昨日聞いた、里中さんへの思い、
 ……そして、『シャドウ』が言っていた《王子様探し》。

 ……これは俗に言う所の、『シンデレラ・コンプレックス』━━《依存型逃避願望》、というやつだろうか。
 勿論決めつけるのは早計だし、人の心理なんて簡単に何かに当て嵌める事が出来る程単純な物ではないのだからそれだけではないだろうけれども。
 とは言え、考えておく事が無意味である訳でも無い。
 天城さんが『シンデレラ・コンプレックス』を抱いているという前提で考えて。
「王子様」に望むのは、『自分の事を知らない場所へ連れ去って貰う事』……つまりは『現状』からの逃避という事だろうか。
 天城さんが逃避したい“現状”というのは……推測するに、実家の旅館の事なのだろうか?
 昨日の声から察するに、天城さんが里中さんへかなり心を寄せているのは明白な事実である。
 ならば、依存している相手である里中さんが天城さんにとっての「王子様」に当たる筈ではあるのだが、そうではない様だ。
 天城さんが求める「王子様」が里中さんだとするのなら、態々《王子様探し》などする必要はないのだから。
 尤も、「王子様」とやらに求めるものが、現状からの解放であるのならば、里中さんには限りなく不可能に近い話であるだろうから仕方がないだろうけれど。
 ……いや、結論を急ぎすぎている、か。
 幸い思索に費やす時間の猶予はあるのだから。
 今は……天城さんの下へ辿り着く事を最優先に考えよう。




◇◇◇◇◇




「この扉の向こうに誰か居るクマ!」

 大きな扉の前に辿り着いた時、クマがそう警告してきた。
 誰か。天城さんか……その『シャドウ』だろうか。
 どちらにせよ、この先に進むしかない。
 扉を開け放った先で待っていたのは、マヨナカテレビに映っていた天城さん……の『シャドウ』だ。

『うふふ……ふふ、あはははは!
 あらぁ、サプライズゲスト?
 どんな風に絡んでくれるの?
 それとも、もしかして王子様?
 なら、どうか私を助けてください!
 私は囚われの身なんです!』

 豪奢なドレスに身を纏い胸の前で祈る様に手を組む『シャドウ』は、それだけを見ればまるで夢見る乙女の様ではあるが、ニヤニヤと浮かべた笑みがそれを台無しにする。
 何か仕掛けてくるかも気なのかもしれない……。
 今にも飛び出しそうな里中さんを手で制し、『シャドウ』の出方を窺う。

『んふふっ、王子様ならきっと……きっと、どんな困難な道のりも乗り越え私を解き放ってくれる筈……。
 勿論、こんな衛兵に負ける筈なんてありませんよね?』

『シャドウ』が手を挙げると、濁った闇の塊の様な何かが現れ、それは騎士の様な異形の姿を取って目の前に立ちはだかった。
 足が無く宙に浮いた馬の様なものに跨がり、黒い甲冑を身に付けて巨大な騎乗槍を携えたその《シャドウ》は、天城さんの『シャドウ』を守る様にランスを構える。
 ……姫を守るナイト、のつもりか。

『んふふ、盛り上がって参りましたっ!
 さてさて、私は引き続き王子様探し!
 一体何処に居るのでしょう!
 こう広いと、期待も高まる反面、中々見付かりませんね~!
 あ、それとも、この霧で隠れんぼ?
 よ~し、捕まえちゃうぞ!
 それじゃ、再突撃、行ってきます!
 うふ、王子様、首を洗って待ってろヨ!』

 そう言って天城さんの『シャドウ』は奥の階へと去っていった。
 追い掛けようにも騎士の《シャドウ》がそれを阻む。
 ……こいつを倒すしかない様だ。

 騎士の《シャドウ》は……見るからに固そうだ。
 物理攻撃に耐性があるのかは分からないが、どのみち一寸やそっとじゃ倒せる相手ではないだろう。
 花村や里中さんの『シャドウ』達とは比べるべくもないが、ここに来るまでに戦ってきた《シャドウ》達とは一線を画する威圧感を放っている。
 世に言う「中ボス」的な存在なのだろう。
 ……正面きって戦うのは、ランスのリーチやその刺突力を考えれば得策ではない。
 距離をとって『ペルソナ』の魔法攻撃で攻めるのが無難な戦い方だろうか。

「花村、風の魔法をメインに使って。
 くれぐれも正面には回らないで。
 串刺しにされるから」

 こちらの指示に花村は頷く。

「了解! しっかしゴッツイやつだなぁ」

「恐らくはパワータイプだと思う。
 ヤツの攻撃範囲には十分注意して」

 花村と里中さんは、了解とばかりに頷いた。

「鳴上さん、私はどうすれば良い?」

「里中さんは……確か、氷の魔法も使えたよね?
 なら、それをメインに立ち回って」

「う、あんまり魔法攻撃は得意じゃないんだけどな……」

 こちらの指示に若干苦い顔をする里中さんに、重ねて説明する。

「確かに、里中さんが最もその実力を発揮出来るのは接近戦。
 だけど、あの《シャドウ》はさっきまで戦ってきた奴等とは違う。
 相手の手札も分からない内から闇雲に接近戦を仕掛けるのは危険。
 遠距離から攻めて、相手の出方を窺ってから仕掛けていこう」

「そだね。うん、分かった。
 鳴上さんの判断を信じるよ」


 やはり騎士の《シャドウ》は見た目通りのパワータイプだった。
 物理、雷、風、氷のどれもが弱点ではなかった様だが然りとて耐性があった訳でもなかったらしく、《シャドウ》の体力はジリジリと削れていっている。
 自身の攻撃力を上げる技を使ったりして強化された一撃を繰り出しても来たが、『ペルソナ』による防御で凌いだり、事前に動きを予測して回避したりする事が出来る程度には対処可能な動きだった。

 少々時間は掛かったものの、特にこれといった大きな負傷もなく騎士の《シャドウ》を倒す事が出来た。
 魔法攻撃も使った為多少の疲労はあるが、それも問題はない範囲に収まっている。
 二人に確認をとった所、二人ともこのまま天城さんの捜索を続ける事に合意したので、僅かながら休息を挟んでから再び捜索を再開する事となった。





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